終章 君に届けたい熱
雪がすっかり解けて、歩きやすくなった病院からの帰り道。
一昨日まで紙邱を覆っていた雪雲はどこか遠くに行って、今週は比較的暖かいようだ。
《寒さ》を感じる想いを少し使ってしまったせいで、感覚が鈍くなっている俺にはありがたいことだ。
だが。
「唄華……熱い」
「だめだめ。温めなくっちゃ。寒い寒いだよー」
一時的に鈍感になっている俺の代わりに体温調節をするのだ!と、意気込んだ唄華は、カイロを大量に仕込んで現れた。その状態で俺に抱き着いてくる。
動きづらい。
熱い。
いつもなら払いのけるのだが。今日はそのままずるずる唄華を引きずりながら、公園に向かう。
あの後のことを、俺はよく覚えていない。
唄華が撃たれた後、俺は気絶したらしい。エンドが一人立ちまわって、整理機構のやつらを倒し、傷ついた唄華を治療してくれたらしい。
傷ついたら病院のベッドの上で、兄貴にぎゃんぎゃん怒られていた。
兄貴が去ったあと、鈴璃の顔を剥いだエンドはとても冷めた顔をしていた。淡々と現状に至る経緯と、テッドの処遇は《秩序》に任せたこと、などなどを教えてくれた。
「どうして、また……」
抑えきれずにでた言葉の先を俺は知っていた。
「……悪かった。もう二度と」
「もういい。もういいんだ」
首を振って、エンドは弱弱しく微笑んだ。
「どうせまた同じことが起こったら、君は自分を犠牲にするんだろう」
「……」
「そこで否定しない。素直だな、在須。そんな君が、私は好きだ。だから、もう何も言わない」
エンドは怒らなかった。優しく俺をなでて、去っていった。
説教されなかったことには安堵していたが、彼女の様子には違和感を覚えた。タイミングが悪いことに叔父さんのところに帰省してしまったので、しばらくエンドには会えない。
帰ってきたら、もう一度謝ろう。
反省しよう。
たとえ、また同じことをしてしまうとしても。
「私も、同じことをするよ」
唄華は言った。
「また深漸くんが撃たれそうになったら、私はその前に立ちふさがって盾となる。だって、私の大切な人だもの。かけがえのない、大好きな人。だから、あなたのためならば、また同じことをする」
胸をはってそういう彼女がまぶしい。
だから俺は唄華に向き合う。
「俺は『ずっと』お前がそばにいると思っていた。違うのか」
「違わないよ。どんな形になっても、深漸くんのそばにいるよ」
「『今』じゃないと嫌だ。今のお前で俺のそばにいてくれ」
熱い。寒さを感じないせいで、熱をより強く感じる。
唄華の手をつかむ。引き寄せて抱きしめる。
心臓の音がうるさい。
その音にかき消されないように、声を張る。
「お前が好きだ。唄華」
「……私も大好きだよ。在須くん」
唄華がぎゅっと強く抱き返してきた。俺はそのぬくもりを放さないように抱きかかえる。
だから。
「大好き……」
彼女の頬を伝った一筋の涙に。
俺は気づけなかった。