表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
最終部 全てのオワリはその手の中に
126/134

第一章 シノブ君へのオモイ1

 墓場というのは、どうしてこうも寒々しい場所なのだろうか。

 灰色の石がずらりと並んでいるからだろうか、人の賑わいがないせいだろうか。

 それとも寒いと思うのは、俺の気持ちの問題なのだろうか。

 たくさんある墓石の中の一つ、尾城儀家と彫られたものの前に立つ。

 昨日叔父とエンドが来ただろうから、花は持ってこなかった。予想していた通り、墓石はきれいに磨かれて、あの子の母が好きだった花が生けられている。

 とりあえず線香だけは持ってきていたから、マッチで火をつける。二本の線香からは細い煙が出て、胸をひっかかれるような匂いがする。

 手を合わせながら思う。

 彼女たちのことを。

 ここに入れなかった、あの子のことを。

 誰にも悼まれない、あの子のことを。


「尾城儀鈴璃……」


 ずっと来ようと思っていたのに、俺は躊躇って、言い訳をして、逃げていた。

 鈴璃の生に不信を抱いていたころは、俺は現実に気づくことを恐れた。

 鈴璃のためにエンドを生かそうと決めた後は、俺は後ろめたさから向き合えなかった。

 でもようやくここに来ることができたのは、一つの決心のおかげだった。


「俺はこの気持ちをずっと背負っていくと思う。ずっと引きずっていくと思う。でも、だからこそ次は、俺の大切なものを救いきってみせるよ」


 この言葉は自分への誓いだ。

 だって、あの子とはもう二度と会えない。

 もう、どこにもいない。

 それが、この世界の理なんだから。


 どれくらい長く、手を合わせ、目をつぶり、祈っていたのだろうか。


「あ、あ、ああああ、ああああああああああああ」


 一音だけが何度も繰り返される。

 その奇声に振り向くと、顔を真っ赤にした彼女が拳を握りしめている。


「あああああああああああ、ありありありありありありありあり」

「…………」

「あありありありありありああああ……りす! ……くん」

「はい。よく言えました」


 頭をぽんぽん叩いてやると、ぼんっと何か爆発音がした気がする。

 膝から崩れ落ちそうになる彼女を支えるべく、とっさに抱きとめようとすると「ぎゃあ!!」という悲鳴を上げて、突き飛ばされた。


「甘いよー。イチゴより、落雁よりも甘いんだよー」


 ぷるぷる震えて泣き出しそうな彼女が可愛い。

 もっと頭撫でたり、褒めたりしてみたい。

 でもそれ以上したら、爆発して地球から去ってしまいそうだから堪える。


「あり、ありありすくん……? なんか、思いが通じ合った瞬間から甘すぎませんか? 辛いんですよ。今までと別人過ぎて私はどうしたらよいのやら」

「今まで通りでいい。俺はいつものお前が好きになったんだから」

「……うぎゃお」

 

 あ、石化した。

 阿波踊りの一歩手前みたいなポーズで固まった。

 いけないとはわかっているが、ついつい言いすぎてしまう。やっと素直に思いを言い合えるようになって、はしゃぐ自分がいる。

 とりあえず、彼女が止まっている間に、ざっと墓周りの片づけをしてそのまま帰ることにした。

 もう夕方だ。今日は冬の空にしてはいい夕焼け色をしていて、ぐっと気温が低くなったのを感じる。


「帰るぞ」


 一応、彼女に声をかけてから前を通り過ぎる。

 はっと正気に戻った彼女は「ありありありあり」と、壊れたみたいに繰り返しながら俺を追ってくる。


「手! 手をつなぎませんか?」

「……」

 

 差し出された手を無言で握る。

 その手は冷たかった。


「ちゃんと手袋して来いよ」

「だって、あああり……すくんだってしてないし! 直接体温感じたいんだよ」

「名前は呼べないのに、そういうことはさくっと言えるんだな」

「ううう。なんか日が経つにつれて呼ぶことが恥ずかしくなってきたのです……」


 俺に翻弄されている様子の彼女は新鮮だった。

 だから俺もつい、やってしまっているところがある。


「……俺があそこにいること、よくわかったな」

「えっとそれはもちろんGP……いやいや愛の力でね!」


 科学の力だった。


「珍しい、いや初めて見たなとは思った。あ……りすくんが、あそこにいるのを」

「そうだな……」

「何かお話したのかな?」

「話なんかできないよ、あそこにはもちろん、もうどこにもいないんだから」


 死ぬとそこで終わる。

 世界の理だ。

 神様が決めたルールなのだから。


「生き返ることも、生まれ変わることもない。それが決まりなんだから」

「……そっか」


 ぎゅっと彼女は俺の手を強く握った。


「否理師らしくなったね」

「そうなんだろうな」


 夕焼けが、赤い色が目に映る。

 脳裏にちらつく、映像の断片。


 あの日から、不意に思い出す。知らない≪痛み≫。

 




 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ