覚めるもの4
ほんの四、五日の間のことだった。
私が薬の買い出しのために、少し町から離れていた間のことだった。
「あいつと、夫婦になるんですか?」
「そういうことになった」
いつものように私を迎え入れてくれた神は、いつもと違う喪服に身を包んでいた。
突然の事故でおみきの父が三日前になくなったこと、そして鈴太郎の申し出を受けることにしたと。淡々と告げた。
「と、言っても、まだ喪中ではあるから。正式に結納をするのは、しばらく先になりそうけれど」
「どうして、突然」
「気が変わったのよ」
神は自分の美しい黒髪を指先で弄びながら言った。
「彼は私に気づいてくれた」
「……」
「だから、それならそれでいいと思ったの」
その瞳はどこか遠くを見ていた、いつものように。
しかし、その遠い景色の中にきっと彼を見ている。
何故だか、そう感じた。
よかったな、鈴太郎。
私は初めて見る神の様子に戸惑いながら、心の底から祝福した。
神はあなたを選んだ。
何故だか、少し胸が痛んだ。
これは私が自身の力不足を悔しく思ったがための痛みだ。そうに違いない。
「おめでとうございます」
神に心からの祝福を。
あくまで人の幸せだとしても、きっと彼なら与えてくれる。
神は何も言わずに微笑んだ。それはいつもの笑みとは違った。
おみきとして作った柔らかな笑顔でも、今まで二人きりの時にだけ見せた嘲笑が混じったものでもない。
どこか、はかなげに見えた。
「ありがとう」
初めて神の口から聞いた言葉が、今にも消えてしまいそうに聞こえるのは、なぜだろう。
嫌な予感が消えない。
何を感じてか、私は心底から怯えている。
振り切るために、未来を見てみようと思い立つ。
きっと二人の先には――穏やかな、幸せが。