ヘタレの決意は固い……多分ね?
財布を失くしたハルくんは、飛竜討伐に赴くことになるのか?
そして、彼の決意は…?!
それでは、本文をどうぞ!
Side Hal. ~ハル・サイド~
第七話 ヘタレの決意は固い……多分ね?
「や、やるよ……!」
つい、そう発言してから少し後悔した。
飛竜なんて噂でしか聞いたことがない。まして、戦うなんて途方もないことである。自信など、有るほうがどうかと思う。
でも、僕は頷いた。理由や根拠はないけれど、できる気がした。本来の目的である報酬に目が眩んだ訳じゃない。単純に、レイの“勝てる策”というものを信じただけかもしれない。
いや、彼の信頼できる何かを感じた……なんて言ったらまた馬鹿にされるだろうなあ。
「途中でびびって逃げんなよ?」
レイが品定めするように僕を見る。僕は軽く笑いを返したが、変じゃなかっただろうか。
「逃げないよ。……初めてだからわかんないけど」
わからないけれど。なんとなく頬がひきつったのは悟られただろうか。
でも、一人で行けと言わずに、一緒に行って報酬を山分けしよう、という辺りが彼の性格を表しているようで少し笑えた。
「んだよ?」
「レイくんって優しいんだね」
「うっせぇ。てめぇが危なっかしいから、仕方なく一緒にいくだけだ。というか初対面の相手にそんなこと言える気が知れねぇ」
即答。
ははは。言うとすぐ返り討ちだ。
「で、本当に行くのか。生半可な意識じゃ、どんなクエストを受けても結果は同じだが」
「うっ……い、行くよ」
初めてのクエストが飛竜種だなんて普通じゃ有り得ない訳だし。戦うのは僕じゃない(すでにシノライン任せ)にしても、ちょっと……いやかなり怖いのが本音。
「明日は依頼場所の下見に行くか」
「え、明日?!」
それは急で驚いた。もうちょっと先の話かと思っていた。しかしレイは平然として答える。
「被害が出ていて、国が討伐隊を派遣するのも時間の問題だ。早いほうがいい」
あ……明日か。まあ、下見だけだよね、うん。
でも軽くショック。下手したら、明日のうちに竜に出会っちゃうかもしれないんだな……。もしや戦ったりとか。
「そっか……そうだね、うん。いろいろと準備しなきゃ。じゃ!」
無理やり話を曲げて、そそくさと部屋を出る。レイが何か言った気がするが、振り切った。
部屋のドアが軋んだ音を立てて閉まる。室内には僕の荷物が散乱していた。
「はあ……」
『それでいいのか?』
レイの部屋に乗り込んでからずっと黙っていたシノラインが問うてきた。
「うん……。戦う方面は任せたからね? シノライン」
『まあ、飛竜種を相手にするのは楽しそうでいいんだがな』
はあー。なんだかため息しか出てこない。今日だけでいろんな事が起きすぎて頭にもやがかかっている。僕だけじゃなくて、レイも巻き込んでしまったり。
『一人になると急にしおらしくなるんだな、おい』
「悩んでるんだよおー……」
またロングソードをソファーに放り投げる。
『だから投げんな! 手入れしろよ!』
僕はベッドに飛び込む。気分は晴れない。むしろ沈んでいく。
なんでこんな展開になっちゃったんだろうか。でも僕が悪いんだよなあ。プラスしてレイまで振り回して。上位のクエスト、初めてのクエストが飛竜種なんて……。
「あっ」
ふと、ため息とモヤモヤの理由に気付いた。僕はベッドに伏せったままシノラインに聞いてみた。
「シノラインって、初めて剣を振った時のこと憶えてる?」
『あ? なんだよ急に。憶えてるっちゃあ、憶えてんな。あんときは俺もガキだったからな。軽くトラウマになった』
シノラインはどうして剣を振り、ナニを斬ったのだろう。トラウマになってしまう出来事とはなんだろう。怖いと思ったのだろうか。
僕は怖い。飛竜種だとかは置いといて、初めて剣を振る、斬らねば斬られるということが。
僕は不安に感じて当然なのかな?
『誰にだって最初と最後はあんだろ。どっちもいつかはその身に訪れるんだからな。心配すんな、お前は俺の腕を甘くみてるのか?』
「そういうのじゃないよ」
シノラインのあまりに自信に溢れた言い方に、少し心が浮いた。
「なんかさ、自分が傭兵になるんだなって、思っただけ」
『今ならまだ引き返せるんじゃないのか?』
「ううん、いいよ。僕はこの生き方に決めたんだから。家の人の助けになりたいし、それにレイくんみたいに格好良くなりたいし」
『お前じゃムリだ、ヘタレ。それに目指すなら、あいつじゃなくて俺にしろよ』
肩の力が抜けた。シノラインのおかげでなんとなく楽になった。なんとなくだけれど。
『うじうじ考えてんなら、寝て忘れたほうがいい』
そのシノラインの言葉どおり僕は、うとうとと微睡み始めいつしか意識は途切れていった……。
寝て、本当に忘れて、次の日の朝には……。
というわけですね(笑)
次回、レイ・サイドで進みます。
それではっ(^^)ノシ