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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第一部:ウソで創られた《今》 
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四章 チガウ夢のスガタ4

 もうだめだと思った瞬間、目の前に満ち、こちらに雪崩れ込もうとしていた炎が、急に一転収縮して俺と唄華を避けた。


「えっ?」


 未だ動かない体、なんとか視線だけは炎を追い、あの俺たちを封じていたビー玉に炎がすべて吸い込まれていくのが見えた。五秒とたたず全ての炎が飲み込まれてしまい、役目を果たしたかのようにビー玉はパリンと割れた。

 さっきまでの光景はなんだったのか、どこも焦げ付いておらず、窓ガラスが割れて散らばっているぐらいで他は元と何の変わりない病室の姿があった。

 唖然としてしまう状況だったが、男はその暇さえ与えなかった。


「あっれー? 全員無傷かよ。そりゃ、すぐに殺しちまうつもりはなかったが、これでも結構本気だったんだけどよ」


 いつの間にか、枠だけになった窓に、先程エンドがそうしていたように若い男が腰掛けていた。軽薄に笑うその男は、紛れもなくあの男だった。


「ようこそ、《魔女狩り》」


 エンドが少しも笑っていない目で、微笑んだ。窓に一番近いところにいたと言うのに、怪我一つ負った様子はない。


「ここに来てくれたということは、私と遊んでくれるのだろう? だったら、お互い正式な否理師としての、《挨拶》をしないとね」


 エンドのその言葉に、彼はニヤリと笑い、誇るように答えた。


「俺は四代目《魔女狩り》、フォルケルト・ホプキンス。罪人、《終末の魔女》に正式な《決闘》を申し込む」


「私こそが《終末の魔女》の名を冠すもの、この精神(こころ)に名はない。若き《魔女狩り》よ、そ

の心意気に敬意を表し、その《決闘》受けて立つ」 


 エンドが応じると、フォルケルトはズボンのポケットからあの銀のジッポを取り出す。アンティークなのか凝った彫り物がしてあるそれを、まるで銃口を向けるかのような物々しさで、エンドへと向ける。


「焚刑の覚悟はできてるよな?」


 挑発を誘うような言葉。だがエンドはただ嘲るように笑う。


「さぁね?」


 それが戦いの火蓋を切った。

 フォルケルトが手にしているジッポをカチッとすると、通常炎が現れる場所から、ドンッという銃声のような――いや、 それは銃声そのものだった。

 通常炎が現れる場所から勢いよく放たれたのは――弾丸。

 正確には、炎が音速を超える速さで対象へと向かっている。もちろんこの場合は、エンドへと。

 しかし、エンドの対処はその弾丸よりも早かった。直ぐ様、昨日俺を脅したときの日本刀をビー玉から精製し、炎を薙ぎ払うように振るう。

 長いコートと、束ねられた髪が激しく揺れる。

 小さな炎は、その太刀のスピードによる風に簡単に打ち消された。


「はははっ、そうこなくっちゃなあ!」


 何度もジッポをすり、炎そのものである弾丸を連射する。エンドはそれを正確に、一部の狂いもなく切り伏せる。

 戦いが激しさを増し、フォルケルトの弾が狙いを外れだし、花瓶や床に弾丸が逸れるようになった。

 俺はハッと、我に帰り、未だ呆然としている唄華を強引に伏せさせる。

 いつの間にか、体は自由に動くようになっていた。おそらく、あのビー玉が炎を吸い込んだ際、粉々に砕けてしまったからだろう。

 伏せた唄華を庇うようにしていると、唄華が「深漸くん、あっち」と部屋の隅の方を指差したので、俺たちはその体勢のままずるずると移動する。

 その間にも、戦いは続いていた。

 弾丸は既にカーテンに穴を開け、花瓶を割り、部屋の中は酷い惨状とかしていた。しかし炎で作られた弾丸なのに、どこにも火は燃え広がってなく、ただ当たった箇所にわずかに焦げがある程度だった。


「ねぇ、深漸くん。あの女の人、大丈夫かな?」


 唄華が俺の服をつかんで、囁くように言った。

 俺は腰を浮かし、ベットの様子をそっと覗く。


「……大丈夫、みたいだ。何かバリアみたいなもんが張ってある。エンドか、フォルケルトのどっちが張ったのかはわからねぇが」


「そっか……。えへへ、深漸くん」


 唄華は甘えた声を出して、とても嬉しそうに言った。


「さっき、庇ってくれてありがとう。やっぱり、深漸くんはかっこいいよ」


「……お前、今の状況わかってるのか?」


 目の前で異常な力を持っているもの同士が殺しあいを繰り広げている。真っ暗な病室を、赤い光が幾度も走っている。

 その最中で、そんなこと言い出すなんて――狂ってる。


「まぁ、始めはビックリしちゃったけど、なんか現実感わかなくて、いまいち本気になれないんだよね~。むしろ、深漸くんが助けてくれたことの方が大切だから」


 そんなことを、唄華は平然と言う。

 ……そうだな、こんなやつだから。俺は、ここに唄華をつれてこれたんだ。


「あっ。くそっ、待ちやがれ」


 突然、弾丸が放たれる音が止み、フォルケルトの焦った声がした。

 思わず立ち上がると、枠だけになった窓からフォルケルトが飛び降りていくのが見えた。

 何かを追って。

 その何かは明白だった。魔女の姿は、荒れ狂った部屋のどこにもなかった。そして、外の駐車場から聞こえる爆音。


 戦いは続いている。

 俺たちを置いて。


「馬鹿馬鹿しいにもほどがある……」


 ギリッと嫌な音が出るほど、奥歯を噛み締めた。

 ……何だよ、これは。

 俺は、一体ここに何をしに来たんだ。

 喧騒が遠退き、混乱から急に現実に引き戻されると、さっきまで興奮していた頭がさっと冷えた。

 完全なる蚊帳の外。フォルケルト、そしてエンドさえも、俺たちを一切眼中に入れてなかった、

 理解できない現象。従妹の姿をしたモノが、非日常のなかで刀を振るう異常な光景。目の前で行われる現実(リアル)な殺し合い。

 今更ながら身がすくむ、もうこれ以上、関わりたくない。

 やっと手に入れた決意も、誓いもすべて投げ出して、逃げて――。


「行こう。深漸くん」


 ふわりと、唄華が俺の手を握る。


「一緒に行こうよ。そのために、来たんだから」


 向き合うために来た。

 過去から、後悔から、迷いから、罪から、恐れから、非日常から、悲哀から、誰からも何からも逃げないと決めたから、

 全てを――俺は知るため来た。


「――あぁ」


 俺は唄華の手を引いて走り出す。

 唄華は手を握り返されたことに照れて、くすくす笑っている。

 そう、俺はこいつをこのために連れて来たんだ。

 どんなときにも、決して変わらないこいつに、俺の弱さを思い知らせてもらうため。

 向かい合うために――逃げ道を塞ぐ必要があったから。


ま~だ主人公は活躍しません。

私はこれでも彼に必死に訴えているのですが、すぐに立ち止まっちゃう人なんですよ!


自分の技術のなさを暴露しているようなものですが……


このままにはさせないので、もうしばらくお付き合いお願いします。

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