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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第六部:蛇足なゼンザ
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第四章 トドかないサケビ2

『あなたには《痛み》がないのですね』


ひび割れた声が聞こえた。おそらくあの黒服のもの。スピーカーか何かを通しているためか、部屋に反響している。


「痛みがない……?」

『気づかなかったのですか。愚かな子』

「ごっ、ごめんなさい」


声だけなのに、テッドは委縮したように縮こまる。


「……その通りだよ。だから俺に拷問なんて無意味だ」

『ならば《苦しみ》を与えましょう。《熱》や《凍え》を与えましょう。罪を自覚させるために《生贄》を用意しましょう』

「そうやって、テッドを洗脳したのかよ……!」


ごめんなさいと泣く、大きな子ども。

こんな存在を生み出したのは。


「こいつが何したっていうんだよ」


「出て来いよ……」


体内が熱い。この部屋はテッドのせいで冷え切っているはずなのに、胸の内が焼けるように熱い。

熱に浮かされるまま叫びたい。噛みつきたい。暴れだしてしまいたい。

でもそれらすべてを押し殺す。

ゆっくりと言葉を吐き出す。


「出て来いよ。神様について聞きたいことがある」


否理師とは違う神に対する立場にたつ《整理機構》。


「お前らの《神》について聞きたい」



『崇高な神を穢しているあなたに、なぜ神について説かねば?』

「俺はテッドと違う、正式な《否理師》だ。二つ名もある。でも、理の存在を知ったのは、今年の七月のことだ。そしてたった一日で否理師になった」

『…………』

「だから俺は神についてよく知らないんだよ。修行期間を経ていない、イレギュラーだってよく言われる」

『イレギュラー……』

「だから、こんなまどろっこしいことしなくても、俺を説得してみないか」


こんな単純な言葉に黒服が引っかかるとはおもっていない。

ただの時間稼ぎ。

どうせまた唄華に仕込まれているであろうGPSをつかって、エンドがやってくる。情けない話だが、《二人》でここを脱するためにはエンドの助力を素直に待つのが一番だ。

あえてゆったりと聞かせるように話した俺の言葉に、声は一時沈黙する。

耳障りなノイズだけがしばしその場の静寂を乱していたが、やがて黒服は答えた。


『神はこの世界の理の創造主です』


『私たち、人はその理の上に乗っているだけ。すばらしい理のおかげで、命は生き、死に、続くことができる。完璧なもの。完全なもの。神が授けてくださったおかげで、我らは存在することができる。続いていける』


淀みなく紡がれる言葉は、おそらく彼らのうちで何度も伝えられているもの。


『私たちが途絶える。消える。その理由は理が消えるから。私たちの頭から足の先まで、体から魂の奥底までに紡がれた理が失われる。存在が保たれない。だから消える。理が乱され始めたのは、人が生まれたときより。

人が神を真似して、理に触れたときより。

故に、完全なる理は、その完璧さを失った。その清廉な美しさが損なわれた。

神を貶めるものたちを断罪せよ。穢れを清めよ。

《整理》せよ。我らが《整理機構》』


淡々とした言葉。気づくと後半から、テッドもその言葉に重ねるようにぶつぶつとつぶやいていた。

組織全体に染み込まれている教義。


『ここ数か月のことなんです。《滅び》が加速したのは』


唐突に、黒服の声の雰囲気が変わった。

その声にはテッドと同じ、怯えが混じっている。


『ほころびが増えている。理の乱れがひどく。あぁ、恐ろしい。神が穢されている。神が侵されている。明日にでも、世界は終わるかもしれない』

「は?」


聞き捨てならない言葉に俺は声をあげる。


「何、言って……エンドはあと三年って」

『三年……時間はそんなたくさん残されていない。ほころびは既に傷になって、穴を穿っている。滅びはすぐそこだ』


今にも叫び出しそうな震える声。

《すぐ》?

エンドの予言が外れた?

いや、加速した?


『……イレギュラーな否理師が数か月前に生まれた。世界を乱す存在が生まれた。ならば我らはこれを正す』


テッドが顔を上げた。泣き出しそうな顔で、俺を見る。


『殺しなさい』


氷で作られた刃を、震えながら俺にふるう。


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