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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第六部:蛇足なゼンザ
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第一章 キエル消えるイタミ2

 十二月に入ってまなし、初雪が降ってうっすら地面を覆った。

 申し訳程度のそれだが、寒さを引き立てるのには十分すぎる演出だった。


「寒っ」


 ぶるりと身を震わせてネックウォーマーを口まで引き上げる。

 自分の吐いた息のせいで湿って気持ち悪いが、それよりもこの寒さをしのぐことの方が重要だ。


「深漸~、寒いなぁっ!! 寒いぞっ!! なんだこれはぁあああああ」

「騒ぐな、楽士。何を言っても、現状は変わらないんだから」


 しゃべるのすらおっくうだ。

 自分を抱きしめるようにしてもまだ寒い。


「なんでエアコン壊れたんだよっ! しかも、こんな状況で、こんな背景で、授業は通常通りに行いますって、クソイベントだよっ!!」


 あー……もう返事はいいや。

 俺は楽士を無視して、絶望的な現状を憂う。

 

 みんなコートを着て、マフラーをして、手袋をして、完全防寒した状態だ。いつもより人数が少ないが、他のクラスに逃亡したものが出たという事だろう。

 一限目終了間際で突如としてエアコンが壊れて、冷気を吹き出し始めた。そのため、慌てて教師が職員室にある電源を落とすまで、外よりも極寒の環境が生まれてしまった。

 しかも業者は都合が悪く、夕方になれないと来られないそうだ。


「なんで休校にならないんだよ~」

「……校長が、今の子供たちは脆弱すぎるって言ったからだろ…………」

「現代っ子の何が悪い!! そういう社会を生み出した大人がいけないのだっ!!」


 寒い……。

 手袋をしてるのに、指先に感覚が無くなってるよなー。

 だんだん何も感じなくなって……逆に楽かもな。寒さに震えるくらいなら。

 凍死が楽だって理由が分かった気が。


「深漸く~ん」


 砂糖を煮詰めた上に甘い甘いカスタードを乗せたような声が耳元に響いたかと思うと、途端に机に鼻先をぶつけた。


「ぶっ!?」

「あはっ、ごめーーん!!」


 楽しそうにきゃきゃ笑う唄華に、後ろから押しつぶされるようにされる。


「押しつぶしてないよ~。愛の抱擁だよ」


 重たい。どけろ。


「私の愛は世界よりも重いのだ」


 うるさい。


「ひゅーひゅー、今日もお二人はお熱いね~っ。そこだけ常夏? いや、火山の中かな~。くっっそーーーー!! 俺もアイドル魔法少女エスパー探偵、まこりんに温めてもらうさっ!!」


 そう言って、明らかに手作りと思われる、デフォルメされた謎のアニメキャラクターのぬいぐるみを取り出して、頬ずりしはじ……


「あはははは!! 楽士くん、きも~!」

「自嘲しろ」

「リア充に何を言われても痛くないわっ!」


 涙目になってる楽士を横目に、俺は深くため息を吐く。

 もう否定するのもめんどくさい、唄華と俺の関係。

 ただの同級生で、向こうが一方的に言ってくるだけで、俺は別に……。

 まぁ、否理師とかもろもろのことで何度か助けられて、それは感謝してやってもいいが。


「うふふ、嬉しいなぁ。でも、ありがとうなんて、言わなくていいんだよ。私はちゃんとわかっているから」


 押しつぶされたままの状態で、すっと唄華の手が俺の手を包む。

 その手に握られていたカイロのぬくもりが、じんわりと冷えた手に広がっている。


「熱も過ぎれば痛みになるし、寒さも越えれば痛みになるんだよ」


 そっと囁くように、唄華が言う。


 ……痛み。

 

「深漸くんの『何も感じていない』ときは、そういうことだって覚えていた方がいいよ。ほら、こんなにも冷たくなっちゃって。痛かっただろーね」


 俺の体の代弁をするかのように言って、優しく指をさすってくる。

 暖かさが伝わってきて、カイロのぬくもりだけではなく、唄華の体温も。

 うとうとしてしまうくらい、心地よくて。


「……唄華」

「ん? なぁに?」

「重い。早く、どけろ」


 唄華が笑う。

 この冷え切った教室に似合わない、明るく弾けるように広がる声。


「素直じゃないなぁ」


 本音だよ。

 お前、重いわ。肺が潰れる。


「はいはいってか?」


 唄華は自分が言った冗談に笑って、俺を押しつぶしたままだった。

 本当に勝手な奴だ。

 もう反抗する気も起きず、されるがままになる。

 背中から伝わってくる体温も。指先に伝えられるぬくもりも。

 しばらく、離れることはなかった。


 ちょっとだけ日常編ですw

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