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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第一部:ウソで創られた《今》 
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四章 チガウ夢のスガタ6

 薄汚れた蛍光灯が、ぼんやり辺りを照らしていた。

 床に敷かれた布団。衣類や雑誌、ゴミなどが広い部屋のあちこちに散らばっている。

 わっ、カップ麺のゴミ、汁が入ったままじゃねぇか。

 ここがどこかはわからない。むき出しのコンクリート、体育館ほどのがらんとした空間から、どこかの廃工場かもしれない。


 紙邱の外れには廃工場が点在している。もともとこの町は、その工場に勤める人、その家族の人たちが住むためにベットタウン化されることになったのだ。

 昨今の不況のせいで、工場は次々潰れ、危うくその計画は傾きそうになったが、近くに人口密度が高い都市があったためそこから人が流れ込み、ぎりぎり成功したのだ。

 廃工場は土地の所有者が蒸発したりするなどしていてどうすることも出来ず、過去の遺物として半ば放置されている。

 彼にとって、町外れすぎて誰も来ないここは格好のすみかとなっただろう。

 俺の目の前であぐらをかいて、カップ焼きそばを食べている――フォルケルト・ホプキンスにとって。


「……なんだよ。やらねぇぞ。お前にはポテチくれてやったじゃねぇか」


 じっと見ていたら、フォルケルトはそう言って焼きそばを俺から遠ざけるようにする。

 いや、取らねぇし。


「……ってか、お前、日本語うまいな」


 見るからに話が通じなさそうな顔をしてるのに、流暢に日本語を話されると困惑する。


「へっ、こんなん否理師にとって必須スキルだぜ。否理師はあらゆる法則を無視できる技を持つが、その技を使うためには様々な理を理解しておかなちゃならねぇ。同じものでも、言語によってニュアンスが違うものがあるから、最低でも三ヶ国語は身に付けておく必要がある。俺は、英、独、仏、中、日の五ヶ国語だな」


 自慢するわけでもなくそう言うと、フォルケルトは焼きそばを食べることに専念する。

 何気にすごいやつだった。

 チャラい服装から、勉強ではこいつに勝てるだろうと……。人は見かけによらないと言うやつか。

 俺はさっき投げつけられたファミリーサイズのポテトチップスの袋を掴んだ。

 納豆味、と明記してある。


「…………もらっといてなんだけど、俺、変わり種ってあんま好きじゃない」


 塩味がナンバーワン。

 コンソメはギリギリセーフ。

 納豆って……これは一般的に見てもアウトだろ。


「うるせぇ、贅沢言うな。人質なんだから、お前はそこでしおらしく座っていればいいんだよ」


「……」


 人質というのは本当だから、おとなしく黙ってポテチの袋を開ける。

 ……すごい臭いがした。

 これ以上踏み込む勇気がなく、なるべく遠くへ置いた。

 その時、ピリッとした痛みが走り、指が少し切れた。


「おい、気をつけろ。少し出ただけでも、陣は敏感に反応するぞ」


「……わかってるよ」


 俺は血が出た指を口に含め、小さく噛んだ。

 俺を中心として、炎が陽炎のようになって円を描いている。それをぼんやり見ているうちに何となくわかったのは、これはエンドが俺と唄華に使ったものと同系統で、しかし効果が全く違うもの。

 ここに連れてこられ目が覚めたとき、俺はとっさに立ち上がろうとして円の外に手を置こうとした。

 瞬間、腕が裂け、鮮血が飛び散った。

 切り裂かれた痛みにのたうち回ろうとすると、円に触れた体の部分が同じ目に遭う。

 パニックに陥る俺に、フォルケルトは包帯を投げて言った。

 

『それは、俺特製の陣だ。中にいるものが外に出ようとすると切り刻むようになってる。それでも強行突破しようとするバカには、幻だが、精神崩壊しかねないほどの幻痛を与える。廃人になりたくなけりゃ、おとなしくしてろ。別に、殺しやしねぇから』


 腕の傷はさほど深くなく、包帯できつめに縛ったら血も程なく止まった。

 フォルケルトはようやく焼きそばを食べ終わり、容器と割り箸を放り投げた。

 それを見て、俺はようやく口火を切った


「俺なんかを助けに、あいつは来るのか?」


 正直俺には、こいつの真意を図りかねていた。

『人類を滅ぼす』。それが本当にあいつがしようとしていることならば、俺がどうなるか構うことはないだろう。

 人質が機能するとは思えない。

 しかし、フォルケルトは笑った。


「来るよ。実際、路上で俺とお前が会った時も、俺はあのまま戦闘になってもかまわなかったのに、魔女は何だかんだと理由をつけて、お前をつれて逃げた。あれは明らかに、お前を巻き込まないためだろう?」


 確かに、言われてみたらそうだ。あの時は、混乱してて考える余裕はなかったけど。


「でも……何で、俺を」


「あぁ、別にお前だからって訳じゃなく、あの魔女がとことんいけすかねぇ偽善者だからなんだがな」


 くくっ、とおかしそうに彼は笑う。

 

「教えてやるよ。あの魔女の二つ名はな、つい三十年前までは《善意の魔女》だったんだ」


「……え?」


 いや、あの笑い方とか、わかりやすい悪者な感じなんだが。少なくとも善意から連想する、 優しさや、慈悲のイメージはない。

 俺の困惑をよそに、フォルケルトは続ける。


「貧困や病苦とかが蔓延している土地に行って、《想片》を用いて新たな井戸を掘ったり、作物を作りやすい様に理を弄ってみたりしていたらしい。見返りは一切求めず、ふらりと現れては超常の力で人々を助け、いつの間にかいなくなっている。それ系の伝説や伝承の元になっている節もあるらしい」


 気にくわないらしく、フォルケルトは顔を思いっきりしかめている。


「あの魔女がある種の『不死身』になったのもそうだ。記録にある上では、あいつは『みんなを幸せにしたい』――そんな幼稚で一人よがりな思いから否理師になり、おまけに人の役に立ち続けるために人間までやめた。全く、聖人ぶって気持ち悪ぃ」


「……!」


 衝撃的な内容だった。

 人を嘲笑うように語り、行動する今のエンドからはとても考えられない。

 フォルケルトは言う。


「俺はあいつを狩るために、若い女を狙った。魔女は代々、二十代ぐらいの女の肉体を選ぶからな。《道化師》から得た情報から、この街にいることはわかったが、なかなかみつからねぇから焦ったよ。まぁ、俺が来た目印代わりに、《想片》を得るついでに、わかっりやすい不可思議事件も起こしてやったし、いつかは出てくるだろうと思ってたけどよ。まさか、あんなガキだとは。見つかるわけねえわ」」


 フォルケルトはポケットからタバコを取り出した。銘柄から、そこらへんの自販機でも売られているやつだ。

 あのジッポで火をつけ、煙を燻らせる。見た目は、普通に喫煙しているだけで、何も変わりないように見える。

 だが、違う。

 タバコ自体は普通のものだが、あの火が――。


「それ、栄養剤みたいなものか? いや、それよりも滋養強壮剤かな?」 


 俺の言葉に、フォルケルトは目を見開く。


「すっげぇな。そこまでわかんのかよ。確かに、これは想片を使って疲労を和らげるもんだが……。感覚でわかるのか?」


「まぁ、な」


 自分でも気味悪いと思うが、事実俺の勘は以前にも増して鋭くなってる気がする。

 急にいろいろ見せられたせいか?


「おいおい、百年に一人どころじゃねぇよ。お前、まじで人間か? ここまでの感度してるやつの話なんか聞いたことねぇぞ」


「……俺はただの高校生だよ。何もできねぇ、無力な小市民だ」


 自嘲混じりにそう言うと、フォルケルトはヒューと軽く口笛を吹く。


「んじゃ、次は俺の質問の番な。お前と魔女の関係は? 魔女は《弟子》取らねぇ主義で有名だから《弟子》ってことはないだろうが」


「……おしゃべりなやつだな、お前。いいのか? いつここにエンドが来るかわからないっていうのに」


「ご心配なく。ここには結界が張ってあってな。ちゃんと決まったルートを通らないと発見できないようにしてある。魔女がどんなに異常でも、ここに辿り着くには明日の昼間まではかかるだろうぜ」


 ……つまり、俺が解放されるのはそれ以降ということか。

 幸いなことに親は旅行中だし、明日は日曜日だ。兄は用事があるって言ってたし、失踪とかで大騒ぎになる心配はない。

 そのことには、多少安堵する。


「それに、似たような年代と話すことなんてめったにないんだよ、俺は。学校ってのも言ったことねぇし、罪人はじじいばっかりで。だから、つい口が軽くなっちまう」


「お前、いくつだ?」


「ん? 二十四歳」


 ……もうすこし若く見えるな。煙草吸っていいラインギリギリかと思っていたけど。外国人は老け顔って聞くけど、関係ないのか。

 あまりにもフォルケルトがわくわくして俺の話を待っているので、仕方なく言葉を選んで訥々と語った。

 フォルケルトは興味深そうに俺の話を頷きながら聞いた。


「へぇ、お前の従妹の体が魔女に乗っ取られていたとわな。そりゃ、災難なこった。お悔やみさま」


 思ってもいないだろうに軽々しくそう言うと、フォルケルトは首をかしげて尋ねた。


「それにしても、なんで魔女のやつはお前の従妹なんかを選んだんだ?」


 俺は昨夜のエンドの言葉を思い出しながら言った。


「都合がよかったって言ってたぞ。俺の叔父さんが仕事忙しくて、監視の目が緩いからって」


「それのどこが都合がいいんだ? 多少なりとも、誰かの目を気にする必要がある立場ってことだろ。子供ならばなおさらだ。いいか、魔女は、乗っ取る体を選べる。想いのみを失って死ぬケースは、別に珍しい訳じゃない。他にも選べたのに、どうしてお前の従妹の体にしたんだ?」


「……俺が知るかよ」


 なんとか絞り出した声は、思ったよりも震えていた。

 エンドが鈴璃の体を選んだ理由。

 てっきり、偶然が積み重なった結果、たまたま死んでいた鈴璃にしたのだろうと特に疑問にも思わなかった。

 しかし、その前提条件は崩れた。

 選ぶことができたなら、なぜ鈴璃にしたのか。――どうして、あいつだったんだ。


「鈴璃が俺みたいな、その……何て言うか《才能》があったからとかじゃないのか」


「いや、お前のようなケースは二つとして、今現在、世界に存在していない。訓練すれば、近づけるものはいるだろうが、お前の領域まで辿り着けるやつはまずいないだろうな。もちろんお前ほどじゃなくても、見込みがあるやつとかはいる。俺がそのくちで、人より感度がいいのを見込まれて、師匠に弟子にしてもらった。でも……、あの体はそうでもない。せいぜい一般人レベルだ。魔女は経験でそれを補っているようだが、体は未成熟だし運動能力も発達途中。随分不便そうだよ」


 そう言えば、フォルケルトを探す時も、なかなか上手くいかず苦労しているように見えた。


「じゃあ……何で」


「それこそ、俺が知るか」


 判然としない面持ちで、頭をかくとフォルケルトは大きく息を吐いた。


「まっ、いっか。正直、魔女はちとヤバイ相手だったんだ。むしろ、殺しやすくなってありがたいことだ」

 

 殺す。

  

 鈴璃の姿をしたエンドを。

 

 脳裏をよぎるのはあの赤色。


「……あいつは何をしたんだ? 人類を滅ぼすとか言ってるからか? でも、それだけで殺すって……」


「あぁ、まぁ確かに、言ってるだけでは《罪人》にはならなねぇけどな。でも、あいつは《秩序》を破った。それだけで、殺すには十分な理由だぜ なぁ、秩序がなんなのかわかるか?」


 そのフォルケルトの問いに首を振ると、彼は気だるげに、でも例の人を小馬鹿にした笑みを絶やさず話し始めた。


「《秩序》ってのはなぁ、簡単に言えば全ての否理師を統括している組織だ。と、言っても、俺たちは別にそこに縛られている訳じゃない。元々否理師になるやつは、何らかの目的を持っていて、それを成就させるために全てを懸けているやつばかりだ。誰かの言うことを聞くたまじゃない。それこそなんでもする奴らばっかりだ」


「……無茶苦茶だな」


「そんなこと言うなよ。なりふり構ってられない奴なんて、否理師じゃなくても山程いるだろ。だが、そいつらと違うのは、法律だろーが何だろーが、否理師を縛れないってことだ。ニ百年とちょっと前、ある否理師による大災害があったんだが、誰も止めることはできなかった。それを教訓に《秩序》は創られ、ただ一つの事柄だけを禁忌とすることで、最悪だけは避けることにした」


「……何を?」


 わかっていた。大体想像できる、ここまで聞いたなら。


「禁じるって、一つしかないだろ。《殺人》だよ。もちろんこれには、想いを全て奪って殺す、否理師特有の殺人も含まれるぜ」


「じゃあ、エンドも……」


「もちろん。あいつは、人殺しだ」


 予想通りの答えに、俺はうすら寒い気分になった。

 フォルケルトは煙を燻らせる。


「これを犯した否理師は、《罪人》の汚名を被り、そして――正式な《決闘》を行えるようになる」


「《決闘》……。お前がエンドに向かって言ってたな」


「あぁ。これも《秩序》が規定したんだよ。昔から否理師同士で行われていた闘争なんだが、あまりにもなんでもありで、周りに多大な影響が出るからから、《罪人》相手にしか挑めないことになってな。まぁ、正義をひけらかして、正々堂々相手をいたぶれるんだから、俺はこのルール悪くねぇって思ってるがな」


「そんな《決闘》をするメリットがあるのか?」


「勝った方は、負けた方の所有する《想片》を全て得ることができる。《罪人》は大抵、大量の《想片》を持ってるから、いい稼ぎになる。何をするにしても、否理師にとって《想片》はあればあるほどいいからな」


「でも、人を殺したやつなんだろ。そんな、簡単に倒せるものなのか?」


「そこが、この《決闘》のみそだ」


 フォルケルトは、俺にジッポを向ける。反射的に身をすくめた俺を、ハハッと嘲り笑う。


「否理師の存在理由に関わるから、《秩序》は《殺人》を禁じたとしても、それを破ったからと言って一方的に裁きをすることはできない。だって俺たちは理を――ルールを否定するものなんだから。んで、しょうがねぇから、《決闘》って言う名目で《罪人狩り》をするしかなかった。その代わり、《罪人》に圧倒的に不利なルールを定めてある」


 ルールをやけに強調して言い、フォルケルトは語る。


「《罪人》は相手を殺せないんだよ。殺したら《想片》を手に入れられないルールになってる。相手を生かしたまま、降参させないといけねぇんだ。一方、《罪人狩り》をする方は、《罪人》を殺せばいいだけだ。手加減する必要がない。もう追われるのがめんどくさいとかいう理由で殺す奴もいるが、そんな《想片》だけを消費して、メリットが何もないことをするやつはほとんどいない。ほら、状況は圧倒的に俺に有利だ」


 フォルケルトはタバコをその場に捨て、靴で火を踏み消した。

 俺は、釈然としない思いで聞く。


「それって、お前も人殺しってことになるだろう。それはいいのかよ」


「いいんだよ。俺は、《魔女狩り》だ。《罪人》を処刑することを目的とする否理師。《想片》、目当てではなく、それこそが目的と言う否理師の中の変わり種。《罪人》を殺すことこそが、《魔女狩り》の存在意義。人殺しを殺して、何が悪い? 裁けない《罪人》を処刑する死刑執行人に、何の罪があるんだ?」


 そういう問題じゃないだろ。

 そう言おうとして、そういう問題なのかもしれないと思った。

《罪人》を生かしておけば、また殺人を犯すかもしれない。

 否理師は、道理やルールに縛られない、法律で裁くことができない存在。

 それをあえて裁こうとするなら、滅ばす以外の選択はないかもしれない。

 だけど。

 だけど…………。

 俺は、エンドと戦っていたときのフォルケルトの言葉を不意に思い出した。


「お前がエンドを狙うのは、お前の師匠の仇って言うこともあるのか? それって、お前の師匠をエンドが殺したってことか?」


「ん? そんなわけねぇだろうが。魔女が《罪人》になったのは、三十年前だ。俺、まだ生まれてねぇし。それだったら、師匠に会えてないだろ」


 フォルケルトはジッポをポケットから取り出す。そして、懐かしそうに語り始める。


「師匠はニ代目の《魔女狩り》だった。俺を弟子にしたとき、師匠はもうジジィだっだが、そうとは思えないくらい頑健とした気迫に満ち溢れた人だった。これは師匠から受け継いだ――《魔女狩り》の炎の形状をした《想片》を入れとくための《器》なんだ。初代から引き継がれている、由緒正しい品だ」


 フォルケルトはジッポに繊細に彫られた絵を俺に見せた。十字架に火が絡み付こうとしているような絵。


「否理師にはそれぞれ目的がある。初代《魔女狩り》は、《罪人》を狩るために否理師になったと聞いている。師匠もその《魔女狩り》として、《罪人》を狩っていた。だが――《魔女狩り》の名は俺が弟子となったとき既に貶められていた」


 途端、フォルケルトの目に激しい憎しみの色が浮かんだ。


「三十年前、師匠は《罪人》となった魔女に挑んだ。あいつは、師匠を負かした。それはいい。勝敗なんかどうでもいい。だが、あいつは勝ったくせに、何故か師匠の《想片》を奪わなかった。情けをかけられたと周囲は蔑み、《魔女狩り》の名声は地に落ちた」


 フォルケルトは唸るように言う。


「師匠はその事を気に病んでいた。《罪人》狩りにおいて驚異の八割の勝率を上げる、本当にすげぇ人だったのに、なぜあんなに惨めな最期を迎えなきゃいけなかった。嗤われたまま、逝くような人じゃ、絶対なかった」


 フォルケルトは、苦しそうだった。

 そこまで想えるほど、尊敬できる恩師だったのだろう。

 そして、彼の無念の思いは弟子に引き継がれ――結実しようとしている。


「魔女がまた再来した噂を聞いたのは、師匠が亡くなって、俺が《魔女狩り》を継いでしばらく経った後だった。あのクソ魔女は、俺がぶち殺す。そして、師匠がずっと望んでいた名誉をいまこそ挽回するんだ」


 そう言いきった後、フォルケルトは少し罰が悪そうな顔をした。話しすぎたとでも言うように、突然黙りこくってしまった。

 俺も聞きすぎて、居心地が悪い気分にかられたが、どうしても聞きたいことがあった。


「……最後に、もう一つだけ聞いていいか?」


 フォルケルトが緩慢な動作でこちらを振り向いた。


「あいつは――エンドは、誰を殺したんだ?」


 俺は震える声を抑えて尋ねた。フォルケルトは、ヘッとまたあの嘲りの笑みを見せた。


「三十年前だ。魔女は、一部の有力な否理師を集めて、《人類を滅ぼす》と、そんな突拍子もない自分の目的について語った。そして、それを止めようとした奴らをその辺りの地域もろともに壊滅させたんだよ。確か――死者は数百人に及んで、生存者は三人しかいなかったらしいぜ」


「…………!」


 想像以上のエンドの過去に、言葉が詰まる。


「何で……? 何があいつにそこまでさせるんだよ」


『人類を滅ぼす』なんて、そんな馬鹿げたことをなぜそこまでして成そうとするのか。


「俺が知るかよ。……ただ、ある記録によると、魔女が四百年前から主張しているある説が関係しているらしいがな」


 フォルケルトは、馬鹿馬鹿しいと首を振った。


「それこそ、俺からしてみれば妄想の域だよ。あいつはもう狂ってる。偽善者ぶるのに疲れたんじゃねぇか?」


「その説って、何だ?」


「いいか、あんまり真面目にとるなよ。じゃないと、俺、笑っちまうぜ」


 そして、フォルケルトは告げる。

 ある一つの、未来を。



「数年後、世界は滅びるんだとよ」



「――!」


「まったく、呆れた話だよな。そんなつまらない妄想で、人を殺してんだから」


 フォルケルトは笑った。笑おうとした。

 しかし、その笑みはすぐに強ばる。


 突如、爆発が起こり、俺たちがいる反対側の壁が全て吹き飛んだ。

 もうもうとした粉塵で視界を遮られる。夜明けが近い空を背景に、一つの小さな人影が見えた。


「おいおい、嘘だろ……」


 フォルケルトの、掠れた声がした。

 視界が徐々にはれていき、人影は凛として言った。


「さぁ、《魔女狩り》。闘争を再開しよう」

 

 エンドは、静かに刀を構えた。


やっと本題に入ってきました!

あとは走るだけです!!


もうすこしだけ、お付き合いお願いします。

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