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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第六部:蛇足なゼンザ
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第二章 フサグ見えないキズアト3

  

「あの~大丈夫でしょうか?」


 唄華が指先でつんつんと背中をつつくと、その人物は冬眠明けの熊のようにぶるりと体を震わせむくりとおきあがる。


「おー、黒人さんだ」


 唄華の単純な感想のまま、その人物の肌は見事な褐色。

 嫌でも道化のことが頭をかすめた。

 しかし似ていると言っても肌の色くらいで体格はがっしりし、背丈も二メートルは優に在りそうだった。

 真っ黒な瞳をさまよわせ、地面に手をついたまま辺りをキョロキョロすると、口を開いて。


「~~~~~?」

「んー? なんて言ったの?」

「~~~~~~~」


 突然の異国の言葉に唄華が首を傾げる。


「うーん、よくわからないよ。Who are you? Do you understand English? 你了解中国? Você entende o Português?」

「~~~~」

 

 しばらく、俺もよくわからない言葉で唄華は話しかけたがそのうちお手上げと言う風に、苦笑いで俺を振り返り見た。


「お前が分からない言語とかあるのか?」

「そりゃあるよ! 世界には言葉がいっぱいだもの。英語とか中国語だとかインダス文字とかそーいうべーっしくな物はマスターしておりますがね!」

「インダス文字はまだ未解読だろう……」


 とにかく言葉が伝わらないのであれば、どうすればいいかわからない。

 コミュ力が高い、というか何事にも物怖じしない唄華が身振り手振りで頑張っているが、お前のジェスチャーじゃ何が伝えたいのかさっぱりわからない。

 さっきからイカが首をつろうとして足をからませているようにしか見えない。

 

「とにかく、警察……か? それとも救急車?」


 顔色が悪いとかはよくわからないが、全身の震えが徐々に尋常じゃなくなってきている。

 温かそうなダウンコートを着込んでいるのに、まるで裸で氷水に着けられているかのようにがちがち歯を鳴らし震え始めた。

 悩んでいるのももどかしくなり、男の肩に手を置いた。


「唄華、とりあえずどっか店入るとかして暖かいところに移動しよう。お前、カイロ持ってたよな?」

「あ! うん!!」


 ごそごそと、唄華が鞄をあさっている間、俺は彼に肩を置いて声をかける。


「おい、立てるか? って、言葉伝わらないから……よっこらしょ!」


 俺はしゃがんだ状態から立ち上がるモーションをする。

 黒人男性はぽかんとした顔で俺を見た。

 唄華が「ふぎゅ!」っと押し殺したような変な笑いをもらした。

 ……地味に恥ぃ…………

 

 でも、意思は伝わった様でのっそりと彼は立ち上がる。

 自分の体を抱きしめるようにがたがた震えて、立ち上がるのも一苦労と言うような感じだったが、とりあえず立った。


「はい! どーぞ」


 体格に似合わないおどおどした動きで、男は唄華からカイロを受け取る。

 まだほんのりとしか暖かくないだろうそれに、まるですがりつく様子は子どものような……

 俺らよりもだいぶ年上に見えるけど、外国人の歳は見た目じゃよくわからないし。


「とりあえず、こっち来い」


 服の裾を引っ張り店がある方に誘導する。

 歩けるか不安だったが、震えの割にしっかりとした足取りで歩き出した。

 店まで角を曲がってすぐだ。店内の椅子に座らせて、温かいお茶でも買って飲ませて……


「すみ……ません」

「え?」


 突然聞こえた声に仰ぎ見ると、ぎょっとした。


「うわわわわ! 深漸くんが泣かしたー」

「へ!? いや、おれ知らねーよ」


 滝のような涙。

 鼻水まで垂れ流して、顔面をぐちゃぐちゃにさせ泣いていた。

 え? えぇぇ!? あ、あれなのか、異国で人情に触れてとかそういうことなのか?

 男の分厚い唇がゆっくり動く。


 すみ、ま、せん。


 何度も同じように呟く。

 言葉にならない白い息を吐いて。


「日本語分かるんじゃん!」


 唄華がおぉ! っと過剰に驚く。


「あ、謝るなよ。とりあえずこっち」


 動揺した俺は強く服を引っ張った。


 すみません。

 すみま、せん。

 すみません。


 こっちが申し訳なるくらい、悲痛な謝罪だった。

 なきじゃくっているせいもあって、余計に子供に見える。


「どうしたんだよ……」


 男は泣くばかりで答えない。

 俺に促されるまま、ゆっくりと歩みを進める。


「おー、よしよし。男の子は泣いちゃだめだよ」


 いつの間にかお姉さんモードになっている唄華が背中をポンポン叩いてやっている。

 何やら面倒くさいことになりそうだ。

 

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