表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第六部:蛇足なゼンザ
105/134

第二章 フサグ見えないキズアト2

 白い空間。

 箱。

 閉じ込められているようで、周りから責められているような気がして、小さい頃の俺は病院へ行くのをひどく怖がった。

 入った途端に広がる、ありとあらゆるものから弱いものを守ろうとしている閉じた場所。

 一度入ってしまったら、外に出ることが危険だと脅されているように肌で感じた。


 ――今考えると、それは病院内に広がる様々な患者たちの思いだった。

 なぜお前は元気に笑って外を歩けるのかと――怒られているような気がした。


 勘が鋭くなって、そのことを理解できた瞬間、病院に恐怖は感じなくなった。

 で、今俺が感じている恐怖は何だ。

 眼鏡の向こうから覗いてくる目から感じる――怒りだ。


「在須……、この傷はどこで?」

「えっと……どこかでかすったのかも、な」


 うっかりしてた。

 昨日のけがを治すの忘れてた……

 怪我している俺の右腕を掴んで、怪我を診ようともせずまっすぐに俺の目を覗き込んでくる。


「た、たいした怪我じゃないだろ? 血も止まっているし、深くないし」

「……まぁ、大事に至るような怪我ではないが。しかし、なぜこんなところを怪我した。剥き出しのところではなく、服の下だぞ? よっぽど鋭利なもので傷つけない限り……」


 鋭利なものでやったんだろうよ。

 たぶん。


「お前、何か危ないことをしてないだろうな?」

「……してない」

「躊躇ったな。いいか、母さんたちを泣かせるような真似はするなよ。公園で全裸になって暴れるとか」

「そっちの危ないことかよ!」


 はぁ、と兄は呆れたようにため息を吐くと、手際よく包帯を巻いていく。赤じゃない、真っ白い包帯だ。

 

「まぁ、綺麗に切れているから跡も残らんだろうが、気を付けろよ。俺が気づくまで、全くお前は気づいていなかったんだろう? ……もしくは忘れていた、か?」

「……あぁ」

「今回のことで、痛みを感じないという事がどれだけ危険か少しは見えただろ。この程度で済んでよかった。本当に、気を付けてくれ」

「わかってる」


 兄貴には見つからないようにしているだけで、もう何百回も怪我してるんだ。

 程度なんて、見ただけで自分でもわかる。

 それに想片があればこれくらいのものは簡単に治せる。

 生活に支障がないのにいちいち小さい怪我も治してたら想片がもったいない。


「気を付けるよ」


 俺はまだ心配そうに顔を曇らせている兄に言葉を重ねる。


「もう心配させないようにする」

 

 たいしたことないのに周りでばたばたされると、逆に申し訳ない。

 見た目はアレかもしれないけど、まったく痛くないんだ。ただ体に傷があるだけ。見た目が痛々しいだけ。

 俺がそうなっていることを、エンドも兄貴も知っているくせにそんな辛そうな顔するなよ。

 俺は辛くないのに。

 俺が辛くさせているみたいで、申し訳ないだろう。




「じゃあ、深漸くん。私が怪我したら心配してくれる?」


 病院からの帰り道。待っていた唄華を伴い家路についた時、悶々と悩んでいた俺の思考を刺すように唄華が言った。


「は……?」

「私がこけちゃって膝から血が出てるとします。痛いよーえーん、って泣いている私を深漸くんはなでなでしてくれる?」

「怪我しただけで泣くって、子供かよ」

「もう、そこじゃなくって! 慰めてくれるんですか~?」


 唄華がむくれている。

 何を問われているのか分からない。


「そりゃ、心配するだろ?」


 怪我して、痛いって泣いてたら、誰だろうと心配する。

 唄華は正解と人差し指を天に向ける。


「そういうことだよ。だからだよ」


 雪が積もった道。

 サクサクと足跡をつける。 

 唄華はその後をさらに深くするように、ぐりぐりと踏みつける。


「心配されている内が花だよ、深漸くん。深漸くんが本当は弱いことを知っているから、みんな心配してくれてるんだよ」


 俺の顔を見ず、ポツリと言われた言葉にかっとなる。


「弱いって……俺は!」

「深漸くんは強いよ。どんどんどんどん強くなっていて、かっこよくて、頼もしい私の王子様だよ」


 でもね。

 と、俺の顔を見上げて唄華は笑う。

 無邪気に、何でもないように、いつもの声音で。


「でも、深漸くんは人間だよ。簡単に死んじゃうんだよ?」


 だから心配するんだよ。

 俺に言い聞かせるように、唄華は言葉を重ねる。


「弱い弱い人間だからだよ、深漸くん。強かったらね、もう誰も心配してくれないよ」


 これは愛だよ。

 みんなからの愛で。

 これは私からの愛だよ。


「……おい」

「んー?」

「目ぇつむって待ってても、お望みのものはしないぞ」

「キ……キキキキキッスとか! 私は望んでないもん!! はっ! そうじゃなくて、して……ほしいけどうみゃあああああああああああああああ!」

「はいはい……」


 いつも通りに暴走し始めた唄華を放置して俺はまた歩き出す。

 わかってるさ。

 そんなこと。

 わかってる。


 頭の片隅で、言い訳のように言葉を重ねた。



――だが、そんな俺の思考も突然ストップされる。



「…………寒い」

「………………そうですね」

「さ……寒」


 どさりと、その男は倒れた。

 前倒しになって、積もった雪に全身の方をつける。


「あれー? 深漸くん。その人誰?」

「俺が聞きたい」


 俺の前でぶっ倒れた長身の、分厚いダウンコートを見に付けた黒人の男性の知り合いなんて。

 もちろんいるはずがなかった。 

はい!新キャラ登場!


そして……更新めちゃくちゃ滞りすみません(汗

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ