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魔女が詠う絶対終末  作者: 此渓和
第六部:蛇足なゼンザ
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序章 銃声鳴る余興2

 唯生はため息をついた。


「もう少し丈が長い服はなかったんですか」

 

 絨毯の上に転がってゲームをしていた樹――由己は,今日何度目かわからない問いに、うんざりとした様子で答えた。


「あの変態が用意した中でもまだましなのを選んだんだよ」

 由己自身は全く気にしてないようだ。


「いくら上海だからって」

 

 いつか唄華が着ていたようなチャイナ服。やばいのはスリットではない。元々の丈が短い。

 表情に乏しい唯生だが、若干口元がひきつっていた。

 由己は色々な「かわいい服」を着れることを喜んでいるようだ。以前よりも女の子ぽくなったし、短くする事にこだわっていた髪も伸ばしたいというようなことを言っていた。

 良い兆候だと思う。なのにこの胸騒ぎはなんだろう。

 唯生が腕を組んでいると、がちゃりと扉が開く音がした。


「おかえりなさい。先生」

「ただいまじゃ」

「終わった?」


《道化》、先ほど死んだはずの否理師は楽しそうに笑った。


「あぁ、すべてはうまくいった。儂は殺された」


 そう言って、由己に放り投げたのは枝。


「さすがじゃのう、《産魂》の人形は。儂の込めた思いに良く反応してくれた。なかなかに愉快じゃったよ」

「……本当は、こういう使い方をするんじゃないんだよ」

 

 由己は不満げに枝を拾う。


「これは代々の《産魂》が神を造ろうとしてたときの雛型とするため生み出したんだ。父さんはこれからヒントを得て、僕たちに樹の思いを吹き込む業を生み出したんだ」

「そう言えば、あなたが《反逆者》さんの先輩をだましたのもこの業だったそうですね」


 責めるわけではないのだろうが、淡々とした声は良く響く。

 由己は枝を静かに唯生に向けた。


「騙してない。あれは約束だった。僕が父さんを生き返らせる業を手に入れたら、あの子も生き返らせるって約束をしたんだ」


 そこまで勢いよく言い切ったが、すぐに罰が悪そうに由己は顔をうつむけた。


「ま……結果的に僕は約束を破っちゃったんだけど」

 

 由己との間に何があったのか唯生は知らない。だが由己を《魔法使い》と言ってすがっていたことだけ聞いていた。

 その話を聞いてーー唯生は憤りを覚えたのだ。まだそんな馬鹿らしい妄想に縋っているのかと。あの男のように苦しみを生み出しているのかと我慢できなかった。

 黙ってしまった唯生に変わり、口を開いたのは《道化》だった。


「心配せずとも、彼女はちゃんといきているよ。お主のしたことはよけいなお節介じゃったが、救いになった部分もあった」


小さな手がそっと由己の頭に触れた。


「だから後悔しなくてもいいんじゃよ、優しい子よ」

「……黙れ。年齢詐称チビの変態のくせに」


《神の全知》からの託宣に口をとがらしてそっぽを向く由己の頭を、そのまま《道化》がなでなでするので――唯生は横っぱらを蹴っ飛ばした。

 五歳児の体は、たやすく吹っ飛ばされる。


「ひっ、唯生が儂に暴力を!」

「……僕の妹に触れないでくれませんか?」

「むむむ〜、シスコンになって感情豊かになってきたのはよいが、表情もつけなかったら怖さ二倍じゃのぅ。ほらほら怒ってみぃ」

「怒る……」


 ……十分後。

 悩みに悩んで生み出された唯生の怒りの表情は世界を震撼させた。

 うずくまって震えている由己と、腹を抱えて転げ回っている《道化》を淡々とした様子で眺めて、少し首を傾げ、ため息をついた。


「それより先生、そろそろお時間です」

「ひーひっひ、ひひひ、ふふふふむ、そうじゃのう。ぶっ、ひゃーははは」

「……」


 唯生はひょいと、《道化》を抱えて扉に向かう。

 その後を、由己が続く。


「あはっ、あははは。そっ、それにしてもさぁ、わざわざ殺されたり、隠れたりする必要があったの?」

「先生によれば、ここで殺されるのが先生の《運命》だったそうです」


 未だ話ができる状態にない《道化》に変わり唯生が答えた。


「でも先生の目的は世界の終わりを見届けること。目的を果たすために《運命》を誤魔化すにはこの方法がベストだったんです」


 唯生はちらりと由己を見た。


「僕は先生にご恩があるのでついて行くことにしましたが、あなたはそこまで先生と深くない。修行なら他の否理師のかたのもとでも可能ですし、《秩序》に帰って構いませんよ」

「別に……僕はその変態についているわけじゃない。僕はお前についていってるんだ。そういう約束……だっただろう?」


 二週間前にした、ちょっと卑怯な口約束。破ることは簡単なのに律儀に守ろうとする姿にーー少しだけなんとなく、唯生の頬がゆるんだ気がした。


「じゃあ、行きますか」



 ――これを境に、《神の全知》は世界という物語から消えた。

 世界の終わりが訪れても、彼が舞台に上がることはもうない――


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