番外編 ~レイとセラフィ~
このリレー小説の作者の一人、シノさんが続きを書くのに苦戦しているようで、なかなか次話をアップできません。
ですので今回は一応、もう一人の作者である柚雨の方で、番外編という形でつなぎとさせていただきます。
レイサイドの話で、時系列は適当ですが未来ではないです。
それぞれでこの時期にしゃべっていて欲しい、と思う時期だと認識してくださって構いません。
レイが野営のとき、夜の見張りを遂行しているところに、セラフィが出くわすところでこの話は始まります。
あくまで番外編なので本編に関係ないお話ですが、どうぞ。
「ん……どうした、セラフィ」
こんな時間に起き出してくるとは珍しい。
「え…? レイ? あんたこそどうしたの?」
「いや、ちょっとな」
「ちょっとってなによ?」
「ちょっとはちょっとだ」
見張りだ、とか言ったら『私もやる!』とか言い出しそうだし。正直、夜の見張りに向いているのは俺とシノラインだけだし、極力任せたくはねぇな。
まぁ俺としては、そんな見張り云々の話以前に、なんでこいつがこの時間に起きだしてくるのかが気になるワケだが。
「それより、お前は眠れないのか?」
「うん。なんかあんまり眠くなくて」
「さっさと寝ろよ? 明日は早ぇんだ」
夜更かしして、また歩くの遅くなられても困る。……普段から普通に超遅いけども。
「あんたも、寝なさいよ」
「俺ぁいいんだよ」
「じゃあ、あたしも起きてる」
起きてる、じゃねぇ! しかも言いながら寄ってくんな! なに、しばらくこっちに居座るつもりか?!
「ちょ……なんでこっち来んだよ。お前まで毛布には入りきらねぇ」
「頑張れば入るわよ。ね、入れてよ」
……顔を覗きこんでくるな。断れないじゃねぇか。
「……はぁ、しゃーねぇ。来い」
うん、結局諦めた。悪いか! 俺がセラフィの『お願い』に負けちゃ悪いのか?! いや、悪くない! 絶対にっ!
そんな内心穏やかじゃない状況で、ゆっくりと俺が使っている毛布の中に入ってくると、当然にしてこっちも照れるわけで。
「えと、うん。ちょっと待って…」
毛布の中で触れるたびに、セラフィの温かさを直で感じてしまうわけで。
「なに顔赤くしてんだよ。風邪か? 風邪ならくんな、伝染る」
……正直、こんな照れ隠しでもしてやらないと、やってられなかった。俺の顔、赤くなってないといいんだが。
「う、うるさいわね! ちょっと……恥ずかしくなっただけよ!!」
「勝手に入ってきて、勝手に恥じるとは。それに、前も同じ毛布使ったじゃねぇか。とうとう、お前も壊れたか?」
「むぅー、何よ、やっぱあんたって最悪ね」
「お褒めの言葉、どうも」
……動揺、隠しきれていただろうか? 自信ねぇけど、そっけない態度に見えてたらありがたい。俺まで顔を赤くしてんのがバレるよりはマシだ、うん。
つか、こいつあったけぇな、おい! めっちゃ心地いいんだけど! なにこれ! しかもなんかいいにおいするしっ!! ……これは、やばい。たまに触れ合う肌が、なんともいえなかったりそうでなかったり……は、しない。ホントになんともいえなくて、ってそんなこと言いたいんじゃなくて、つかなにが言いたいんだ、俺は! 混乱してきたのか?! そうなのか、そうだろう、もうそうとしか言えねぇ!!
頭の中は、ピンク色でいっぱいだ。
「……ねぇ」
と、そんな中。なにか思いつめたようなセラフィの声。それが、俺を一気に現実へ引き戻してくれた。
……あ、危ねぇ。
「どうした?」
なんとか、冷静に見繕った声で問いかける。
「あんた、もしかして見張りとかしててくれたの?」
「そうかもな」
あ、バレた。うわ、こりゃうるさくなりそうだ。ハルたちが起きなきゃいいんだが。
「………なんで黙ってたの? あたしだって手伝ったのに」
「お前じゃ、無理だっての」
「リアだっているんだから、なんとかなるわよ!!!」
案の定。やっぱりうるさくなりやがった。
「大声出すなって。ルナールたちが起きるだろ?」
「…ごめん。でも、なんであたしたちに黙ってそんなことしてたの?」
「言ったら、やろうとするだろ? ……それに、お前たちは“影”とも敵対してる」
「あっ……それも心配してくれた…?」
「さあな」
なんとも微妙な顔になる。嬉しそうな、それでいて悲しそうな。……おそらく、心配されてたのは嬉しいけど、心配かけたのは少し悪いな、とでも思っているんだろう。
そんなこと考えずに、素直に頼ってくれよな。
「………あんた、ひねくれてるわりには、意外と優しいわよね」
「意外とはなんだ。俺はいつでもすげぇ慈愛に満ち溢れてるっての」
それと、ひねくれてるは余計だボケ。
「ふふっ、そうね。………最初に会った時から、いつも助けてくれてた」
「お前が、あまりにも危なっかしいからな。それは、ハルもルナールも同じだが」
「失礼ね。あたしはあの二人よりはしっかりしてるわよ」
耳を疑う。俺が一番ケアしてんのは、セラフィだぞ? ……まぁ、俺が一番世話んなってんのも、セラフィなのかもしれないが。
だがもちろん、そんなことは素直には言わない。
「はっ、何言ってんだか。お前が一番、手ぇかかってんだよ」
「いつ、あたしがあんたに手をかけさせたのよ?」
「そうだな……例えば、まさに今。……一応、見張り中だし、さっさと寝ろよ」
「そうやっていつも、あたしをお払い箱にしちゃってさ。あたしだって、役に立ちたいよ」
役に立ちたい、ねぇ。……それこそ、なに言ってんだってハナシだよな。だって、お前を仲間としていつまでも連れまわしてんのにも意味があるわけで……。
「……もう、役に立ってる」
セラフィが役に立ってないなんて、これっぽっちも思ってねぇんだ。
「え…?」
「役に立ってるって言ってんだよ」
「でも、あたしは何も出来ないよ? 戦いはリアに任せっきりだし、料理だってそこまで得意じゃないし……。それに、いつもあんたに助けてもらってる」
「自覚はあったんだな」
確かに、俺は最優先でセラフィを助けたいと思ってる。……認めたくはないが、好き…だからだろう。
「なかなか酷いわね…。役に立ってないって認めてるようなもんじゃない」
「いや、お前はちゃんと役に立ってるよ」
「だ か ら ! 何で役に立ってるのよ?」
大声出すなよ。今から言う言葉は、こっちだって恥ずかしいんだから。
「……お前と喋ってると、なんか気分がよくなる」
「……え?」
「それだけでお前は、俺の役に立ってんだ。前に言ったろ? お前と居ると、楽しいんだ。だからこれからも、そうやってしっかり俺を支えな」
間抜けな表情すんなよ。『俺を支えな』とか擬似告白的なこと口走ったことは謝るからさ。
「……よくわかんないわよ」
「そのままでいい。お前は、いつも頑張って役に立とうとしてる。その姿勢だって、俺にとっては充分嬉しいのさ」
「……い、意外と恥ずかしいコト言うわね。ちょっと………嬉しいじゃない」
「喜んでくれて何よりだな」
擬似告白の方も、そういう意味以外でとってくれて助かった。それこそ『何より』だ。
そのまま二人して特にしゃべることなく、黙っていた。心地いい体温を感じ、穏やかな気持ちになる。セラフィも、そう感じてくれているんだろうか。
そう思いつつも、そろそろ離れなければならないことも、感じ取っている。さすがに、セラフィは寝ないとマズイし、夜番の交代の時間は近い。それ即ち、この状態を裏ハルに見られるということで。……それこそ、一番避けたい事態だ。
「……さて、今日はもう寝な。テントまで連れてってやるから」
不本意だが、こう言って帰ってもらうしかないだろう。
だが……。
「………ゃ…」
「あ? なんて?」
「いやよ…。まだ、ここにいるの……」
セラフィから返ってきたのは、否定だった。
一緒にいたいと思ってくれんのは嬉しいが、このままではシノラインに見つかるんだ。お願いだから帰ってくれ。あいつなら、しばらく俺らをいじり続けてもおかしくないぞ?
「はぁ、聞き分けねぇのな。少しくらい、言うコト聞いてくれよ」
「……まだ、離れたくないもん」
言いながら、俺にしがみついてきた。服の裾をギュッと掴まれる。
ぐっ…! やべぇ、離したくねぇ! じょ、冗談でも一回、ここにいるように言ってみちゃったりするか?!
「……そ、そうか。なら、もうここで寝てみるか?」
「うん……ここで寝る…」
うぉーう?! 肯定するのかよ!! ここで寝るってことは一緒に寝るってことになっちゃったりするわけで、それは色々とマズいと感じたり感じなかったり!
……いや、マズイだろう! どう考えても! クールになれよ、俺ぇ!
「はぁ?! お前、自分の言ってる意味分かってんのか??!」
「……失礼…ね。分かってる……わ…よぉ…!」
……ん? なんか、セラフィの言葉がおかしい。
そっと覗き込んでみると、彼女の瞳は眠たそうに閉じられようとしていた。
「……もしかして、寝た感じの流れだったり?」
……………………………返事なし。うん、こりゃ寝てんな。
寝顔、可愛いけど……交代のシノラインがいつ来るか、気が気でない。つか来んなよ、空気読めよ。
……そんな願いが届くわけもなく。
「ひひっ! てめーも、結構やるコトやってんだな」
俺とセラフィの会話を、ほとんど聞いていたみたいなシノライン・ハッカーが一人。……やべぇ。マジで。
「てめぇ、裏ハル! 見てたのか?!」
お願いだから見てないと言ってくれっ!
「ばっちりと」
……そーかい。終わったな。もうこうなったらヤケだ。せめて、セラフィをテントに返すのを手伝わせてやる。
「こいつ、俺にしがみ付いて離れねぇんだ。なんとか引き剥がしてくれ」
「やだね。これから、ながーい夜を楽しみなー。ひひっ!」
「薄情なヤツだな、おい。ただの剣のくせに」
「剣に封じ込められたってだけだ! 剣そのものじゃねーよ」
「どうだか」
「ホント気にくわねーガキだな。さっさとセラちゃんをテントに連れこんでいちゃこらしてろ」
だぁぁ! 手伝ってくれないうえにそんな下世話なこと言ってんじゃねぇよ! 一瞬想像しちゃったじぇねぇかァ! そしてそんな想像をする五秒前の俺、消えろっ!!
「絶対にそんなことしねぇからな?!」
「どうだか」
さっきの俺と同じ言葉で返された。……皮肉な野郎だ。めっちゃ疲れたわ。こいつに突っ掛かる気も失せる。
「もう疲れた。……セラフィはどうにかするから、後は頼む」
「ああ、任せな。………それと真面目な話、セラちゃんはしっかり大事にしてやれよ?」
「………どうだろうな。まぁ、俺は今まで通り接するだけさ」
「ひひっ! そうかい。それならだいじょーぶだな」
どういう意味だよ。……一応、傍目にはセラフィに対してそっけない態度とってるつもりなんだがなぁ。確かに、大事には思ってるけど。それはバレないように……。
あ? 素直じゃねぇって? うっせぇ、これが俺だ! しょうがねぇだろ?!
……何を興奮してんだ、俺は。やっぱり、もう結構疲れてるみたいだな。セラフィを運ぶのに、またさらに体力をきりきりと削られることになるだろうが、さっさとテントに引っ込むか。
しがみついているセラフィをそのまま横抱きにし、立ち上がる。
「んじゃ、おやすみな」
「………ああ、おやすみ」
まぁ、後の夜番は任せたぞ、シノライン。
結局、俺はそのまま、セラフィにしがみつかれた状態で眠ったが、次の日の朝、彼女が理不尽な怒りで顔を真っ赤にして俺を叩くというのは余談だ。……そう、余談でしかねぇんだよ、コノヤロー。
「なんであんたがここにいるのよぉ!!」
「てめぇが勝手にしがみついてきたんだろうが、アホ女ぁ!!」
理不尽だ……。
次話がいつになるかはわかりません。
そして、もしかしたら、番外編でレイの過去を語ることになるかもしれません。
ご了承ください。