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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第六部:蛇足なゼンザ
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第三章 ケイカイすべきデアイ5


「しかし、こんなにあっさりボロを出すとは……。魔女の関係者を疑っていましたが、それにしては稚拙すぎます。しばらく泳がせる予定でしたが、その愚かさは想定外すぎる」


 現れた黒服は誰に話しかけるでもなく、ぶつぶつと独り言のようにつぶやく。


「あ、あ……」


 テッドが寒さではない何かで震える。そんな彼の様子を見て、やっと黒服は言葉をかける。


「その少年を拘束しなさい。テッド」


 テッドの動きは速かった。それまでの怯えて縮こまっていた姿は一瞬で掻き消え、獣のように咆哮を挙げ俺へと手を伸ばす。

 その手を上体を逸らすことで紙一重で交わす。目の前を何かの液体が飛び、不意を突かれる。そのせいで反応が遅れたが、《想片》を取り出す。


「唄華、下がれ!」

「もう下がった! 助け、呼んでくるね」


 声だけが聞こえ、姿はもうそこになかった。さすがの素早さだ。

 赤い包帯が俺の手の中で銃の形をとる。距離をとりテッドへ銃口を向ける――しかし、その距離は一瞬で詰められた。


「あああああああああああああ」


 テッドが吠え、腕を振り上げる。よく見れば手が氷で覆われ、獅子のような鋭い爪が五指より伸びている。その爪に付着した血液から、さっき自分から飛び散った液体の正体にやっと気づいた。


「くそっ」


 一丁では足りない。瞬時に判断し、増やす。


「《行けっ!》」


 一斉に弾が放たれる。超近距離射撃。一縷の隙も無く発射されたそれから、逃れるすべはないように思えたが。

あっさりと、剛腕に拳銃ごと弾き飛ばされた。巨大化した氷の爪で弾はすべてふさがれていた。

 相性が悪すぎる。距離を取ろうとしても、すぐに懐に入り込まれる。

 逆に、慣れたシチュエーションだった。


「あああっ――――!」


 テッドのうめきが止まる。弾が当たった爪が、真っ赤な布で覆われている。動きを止められているだけではない、覆われている部分からエネルギーが放散される。

 さらに弾が当たったところだけではない。決して無駄うちはしない。


「くっ……! 汚らわしい!」

「後ろでふんぞり返ってるんじゃねぇ」


 宙へ放たれた弾は、そこから拘束の布を放出する。テッドも、いきなり現れた黒服も磔の形になった。


「修行の成果がでた……かな」


 エンドは拘束する前に布をすべて掻い潜ってくるので、今まで成功したことはなかったが。


「ううううう、ううううううううう」

「テッド、無茶をするな。お前、まだ正式な《否理師》じゃないんだろう?」


 獣のようだった彼の眼が、狼狽えるように揺れる。


「師匠がいない状態で、無理な術の行使をしていたらお前が壊れるぞ」


 テッドが異様に寒がる理由、攻撃型の術のとき性格が引きずられること。全てが理を力ずくで歪めているからだ。だから術者への負担がでかい。


「し、しょう……ししょう」

「……なにか、理由があるんだろう? きっと、こいつらのせいで」


 俯いてしまったテッドの横を通り、その後ろにいたそいつに声をかける。


「なぁ、『整理機構』……だっけ」

「……既に知っていましたか。ならば、やはりあなたは魔女の縁者」

「まぁな。一応、あいつが俺の師……っぽい感じかな。お前の名前は」


 四肢を赤布で拘束され身動きできない状態にも関わらず、一切の抵抗の素振りも黒服は見せない。しかし、決して屈したわけではなく。


「穢れた『否理師』に呼ばれる名などない」


 嘲りの笑みを浮かべながら、言い切った。


「そうか」


 俺も、それ以上言及するつもりはない。こいつらのいかれ具合は、エンドから聞いた話で十分だった。

 唄華がエンドを呼びに行ってくれたはずだから、今の俺がすることはこのままこいつらを拘束しておくことだった。下手に会話をするとこちらの情報が洩れかねない。

 とりあえずこの公園に結界を張って、一般人に見られないようにしようとした時だった。

「うううううがあああああああああああがあああああああああがががががあがががががっが」


 壊れたようにテッドが叫び声をあげた。


「テッド! どうした!!」


 慌てて駆け寄る。その身を大きくのけぞらせ、喉の限界を無視した悲鳴。大きく見開かれた目、口の端から零れる泡。びくびくりと痙攣する体。


「彼には管理するための仕組みが施されています」


 耳を塞ぎたくなるほどの絶叫の中、嗤いが含まれた声が言う。


「穢れた体で神に奉仕するための、正当な代価として。私に何かが起こった時に、彼には《罰》が与えられるのです」


《罰》?


「罪を償うための、《痛み》が」


《痛み》。


「あっあああああがあがががががががが」

「テッド、しっかり……」


 しっかりしろって言ったところでどうなる。俺の言葉は届いていない。ただ、何かの反応として激しくもがいている彼の姿にどうすればいいかわからなくなる。

 拘束されていなければ、その爪で自分の胸を抉っているのではないかと恐れさせる様。

 その恐怖と共に、俺は別の『恐れ』を感じていた。


「テッド! おい、テッド!」


 その恐れは、俺に名を呼ぶことしかできなくさせていた。


「このままでは彼は発狂死するでしょうね。どうです? この拘束を解いて、私たちと一緒に来てくれませんか」

「……っ」

「私たちとしては別に構いませんよ。このまま彼に《罰》を与え続けても」


 冷静になれば、彼らは貴重な駒であるテッドをこのまま使い捨てるはずがなかった。

 理を見れば、もしかしたら《罰》を緩和させる術があったかもしれない。

 少なくとも、ほんの少し待てばエンドが来た。彼女がいれば、上手い対処ができる。

 俺はそう考えることができたはずなのに――――。

 頭の中まで響いてくる叫びに、耐えることができなかった。


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