第一章 シノブ君へのオモイ3
--最後に、このほしを巡ろうと思った。
私が生み出した果てを。
結末を見ようと思った。
「なぁ、そこのお嬢さん」
呼び止められて振り返ると、人間がいた。
背が高い男は、私を見下ろす。
「観光客だよね? 中国人? もうすぐ夜になるから女の一人歩きは危ないよ。まだここらへん見て回るようだったら、俺と一緒に行かない?」
街には夕焼けが差し込んでいて、伝統的な煉瓦造りの街並みを照らしている。
子供たちが耳障りのする音で叫びながら家路につく。
「私はどこにも行かない。もうここを去る予定だから」
男と同じ言語で流暢に返すと、彼は少し驚いたようだったけど、すぐに口角を釣り上げた顔を私に向ける。
「ここから少し先にあるBarが俺の行きつけなんだけど、今日はミニコンサートやってるんだ。この街に合うシックな音楽で」
私は目を閉じた。
私は目を開いた。
レンガ造りの街は消えて、バラック小屋が立ち並んでいる通りが目に映る。
こちらでももうすぐ夜が来るからと、大人も子供もせわしなく準備をしている。
骨と変わらない腕をした人間が、ほとんど具のないスープを子に渡す。
子は無邪気に笑って、無知のまま全てを飲み干した。
その横を私は通り過ぎる。
またあんな男のような人間に声をかけられたら面倒だから、今度は私の姿が誰の眼にも映らないように弄っているけれど。
騒がしく、煩わしく、忙しない、人間が作る通りはあまり好きじゃないけれど、あの頃を思い出す。
彼を想い返す。
鮮明に残り続ける記憶を、何度も繰り返す。
そうやってずっと、彼を待ってきたのだから。
でも、思い出してくすりと笑ってしまう。
彼ではない、深漸在須との記憶に。