神技っ♪
Side Ray. ~レイ・サイド~
ドォゥッハァアアアッ!!
ぐっ……………目に毒……いや、保養………違っ………いや良いと思……でもあれはダメ…………もう、アレはぁあああ!!!
……失礼。取り乱した。でもあれはしょうがねぇって。うん。だって、だって……!
―――――セラフィの服セクシーすぎだろボケェェェエエエ!!!!!
………ふぅ、すっきりした。心の中とはいえ、叫ぶべきだ。あれで叫ばずしていつ叫ぶんだ。あんなっ………あんな格好で騒いじゃダメだって! セラフィが……あぁ、セラフィっ!! 嫌ならちゃんと言えよ!! ………って、俺が喜ぶってそういうことかよゴラァ! まあ確かに嬉しいけども! あんな姿は他人に見せられんっ!! 俺だけに見せr……じゃねぇよ! なんでそうなるっ!! 無駄なところで独占欲発揮してんじゃねぇよ、俺ぇぇぇええ!!
…………失礼。またもや壊れた。今まで声出してないのが奇跡だな。見つからなくてよかった。
で、ここまで混乱している俺がどこにいるのか、気になるところだと思う。ちなみに、先ほどのまでの思考どおりに、セラフィたちが見える位置にいる。ついでに言えば、ジュリーたちも見えたりする。さて、どこだろう?
A,実は天井裏に隠れていたり。
セラフィたちがいるのは一階。そして、天井は二階までぶち抜いたところにあり、吹き抜けの玄関ホールの階段を上りきった二階には、ジュリーたちがいる。
その上。天井があるんだが、そこと三階の間には当然にしてスペースがある。王族にだってあまり知られていないらしいのだが、今回は特別にジェラーロ情報ということで一つ。
そんな、まあ隠れるには絶好のところで、息を潜めて(内心は暴走しながら)隠れている。そろそろ、俺の仕事も始まるだろう。
「おーぉ、そこにあらせられる御人は、ジュリアス殿下ではございませぬか! さぁさ、こちらに、こちらに」
ジェラーロの声。これで、ジュリーは一度、一階まで連れてかれるだろう。
「さぁ今から王子に浮遊飛行マジックを行っていただきましょー!」
はぁ、やっぱりそれやるんだな。“アレ”を渡された時から、そんなことをすると思ったよ。
あ? “アレ”ってなにかって? まあ、そこはお楽しみってことで。
「さーあさぁ、観衆の皆様! 王子を受けとめる準備は万全でごじゃりますなぁ?!」
あぁ、マジ本気で投げるだけなんだな。強引過ぎるぞ。マジックじゃねぇ、それ。投げてるだけじゃねぇかよ。
「うぉわああ!」
奇声をあげて飛んでくるのは、真っ直ぐ俺のいる方向。俺の下にある覗き窓を少し開け、“アレ”を準備しておく。
そして。
ジュリーが俺のいる天井に頭をぶつける瞬間。“アレ”を投下し、ジュリーをこちらに回収した。…………ははは、俺の神技でジュリーは頭をぶつけたようにしか見えまいっ!!
あ? 無理があるって? いやいや、常人だったらそうだろうが、俺ならば可能なのだよっ!!
………………なんだ、俺のジェラーロ化は。酷いな、コレ。あいつと少しでも一緒に居ると、口調や思考がヤツの色に染まるからいかんな。つか、“ヤツの色に染まる”って…………おえ、気持ち悪っ!
でもまあとにかく。誰にも気付かれることなく――いや、ジェラーロには見えたかもしれないが――とりあえず、ジュリーの回収は無事に成功した。
何がなんだかわけ分からなくなってるジュリーの口を押さえ、大人しくなるように、ジェラーロが持たせたであろう紙を奪い取って顔の前に突きつける。
『レイちゃんを信用してあげなきゃいやーん☆』
…………ジェラーロ! ここまでふざけんのかよぉぉおお!!
心の中では悶えるも、ジュリーは俺がレイであることに気が付いてくれたようだ。慌てて俺の方を見てきたので、一応真剣な表情で頷いてみる。
それと、超小声で少し。
「安心しろ。俺がついてる」
「で、でも……僕がいなくなったら…」
「大丈夫だ。そのために“アレ”を投下したんだからな」
そう言って、覗き窓から下を見るように促す。
「こ、これって…!」
そう、ダミー・ジュリアス。通称・ジェリアスくん一号。『ュ』じゃなくて『ェ』であることにこだわりが………どうでもいいって? だがなぁ、『ェ』のジェリアスにしとけば、愛称はジェリーだぞ? あの有名な猫とねずみの喜劇のねずみ側だ! めっちゃ猫を翻弄するぞ!!
悪い、ふざけた。……まあとにかく、魔術稼動のゴーレムで、真似させたい人物を遠目からスキャンしておけば一時間だけ変身して動いてくれたりするチートさんだ。ジェラーロ曰く『これ高いんだから、感謝しなさいよねっ!』……だ、そうだ。キモいわ。
「あれで一時間は、ジュリーはあの衛兵といると錯覚させられるだろう。そのうちに、俺たちはあいつらと合流するぞ。……ほら、フード付きマント。これ、目深に被れよ」
かすれるギリギリの小声で告げ、懐から地味なこげ茶のフード付きマントを頭から被せる。
「なんで……こんなことしなきゃいけないんだ」
あんま喋んなよ。……まあ、空気を呼んで超小声なのはいいけど。だから、一応目的も告げる。
「お前は、王位継承問題で護衛の一人に狙われていた。あのままじゃ死ぬ。つーわけで、俺が誘拐した。おーらい?」
「誘拐って……」
なんだよ。文句あんのか? せっかく助けてやったってのに。
まあ、そんなことを言ってる場合でもないんだけど。さっさと、セラフィたちと合流しよう。
「ジュリー。なにがあっても、俺たちを信用してくれ。いいな?」
「……ああ。分かってる」
………ありがたい。
俺はジュリーを抱え、急いで来た道を引き返し始めた。……人を抱えてのダッシュ、しかも忍び足って、結構キツイのな…。
◆
「つーわけで、お待たせ」
セラフィの肩を叩き、少し驚かせるのは仕様だ。
「きゃあっ! だ、誰よ……って、レイ?! それに、その子は?」
「だぁぁ、騒ぐな。せっかく任務成功させてきたんだから。…………それと、その服。似合ってる。けど、その、あれだ、際ど過ぎる。だから、このマント羽織っとけ」
懐から、さらにマントを取り出す。これはセラフィー仕様の蒼色で、フードはないが全身をすっぽり覆えるようになっている。
「あ、ありがとう」
「いや、あの、まぁ……うん。当然だ」
「ニッシッシー♪ お二人さんお熱いねぇ! ひゅーひゅー☆ っと、ひやかしはこれくらいにしてぇ、作戦は成功かい?」
それだけが訊きたかったんなら、前半はやめろ。うっといぞジェラーロ。
「あぁ、ちゃんと、摩り替えてきた。つか、見えただろ?」
「うん☆ まー、僕にしか見えなかっただろーけどなァ! やっぱ、ミーは天才♪」
「はいはい。騒ぐな」
ジェラーロを軽くはたいておき、ハルたちにも本物のジュリーはこちらにいることを説明しておく。
「えぇっ!? ホントにっ!!?」
「って、僕たちの衣装が派手すぎたのって、すり替えに気付かれないため?!」
「………そっか、あっちはにせもの。うん、ごーれむだよね」
おぉ、初めてルナールが驚きではなく、ボケでもなく、まともなことを言ったような気がする。
「……僕は、みんなを信じることにしたよ。よろしく」
「「「「当然っ!」」」」
全員でニヤっと笑い、だんだん騒ぎが収束してきたホールに目をやる。
「さぁって! ミーたちの活躍はまだまだ続きますぞよー!!」
…………掛け声は気が抜けるが、俺たちの攻勢はこっからだ。
さあ、行こう。