表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第一部:ウソで創られた《今》 
22/134

五章  コワレタ願いへ失うココロ7

 もう悲鳴も何も聞こえず、《絶炎の園》も全て食い尽くされていて、不気味な静けさが辺りに広がっていた。

 エンドが疲れきった顔で、ふらふらこちらに近づいてくる。

 俺はうつ伏せの体勢から起き上がり、座り込んで聞いた。


「……フォルケルトは?」


「ちょっと脅かそうと思っただけだ。後でまた《籠寓漏》に言って出してもらうさ。《籠寓漏》は有機物は食べれないから」


「《籠寓漏》ねぇ……すごかった。あれは何だ? 異世界の魔物とかだったりして」


「私が作り上げた空想上の生き物だ。《想い》を骨組みに、《想片》のエネルギーで肉付けして創った、存在しない生物。理を弄って、そういう存在を一時的に産み出す業は《召喚》と言う。私は否理師の中でも、その《召喚士》の中で、もっとも多い十三の生物をも産み出す業を編み出している」

 

 無表情に淡々とエンドは言った。見下すような冷たい目が俺を威圧していた。


「あー…………長い説明、ありがとう」

 

 そう言いながらも、背中に悪寒が走る。

 ……何だ、何か怖い。

 得体の知れない恐怖を感じる。


「あー、っと……、もしかして怒ってる?」

 

 エンドはむすっとした顔で俺を睨み付けた。

 

「なっ、何だよ」


「…………君は、自分が何をしたのか、わかっているのか?」


「えっ?」

 

 俺の言葉にエンドはキッと目を向いて、手を振りかぶった。

 頬を打たれ、乾いた音が廃工場に響く。

 叩かれた方に顔が自然と向いたが――――痛みは全くない。

 まるで、夢の中の出来事のように。

 俺の呆けた顔を見て、エンドは泣きそうな声で言った。


「君はこれから一生、痛みを感じることはなくなった。それは……決して良いことではない。痛みとは、生の実感に繋がるものだ。そんな欠落した不完全な心で、君はどうやって生きていくんだ!」

 

 エンドは本気で俺を思って怒っていた。

 泣きはしない。歯を食い縛って耐える。

 何だかなぁ……。

 鈴璃の顔で、そんな顔すんなよ。


「なぁ、エンド――――俺は、これで良かったと思ってる」

 

 俺は天井を見ながら言った。

 エンドの顔は見ずに、だから俺は彼女がどんな顔で俺の言葉を聞くかわからない。


「後悔してない訳じゃない。むしろ、がっつりしてる。だけど――もし、お前をあの時助けなかったら、俺はもっと、今の比じゃないくらい後悔してると思う。だから、これで良いんだよ。俺はこれでやっと――逃げないでいられるんだ」

 

 そう言って、俺はエンドを見た。

 何故か視界がぼやけていて、結局、エンドがどんな顔をしているかわからない。

 それでも俺はしっかり見据えて、はっきりと口にした。


「お前に、俺の名前を呼ぶことを許す」


 エンドはあからさまに動揺した。


「――えっ、でも……私は鈴璃ちゃんじゃなくって……」


「そんなのわかってる。お前は偽物だ――――鈴璃の立場を奪って、今ここにいる」

 

 俺の厳しい言葉にエンドは押し黙る。

 本当は別にもう、エンドが鈴璃を乗っ取ったことには何も責めるつもりはない。あの事故はこいつと関係ないし、鈴璃の体を奪ったことだって鈴璃本人には申し訳ないけど、叔父さんは確かにそのおかげで救われている。

 だからと言って、俺の気が晴れるわけではないけど。今でも、鈴璃であって鈴璃でない エンドを見ていると、言い様のない感情に胸を圧迫される。

 だから、親愛のつもりで名を呼ぶのを許す訳じゃない。


「これは宣戦布告だ。お前の《目的》は俺が必ず砕く」


 決意を自分にも刻み付ける。


「俺が必ず――――《終末》を防ぐ方法を見つけてやる」


 そう言い切った瞬間――


「あれ?」と言う間もなく、体が傾いで倒れた。

 全身に力が入らない。意識が朦朧としてきた。


「バカか君は! 痛みを感じなくなっても、体は確実にダメージを受けているんだ。全身切り刻まれているのに、無茶なことするから…………」

 

 エンドの声も徐々に遠くなる。

 重たいまぶたをギリギリ持ち上げて、最後の力を振り絞って、俺に覆い被さっているエンドへと手を伸ばす。


「俺、頑張るから……さ。…………だから、まだ諦めないでくれ」


次回は番外編です。

フォルケルトの話ですので、少し気合が入ってます。


土日ごろか……もしくはそれ以前には投稿できたらなと思っています。

曖昧ですみません。


感想・ご意見お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ