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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第六部:蛇足なゼンザ
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第四章 トドかないサケビ1

 目が覚めたら、冷たく硬い床の上に寝かされているのが分かった。ご丁寧に両手足に手錠がかけられている。視界に入ってきたのは天井。……木製か? ぐるりと見渡すと椅子などは取り払われているものの、どこか教会と呼ばれる施設とイメージが重なった。

 ただ俺のイメージにある巨大な十字架や像などは一つもなく、ただ大理石の台が一つ中央に置かれていること。――その上に俺は寝かされていた。


「生贄……みたいだな、これは。気持ち悪い」


 吐き気がする。これは精神的なものか、肉体的なものか。きっと両方だ。

 混乱の中で言われるがままテッドの拘束を解いたところ、さっきまでの苦痛に満ちた表情は演技だったかのように、すぐにテッドは俺の首をその腕で締め上げた。――そして、意識が飛んだ。

 目を閉じ集中して、自分の体を探る。特にそのあと暴行を加えられた様子はない。そして肝心の《想片》はきっちり全て取り上げられていた。


「また捕まるとか……成長してないな」


 最初のフォルケルトの時を思い出した。いや、そのあとエンドもデュケノアに捕まっていたし、おあいこか。


「起きた……?」

「テッド……。はは、お前物騒なもん持たされてるな」


 似合わない。そんな情けない怯えた顔で、錐や鉄槌を持って――何を俺にしようというのか。

 俺が目覚めるまで近くで見張っていたのだろう。そう命じられて。そして命令されたままに、これから俺に。

 悲しそうに眼を伏せたテッドは、俺に振り下ろす。

 何が刺さったのか、何をされているのか俺はちゃんと見ていた。全部見ていた。そうしなければ、治す時に手間がかかる。


「悪い子悪い子悪い子悪い子悪い子悪い子……」


 ぶつぶつ呟きながら、テッドは俺の肩を何度も抉るようにして錐を突き刺す。骨に当たったのか、奇妙な感覚があった。


「ねぇ……反省した?」

「俺は、何を反省しなければいけないんだ」

「…………っ」


 淡々と言葉を返したら、テッドは俺の顔は一切見ないままもう一度振り下ろす。俺がなんの反応も返さなければもう一度。

 いい加減おかしいことに気づいてもいいのに、テッドは一心不乱に拷問に徹する。暑さや疲れとも関係ない嫌な汗をだらだらと流す。息荒く、目を見開いて、お前のほうが辛そうだ。やられているのはこっちだというのに。


「ごめんなさい……」


時々混じるこの言葉の方が本心だと思ってしまうのは、俺が甘いからだろうか。


「ねぇ、ねぇ……謝って。謝って。ごめんなさいって……ごめんなさいって…………」

「だから、誰にだって言ってるんだよ!」


 苦しそうに言葉を漏らすテッドに腹を立て、俺は怒鳴り声を上げた。びくりとテッドは身を震わせ、やっと「あれ……?」と手を止めた。


「……なんで怒っているん、ですか?」

「そりゃ、こんなことされたら誰だって怒るだろ」


 顎で丁寧に抉ってくれた箇所を示すと、テッドの顔が曇る。


「あ、ごめ……いや、謝り……ません。悪いですよ。君が、悪いから……。だから、泣いて謝って」

「嫌だ」

「何で?」


 ぐっと、手が震えるほど強くテッドは錐を握る。


「い、痛いでしょ? 怖いでしょ? ……ねぇ」

「お前のほうが辛そうで、かわいそうだよ」

「やめて、ください。そんなこと言ったら、まだもっとやらなくちゃいけなく……」


まだ震えているテッドに「なぁ」と苛立ちのまま言葉をぶつける。


「ここから逃げようぜ」

「だ、だめ……ここから君を逃がしたら……」

「俺とお前が一緒にここから逃げるんだよ」

「え……」


 ぽかんと、呆けた顔を見せる。そんなこと、僅かにでも思い当たったことがなかったかのように。


「ここから逃げるぞ。また肉まん買ってやる。それにこたつにみかんも約束しただろう?」

「だめ、ですよ」


 目に涙を浮かべながら、でも断固として言う。


「死んじゃいます……。いい子にならないと殺されちゃう」

「そのいい子ってのは、人を拷問するのか」

「僕は悪い子だから……」


 俺の皮肉に、テッドはなぜか力なく笑う。


「だから、いつかいい子になれるように、修行しないと」


 これが修行。

 ひどく滑稽な言葉だった。


「理解できねぇよ……」


 エンドに対するときとはまた違う感覚だ。彼女の頑固さは、俺が知らない過去や決意が凝り固まったもので、理解はできず受け入れがたくても納得はできる。

 でも、これは違うだろう。

 お前のその想いは誰かの押し付けだろう。


「俺は、お前の過去を知らない。何があったのか、何をされた、されているのかも何も知らない。だからお前の姿はただばかばかしく見える。妄信して、狂信して、自分の思考を奪われているお前が愚かで……哀れだ」


 ここで何を言ってもテッドを説得できる気はちっともしなかった。テッドの今の表面上の思いを聞く気も更々ない。


「お前のじゃないそれを理解することは、俺がしたいことじゃない……」


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