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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第一部:ウソで創られた《今》 
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終章 始マリヲ嗤ウ声2

 兄が完全に出ていく姿を確認し、俺が一息入れたのを見ると、エンドの雰囲気ががらりと冷たいものへと変わった。


「どう? 痛みのない異世界の感覚は」

 

 皮肉混じりの問いに俺は、らしいなと思い苦笑する。


「まぁな……。これから考えるよ。いろいろと」


「とにかく、私からのアドバイスは刻兎くんの言う通りおとなしく通院することだな。今回は骨折の治癒はしてあげたが、あまり《想片》による治療はおすすめできない。理をずらして、回復スピードを上げるから反動がでかい。君が二日も眠り続けたのはそのせいだ」


「あっ、そう言えば……」

 

 そうだ。すっかり忘れていたが、フォルケルトに右足と右手を折られたんだった。

 ぱっと見ると、そこには包帯は巻き付けられてなく、動かしてもなんの支障もなかった。

 切り傷も、もっと酷いところがあったのにいくつかを残して消えさっていた。


「えっと……まぁ、その、なんだ…………ありがとな」


「ふん。礼には及ばない。君がいなければフォルケルトを倒せなかった。それに対する報酬だと思ってくれ」


「そう言えば、フォルケルトは……」


「国に帰ったよ。負けを認めてな。被害者も全員意識を取り戻した。彼はなかなか大量の《想片》を所持していてたから、ありがたいことに《籠寓漏》で消費した分以上のエネルギーが手に入った。君の治癒に当てたのはその端くれだ」


「今回はぼったくったんだ」

 

 何と比べて言ってるのかは言わなかったが、エンドには伝わったのだろう。溜め息をつくように、苦々しく笑った。


「三代目《魔女狩り》は、私が見せた終末を否定した」


「…………」


「そのときにね、彼は言ったのさ。『そんな終末なんか、俺が吹き飛ばしてやる』ってね。認められないからこそ出たもので、苦し紛れの言葉だったんだろうけど……私は期待してしまった。もう諦めていたのに、諦めきれない部分が彼に託してしまった。だから《想片》は受け取らなかったんだ。まさか、そのせいで彼が不名誉な目にあっていたとは。私の――失態だ」

 

 悔いるように目を伏せた。

 あぁ、こいつって、本当に優しいやつなんだな。《善意の魔女》と呼ばれていたほどに。それゆえに歪んだ目的を持ってしまったけどその本質は変わりようがない。


「なぁ、エンド……」

 

 俺が話しかけようとしたとき、開いていた窓から何か黒い影が飛び込んできた。


「うわっ! えっ……鳩?」

 

 病室に訪れた鳩は、俺の目の前に空中にホバリングした状態で、嘴に挟まれた紙を押しつけるように渡してくる。


「おっ、あっ、ありがとう」

 

 受けとると、鳩は――ぱんっと割れた。


「ええええええ!」

 

 風船のように弾けた鳩は、後も残さず消えてしまった。


「えっ、これ何が」


「気にするな。《道化》のちょっとしたマジックだ。《秩序》からの通信だな」

 

 訳のわからないことを言うと、エンドは放心してる俺から手紙を奪い乱暴に開封する。


「おっ、お前なぁ」


「ふむふむ。まぁ、あいつが考えたにしては、ましな方か」


「はぁっ?」

 

 エンドは俺に投げるように手紙を渡した。白い紙一枚。賞状のように金で縁取りがしてあり、真ん中に文字がドンと書かれている。


『深漸在須さま。

 あなたを正式に否理師と認定し、ここに二つ名を送ります』


 

 そんな言葉と共に綴られた文字。


夢裏(むり)反逆者(リベリアス)

 

 それだけがあった。


「何だ……これ?」


「《秩序》からの否理師認定書だ。《秩序》は全世界の事象を観測していて、新たな否理師が発生すると、そのデータをデータバンクに登録する。その通知書だ」


「否理師? 俺が?」

 

 エンドはこくりと頷くと、ポケットから何かを取り出して、俺の手のひらに置く。


「これは……」


「そう、君の《想片》だ」

 

 赤い、あの包帯のような布が、丁寧に丸く巻かれまとめられていた。


「否理師に必要なのは、《想片》と、《想片》を使いこなす業。君は未熟とはいえ、その二つをクリアしてしまった。君は違うことなく否理師だ」


「俺が…………」

 

 どくんと心臓が跳ねた。

 自分が異常な世界の住人の一人になってしまったという、怯えと戸惑いが胸に沸き上がる。しかし、感情とは裏腹に脳裏には、一つの希望が湧いた。

 これで、エンドと同じ位置に立てる。こいつの願いを打ち壊すことは、決して叶わない夢ではないと思えた。

相反する思いに揺らされていると、エンドはわざとらしく溜め息をついた。


「と、言っても、君は否理師としてはあまりにも未熟すぎる。わずか一日、しかもノウハウもなく到達したのは、歴史上君一人だ。その事実は敬服に値するが、私は君が《否理師》として活動するのは否定的な立場だ。痛みを全て抜き取ったり、業は身体強化しか使えなかったり……ずたぼろじゃないか」


「う……」

 

 いや、だって、加減よくわからなかったし。《想片》って意外とするする取り出せて、どうやって切るのかわかんなかったし。


「《夢裏の反逆者》なんて、大仰な二つ名に恥じる勢いだな」


「なぁ……これ聞くの何か嫌な予感すんだけど、一体どういう意味なんだ? 《夢裏の反逆者》なんて」


「私がつけた訳じゃないのに、わかるわけないだろ」


 ごもっともな話だった。

 エンドは、しかしクスリと笑った。


「でも、まぁ何となくわかる。命名役の《道化師》は私の古い知り合いでな。そうだな、反逆者というのは運命から――避けられない終末に対抗する者という意味だろう。夢裏は……終末をひっくり返すなんて無理だろってことかな」


「何だよ、それ! ひっでぇ」


「もしくは、夢裏とは夢の中と言うことを意味するから、夢の世界に訪問した少女の名を冠する君の名前からかな?」


「エンド……その《道化師》ってやつを教えろ。俺の名前を……俺の名前を……」


「もしくは――君に痛みがないことを揶揄したものか」


「……」


 エンドはそこで、浮かべていた笑みを消し、淡々と言った。


「君の体は二度と、痛みを感じることはない。人は痛みを感じることで夢と現実を区別する。だが、君にはもうこれが現実か確かめる術はない。君のいるここは、夢の中であるようじゃないか。夢に住むものが、現実に対して反逆する。相変わらず《道化師》は皮肉が好きらしい」

 

 エンドは少し苦々しい顔をして、そう言った。


「なんか、すっげぇ性格悪そうだな、その《道化師》って」


「まぁな。彼の話はやめておこう。君が否理師でいようとする限り、否応なしに彼に関わることになるだろうから。それも含めて聞いておきたい。君は本当に否理師になる気か?」


 エンドは真剣な表情で俺を見据える。


「常識がない、ルールがない世界に君は自ら飛び込むのか? 今ならまだ、引き返せる」


 その言葉に、自分の二つ名を知った時の感情が蘇る。

 相反する気持ち。でも、感情に逆らってでも答えはもう決まっていた。


「あぁ、俺の《目的》はもう言ったはずだ」


 それだけでは、足りないのか?

 また何かぐちぐち言われるかと身構えていたが、エンドも聞く前から俺の決断なんてわかりきっていたのだろう。ただ、肩を落とした。


「しょうがないな……私に君は止められない。それはもう思い知ったよ。だが、君のような未熟すぎる否理師にちょろちょろ動かれたら迷惑だ。だから私が基礎を教えてやる。二日後、退院したら覚悟しとくんだな」


「えっ、教えてくれるのか?」


「君は私の邪魔をしたいのだろう? 在須」

 

 エンドは俺の名を呼ぶ、切なそうな微笑みを浮かべて。


「君の言葉は、乾ききった私の心に響いた。でも、君の思いで希望を取り戻せるほど、私の諦めは軽いものではない。それに目的のためにとあまりに多くのものを利用しすぎ、犠牲にしすぎ、奪いすぎた。今回の事件だって、本当はもっと早く解決できたはずだったんだ」

 

 懺悔するように、訥々とエンドは語る。


「私は毎晩、街を見回り、事件を起こしているであろう否理師を探していた。だが、いつも後一歩で間に合わず、倒れた被害者を見つけることしかできなかった。この体の感知能力が低すぎるのもある。だが、いつまでたっても被害者が目を覚まさない理由には気づくべきだった。そうすれば、もっと早くフォルケルトを見つけられていたのに」

 

 エンドは儚く笑う。


「逃げていたからな」

 

 と、呟いた。


「私の《想片》を使えば、すぐに被害者の想いを回復させることもできたのに、私はそれをしなかった。《想片》を無駄使いすることを惜しんで……見捨てた。その罪悪感から、私は被害者がいる病院を連想することから目をそらしていたんだ。全てはそのせいだ」

 

 自分が早く気づけていれば、被害者はあそこまでに増えなかったし、俺を巻き込むこともなかったと、エンドは悔いていた。

 お前のせいじゃないと、俺がこうなったのは俺の意思だと言ったが、エンドは私のせいだと譲ろうとしなかった。


「なぁ、在須。彼女らと、君だけじゃないんだ。私は目的のためにと数えきれない人たちを巻き込み、犠牲にしたんだ。今さら立ち止まることはできない。私には《絶対終末》によってみんなを救うことしか、もう選べないんだ」

 

 強く自分の体を抱き締める。震えて、でもその潤んだ瞳で真っ直ぐ俺を見て。


「だけど、私は君の希望までは否定できない。君の希望を信じることはできないけど、私の本来の望みはそれだったから」

 

 終末の未来を打ち破ること。彼女がとうに捨ててしまった最初の願い。


「私はすでに引き返すことはできない。しかし君が望むなら、私はどんな力でも貸そう。期待はしてない、信じてもいないけど、君の望みが叶えばいいと。在須、私は心から思っている…………」

 

 最後の言葉は小さくて、今にも消えそうで――でも、俺の心に強く響いた。


「あぁ――任せとけ」


2ですよ!2なんです。

まだ終わってないです……


終章と銘打っておきながら、終章が長い(汗)


3で終わるはず。いや、終わらせます。

次回で1部終了~来週ぐらいからは2部スタートとなります。

その時に同時上映(?)で他にもなんか連載するつもりなので、よろしくお願いします。

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