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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
神の居ぬ間に
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微睡の沼3

「これが私と神の出会いと別れの話だ」

「先生。ずっと口を閉ざしてきたのに、どうして今になって……」

熱のせいで頭が痛く、目もかすむ。しかし、ぼんやりと見えるのは不安気に自分を見つめる弟子の姿だった。

立派な否理師となり、自身の夢に向かい始めたばかりの活き活きと輝く彼は自分の誇りだ。だからつい語りたくなった、自分の師について。

「内緒だよ。私と君の間だけのね……」

さてどこまで話したっけ。

「そうだ。そうだった。目を覚ましたらね、鏡がなくなっていたの。私はあわてて探したのだけれど見つからなくて、代わりに目に入ったのは息絶えた自分の体だった。私は神の術によって《想い》を固定化され、いわば幽霊≪ゴースト≫のようなものへと変わっていた。自分の状況に混乱して、慌てて社から飛び出て村のみんなのもとに行ったけれど、誰も気づいてくれない、誰にも見えていないんだって、自分の状況に気づくのにだいぶ時間がかかった……。それからは山を越えてふらふらして、偶然息絶えて空っぽになった娘の死体があって、借りることにした。あとは何年も何十年も時間をかけて自分にかけられた術がどんなものか解析していったんだ」

自分にどうしてそんな術をかけて去っていったのか。神の真意はわからない。

「嫌がらせじゃないですか」

私の弟子は苛立ちを露わにしながら言った。

「先生が自分の思い通りにならなかったのが気に食わなくて、わざと困らせようとしたんです。きっとそうです。だって、もしも偶然適した体が見つからなかったら、先生の思いを固定していた《想片》のエネルギーが足りなくなって死んで、いや、消えてしまっていたかもしれないのに」

「嫌がらせなのかもねぇ」

でもこれはもらいすぎだ。

こんなに素晴らしい体を与えてもらって、多くの人を救い、導き、幸福にすることができた。世界には不幸がありふれていて、とても人の短い生では抱えられないけど、この身ならば向き合うことができる。

私は一方的にもらいすぎている。私は一体、神に何を返せるのだろうか。

「……先生、逝かれるのですか」

「あぁ……」

この体はそろそろ限界だった。私は最期に弟子に微笑みかけて逝く。

そうだ。次は故郷に帰ってみよう。

師を探してみようと、弟子からこぼれてくる雨を受け取りながら思った。


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