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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
最終部 全てのオワリはその手の中に
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第一章 シノブ君へのオモイ6

 どこもかしこも人間と、人間が作り出したものばかりだなと思った。

 海の底のまだ人類が到達していない奥深くにも、人間が産み出した物が転がっていて、否応なしに人の存在が感じられた。

 唯一の例外は、何もかもを溶かしてしまうマグマの中だけだった。

 こうして、巨石の上に寝転がり、満点の星空を見上げていても、そこを無粋に飛行機の光が裂いていく。

 情緒に欠けると、人間の節操のなさにため息をつく。

 

 ーーでも、別に嫌いではないんだよ。


 なぜ、世界を終わらせるのかと問われた。

 人を見捨てたのかと嘆かれた。

 自意識過剰だ。

 私が終わりにするときに巻き添えになるのは、人間だけではない。今の世界を成している理が終わるのだ。植物も動物も星も時間も何もかも終わる。人間だって、例外ではない。それだけの話なのに。

 自分達のせいで、なんておこがましいと思う。

 私が選んだから、そうなる。

 ただそれだけの単純な話だ。

 

 夜空に瞬く星を見ていると、最初を思い出す。

 最初に私がいた。

 そこから理がはじまった。


 私という意識はここに偶然的に生まれた。

 私が生まれる前にはここに理などなく、時間は進んだり巻き戻ったり、空間は唐突に膨張し収縮し、私にも形ができたり失ったり、無秩序なものだった。

 だが私という、仕組みを作ることができるものが唐突に生じた。

 どうして? なんて意味はない。

 ランダムが繰り返された果ての、偶然にすぎない。

 たまたま私が発生し、この仕組みの始まりに繋がっただけ。

 当時の私にあったのは意識だけで、思考なんてものはなかった。

 ただ手に持っていたから、その能力を行使しただけ。

 無理矢理例えるのであれば、生まれたばかりの赤子が外に出された瞬間泣き出すように、私は手の中にある力を振るった。

 赤子が自分の手足をばたつかせるように、能力を手当たり次第に使った。

 仕組みを作り出したばかりのここは、でたらめな作りのせいで更に混沌と化していただろう。だが、いずれ赤子がどのように手を使えば物を持てるのかを学ぶように、どのように動かせば歩くことができるのかわかるように、私も能力の最適な使い方を学んでいった。

 そして、私はずっと力をふるい続けることよりも、手を離しても勝手に世界が進むように整えることを選択しだした。

 何かを作ろうと思ったのではない。

 人が立つときに、わざわざどの神経を使い、どの筋肉に指令を与えるか考えることがないように、自動的に物事が動くように最適化しただけだ。

 手当たり次第ではなく、自分が何をしているのか把握しながら能力を使用するようになった。

 そこで繰り返した幾億回の試行を止めることなく進めていたが、ある時行き詰まった。少しでも目を離すと時間が止まってしまうからだ。

 世界の基盤を整え、私の手がなくとも勝手に回る仕組みをつくったはずが、その部品である歯車はすぐに回転を止めてしまう。

 歯車には意識がないから、時間を進ませようという力も持たない。

 その事に気がついて、歯車の中に快・不快を織り込んでみた。

 歯車は自分を存続させる行為に快感を得るようになり、一方自分を損なう状況は避けるようになった。

 かちりとやっと何もかもを嵌め込んで、全てが私の手から離れて、やっと眠りについた。

 することがなくなったから、ただ眠ることを選んだ。


 眠っていた間のことを、私は認識していない。

 でも、理の全てを把握しているために知っている。

 歯車は快・不快の機構を複雑化させた。

 複雑な機構はより多くのエネルギーを生み、生存以外の目的にも使用できるようになった。

 余剰なエネルギーそのものである、想い。

 私がたたき起こされたのは、その想いを使って理に干渉する否理師が生まれたからだった。


 ErrorErrorError 自動再読み込み システム復旧

 

 といっても、理には自動修復機能があるため、乱されたとしても一時的で限定的だ。いくつか触れられたら理の崩壊を招くものもあるが、それへの干渉は私しかできないよう制限しているため何も問題がない。

 それよりも自分達より上位存在がいると考え、私にアクセスしようとしてくることのほうが煩わしかった。

 神と呼ばれて、崇められても祈られても、大した興味は湧かなかった。

 だってそれらは私が楽に仕組みを回すために作った歯車に過ぎないのだから。


--村に水をと乞われた。 

--戦争に勝利をと願われた。

--愛する人を生き返らせてとすがられた。


 どうして私がそんなことをしなくてはいけないの?

 

 私から返すものはそれだけだ。


 あまりにもしつこかったため、とうとう「全知」を放り捨てた。何も知らない私であれば、呼び出そうとする声を聞くことができなくなるから。

 そうしてまた私は、適当な場所に居座って惰眠をむさぼり、穏やかにまどろむことにした。

 居座った先が、後に魔女となった少女と出会うきっかけとなった鏡だった。


 少女は私に願わなかった。

 だから退屈しのぎに相手をしてやった。

 少女は私の願いを聞いてきた。

 

 私の願いってなんだ?


 散々乞われ望まれ祈られてきたけれど、私自身に願いはなかった。

 世界だって願ったからこうなったのではなく、手に持っていたものを何となく効率よく動くようにいじっただけで。

 だから、世界を作った後は眠っていた。

 叩き起こされた後も、特にしたいことはないから、まどろみの中にいることを選んだ。

 私はただここにいるだけだ。

 ずっとこの先も。

 私は存在し続けるだけだ。


 少女は私に願わない。

 だけど少女の中には願いばかりがつまっている。

 それは他人のために向けられたものばかりだけど、そのために少女は動き、そのために少女は生きている。

 その願いがあるからこそ、少女はここに在るのだと胸を張った。


 私はただここに在るだけだ。

 理由はない。意味はない。

 世界を作ったことも、重要なことではない。

 目の前にブロックがあったから積み上げただけ。

 崩すことに飽きたから、崩れないように積み上げただけ。

 だから、壊すことだって何の感慨もなくできるのだ。

 でも、それで?

 壊しても壊さなくても一緒だ。

 私はここに在るだけだ。


『神様の望みはなんですか?』


 死の間際にも関わらず、少女は問う。

 虫の息なのに、自分の願いを叶えようと貪欲に私へ手を伸ばす。

 何も答えない私に、繰り返し繰り返し、求めてくる。


『私はあなたを幸せにしたいのです』


 私の幸せ。

 そんなの。

 わからない。


 私は伸ばされた手を無視して、無造作に少女の顔を掴み上げた。

 そんなに望むのならば、その願い叶えられるまでただ在り続けろと。

 

 初めてだった。

 今までも作ったり、壊したりしたけれど、こんな何かに干渉するように理を壊したことはなかった。

 

 一度やってしまうと、二度目にそれをするまで大した時間はいらなかった。

 あなたのおかげで。あなたのおかげで。あなたのおかげで。

 私は自分の願いを見つけて、自分の願いのため、自分が積み上げたものを壊せた。

 だから、全てをあなたにあげるから。

 

 素敵な終わりを私に頂戴。

 

 


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