変人、変態。
今まで、一応三日に一度の投稿をしていましたが、今後さらに遅くなる可能性が高いです。
すみません(汗)
Side Ray. ~レイ・サイド~
応接室の扉が開かれた。
黒い燕尾服を身に纏う、俺のような紛い物ではない本物の執事が扉を開き、恭しく一礼しながら声をかけてきた。
「失礼致します。レイ様及び、そのパーティ“アカシア”の御一行様」
プラチナブロンドの髪を後ろに撫で付け、モノクルを着けた彼の動作は、とても恭しい。やはり本物の執事は品が違うな。仕草から何まで、全てが整っている。さすが………………………いや、本当に執事か? コイツは……。
「………ジェラーロ。何してんだよ、お前は」
ジェラーロ。エレドニアで情報屋を営む変人で変態。正直係わり合いになりたくない人物だが、腕はいい。俺の馴染みの情報屋というのもコイツのことだ。いつもは髪を下ろしてるし、モノクルなんて着けてないから分からんかった。
で、なんでそんな“情報屋”が、ミアルカンドの王宮で執事なんかやってんだよ?
「ニッシッシ! やっぱ気付く? まーそらそーだわな。俺のこの溢れんばかりのオーラ! それにレイちゃんが気付かないハズは無いっ!!」
「うっさい。つーかちゃん付けやめろ。そしてなんでここにいんだ、変態情報屋!」
「変態とは失敬なっ! ミーは伝説の情報屋なのですよっ!」
「口調をコロコロ変えるな。キモイぞ。それとなんでここにいんだ、答えろ」
コイツ、やっぱり本当にめんどくさい。しかも、これで大抵のことは知ってるからたちが悪い。……………俺が今までにしてきたこととか、全てを知ってそうだ。
「まーまー、そんなことよりとりあえず自己紹介させてよ。ほら、レイちゃんが助けたこの子たちにも、俺のこと知ってもらいてぇし?」
ホント、コロコロと口調を変えやがって。コイツのキャラが未だにつかめん。
とはいえ、セラフィたちがコイツの乱入によって困惑しているのも事実。さっさと自己紹介させて、お帰り願おう。
「……勝手にしろ」
「へへっ、相変わらず愛想ないねぇ~。まっ、別にいいけどなァ! つーわけで! 我輩の名前はジェラーロ・ギリアムという。よろしく頼むな。………まっ、もちろんこれはワターシの偽名だったりするわけーですが?!」
「ず、随分強烈なキャラなのね? えーっと、よろしく? ジェラーロさん。セラフィーナ・アーヴィンって名前だから、セラって呼んで頂戴」
最初に、この変態に話しかけたのはセラフィだ。………勇気あるなー。俺だったら、コイツなんて絶対シカトしてる。知り合いになったのは止むを得ず、だからな…。
「ほうほう、この子が噂のアーヴィン家のねぇ。………さらに噂では、どこぞの黒髪蒼眼の毒舌君に懐柔されて駆け落ちしたと聞いていだぁあああ?!!」
余計なこと言うなボケぇ! という気持ちを込めて、殴っておいた。他意はない。
「なにが駆け落ちだ。つーかどこまで知ってる」
「キミだけ特別な愛称で呼んだり、抱き締め合ったりしたのに、まーだキスも出来てないこととか?」
「…………………なあ、お前さ。俺のことだけわざわざ調べたりとかしてないか?」
「もっちろん! 拙者の趣味は知り合いの情報を集めていじり倒すことでござるよ!」
や、やめてくれ…………。いじられるネタとかすげぇいっぱい持ってる気がするんだけど、俺。
「ほらほら、そんなことよりも残りのヘタレくんと不思議ちゃんも名乗りたまえよ。ハルくんとルナールちゃんね、はい分かりましたぁ。今後ともよろしくお願いしますね。ほ~い、自己紹介しゅうりょー!」
「え?! ちょ、うぇえ!?? まだ名乗ってないよ??! なんで、僕の名前知って………ていうかヘタレって、初対面の人でも毎回言われるんだけど…」
「はる。たぶんこのひとはへんたいなだけ。へんたいだから変なことはしってるんだよ、きっと」
なんだその理屈? まー、確かに普通は必要じゃないと思うような情報でもいろいろと知ってたりするけど。
「で、ジェラーロ。早く要件を言いな。お前の相手は疲れる」
「えぇ~! 折角そのペア・アクセサリーのこととかいろっいろいじりたおそーと思ったのにぃ! 酷いっ! 酷いです、先輩っ! 私の楽しみを奪うなんてっ!!」
キモイっ! マジキモイ!! もうホントやだ! コイツと同じ空間にいたくないっ!!!
ただでさえ心労が溜まっている今の俺に、このノリはこたえる。俺を殺す気なのではないだろうか? いや、そうに違いない。それなら、こちらから……!!
セラフィにアイコンタクトを送り、頷いてもらい………あるものを手渡してもらう。
「もらったァァアアア!!!」
そして身を低くして飛び込み、ヤツの視線が下に向こうとした瞬間、大きくジャンプして視界のアウトレンジへ。俺はそのまま………。
バチィィンっ!!!
「いっだぁぁああああいっ!!!」
セラフィから手渡されたあるもの………ハリセンを振り下ろした。
「セラフィ!」
「レイっ!」
「「いぇーい!!」」
パンッとハイタッチ! うん、いい加減ストレス溜まってたんだよな。ここで発散できてよかった。
「ちょ、二人とも息合いすぎだからっ?! 確かにいっつもシンクロしてたけど、アイコンタクトでそこまで?!」
「「ふっ………ここまでイラつく人がいたら、ハリセンで殴ってみたくもなるんだよ、ハル」」
「そこまでシンクロしますっ??!」
「はる、レイとセラは、それがでふぉるとだよ?」
…………まぁ、その認識でいいや。今回は利害が一致した、それだけなんだけどな。
「つーわけでジェラーロ。………そろそろ仕事モードに入ってもらおうか?」
「へ? 仕事モード? この人、なんか豹変したりするの?」
「まー見てな、ハル。仕事モードのコイツは、本当に頼れる有能な人物だ」
そう言って、ハリセンでノックアウトしたジェラーロにもう一度呼びかける。
「ジェラーロ。おい、早く起きろ」
「………ん……痛……。ぬほぉ、レイちゃん! いきなり殴るのはよくないと思うわけなのですよ! 暴力はんたーい!」
「じゃなくて、仕事モードで行けっつってんだろ?」
またもやあのノリで続けようとするジェラーロに、必死で目で訴え、仕事モードに入ってもらうように頼んだ。………うん、コイツに頭下げなきゃならんのだから、先ほどのハリセンぐらい見逃されるだろう。
「…………はぁ、しょうがないね、キミは。こうやって自分を偽らないと、他人と流暢に会話できないこっちの身にもなって欲しいものだよ、まったくぅ!」
いいからさっさと仕事モードに移行しろや……。
俺のそんな心の声を察したのか、ジェラーロを纏う雰囲気が一気に変わる。
「………始める。…………とりあえず、一つ言おう。僕は今回、タダ働きだ。ついでに言えば、キミたちに少し助言をしにきた……」
いきなり寡黙な雰囲気に変わったジェラーロに、セラフィたちは唖然としているが、構わず続ける。………こいつがタダで動くのは珍しい。それなりに危険な情報なのだろう。
「助言……ねぇ。王位継承問題についてか?」
「そう…………キミたちが仲良くしていた、ジュリアス・ミアルカンド・シャンパイク。あの子は兄一派に毛嫌いされていてな。………正直に言えば、今も安全が保障されているのか、分かったもんじゃない。しっかりと彼に忠誠を誓っている騎士も多いし、キミらが接触した大臣もその一人なのだが…。現在一人だけ、彼の護衛の中に兄一派の人物が混じっている。三人の精鋭護衛部隊の中に、一人。残りの二人も精鋭とはいえ、かなり危ないだろうな」
ハル、セラフィ、ルナールは、それぞれに驚きを隠せないようだ。………だが、これはジェラーロの変わりように、ではなく、ジュリアスの現在の危険について、と言ったところか。実際、俺も驚いている。………この宮中、思った以上にどろどろしているようだ。
最初は、兄一派の過激派が独断で動いてジュリアスを殺害し、支持している兄貴の方を王に据えて、好き放題やるつもりだったのだろう、という予測をたてていたが、これは結構計画的な……兄自身も関わっているモノなのかもしれない。
「よって、僕はキミらに……二つの選択肢を提示する」
「選択…肢? なんですか、ジェラーロさん?」
ハルが、敬語で訊ねる。それほど、ジェラーロの雰囲気も変わったってことだろう。……こいつに“さん”付けってのは、どうかと思うが。
「一つ目は、ここから逃げる。キミらの荷物はちゃんと持ってきた。逃走経路も確保済みだ。………こういうのは、他国の人間が巻き込まれるべき問題じゃない。だから、僕も手は貸す。逃げたまえ」
「でも、そうしたら、ジュリーがしんじゃうよ」
「そうね………それは、悲しい」
…………だが、こちらの安全まで考えると、逃げるのが懸命だと思うのだ。
「……………そう思うのなら、二つ目の選択肢を取るしかない。二つ目の選択肢、それは彼を助けること。連れ出すも良し。問題を解決するも良し。好きにするがいい。……だがその場合、キミらが逆賊になる可能性は高い。それに加担してやるほど、僕もお人好しではないんでね。荷物を返して、さっさと逃げる」
ふーむ………ジェラーロの助けがないのは、非常に困る。なんだかんだ言って、コイツは有能だ。用意した逃走経路とやらも、完璧だろう。逆に、ここでジュリーを助けたとして、俺らが王位継承の問題を解決できるのかは不明。そうなると、一番成功率が高いのはジュリーの誘拐。……だが、王族誘拐の罪で逆賊の仲間入り。傭兵仲間たちにも追われる身となる。
「れ、レイ……どうするの?」
ハルは俺に意見を求める。……そういえば、俺がリーダーとか言ってたな、前。ったく、面倒な役を押し付けやがって。
「ジェラーロ。…………そんなもん、答えは最初から決まってるだろうが」
そう、決まってる。どんなに悩んだって、俺にはこの選択肢しか取れそうもない。
「……………そう、か。ならば、逃走経路を教えよう。キミなら、無謀な賭けなどしない。安全に生き延びてくれ」
無表情のまま、手を差し伸べてくるジェラーロに、俺は一歩ずつ近づいてゆく。
「ちょ、レイ? まさか、ジュリーを見捨……て」
「セラフィ。俺は、自分が一番いいと思った答えしか出さないよ。…………だからジェラーロ。お前に一つ言っておこう」
言葉を切り、一言。
――お前、バカだろ。
……そう続ける。
「だってそうだろう? 俺が選ぶ道なんて、どう考えたって…………ジュリーを助ける方に決まってるじゃねぇかっ!!」
あそこまで親しくなった人間を、そんな簡単に見殺しにするほど、俺ぁ落ちぶれちゃいねぇよ。
「…………ふふっ! アッハッハッァアア!!!」
唐突に、ジェラーロは笑い始める。…………俺、そんなに変なこと言ったか?
「やはりキミはミーの見込んだ通りのヒトだったYO☆ んじゃあ、さっそく拙者が協力してやろうではないか」
「……はっ?! さっき、協力しないって言いやがったじゃねぇかよ?!」
「そ、そうよ! あんた何言ってるわけ?!」
「ぼ、僕、頭がこんがらがってきたぁ……」
「…………………おなかすいた」
一人おかしいの混ざってるけどぉ?! まぁ、ルナールならそれもありかもしれんけどっ!!
つーか、助けるって? ホント、どういうことだよコイツはぁぁ?!
「DA☆KA☆RA! 助けてやるって言ってんの! それに最初っから逃走経路なんて用意してねぇしぃ? レイちゃんが見捨てるような冷たいヤツだったら、ミーは王宮のヤツらに、キミらのあくどい嘘情報を流してやろうかと思ったくらいだしねっ! されど、迷わずに我輩の甘い誘惑を押しのけるとは天晴れ! よって、助けてあげるのであ~る!!」
え、ちょ………はぁぁぁあああ??!
この時、ジェラーロが入ってきてから一番大きな四人分の悲鳴が響き渡ったとか、そうでなかったとか。