応接室にて。
Side Hal. ~ハル・サイド~
なんか、すごく、恥ずかしいんだけど……。
僕たちはその格好のままジュリアスの実家? へ迎えられてしまった。つまりは王城をコスプレしながら連れ立って歩いている。城内ですれ違う人々は一様に好奇と不信の目で見てくる。ジュリアスなんか、特に死にそうな顔している。
「…………お付きの方はこちらでお待ちください」
本物の執事らしき人が僕たちを応接室に案内した。前半の無言は、コスプレ集団を、控えながらも眺め見ていたから。あんまり、見ないでください……。
ジュリアスは僕たちと引き離されることになっていよいよ泣きそうだ。しかもスカートワンピースだし。しどろもどろ状態でジュリアスはつぶやく。
「僕は……ジュリエットだから……だから」
「何を世迷いごとおっしゃります、ジュリアスさま。あなたは国王陛下に謁見していただきますからね。その時に話を聞きましょう」
ばたん。ジュリアスは執事に連れていかれ、応接室の扉が閉められた。
ど、どうしよう? 残された四人は額を突き合わせて緊急会議。
「どっ、どうしようよ……大丈夫なのかな僕たちこんな格好で」
「だいじょーぶ、はるかわいいから」
「あ、そう? えへへ、ありがとうー」
「「そんな場合じゃないっ!!」」
レイとセラフィーナのダブル突っ込み。こんなときでも息ぴったり。っと、そんな場合じゃないよ本当に。
「あたし、ノリノリになってた自分がすっごい恥ずかしいんだけど」
「心配ない、俺もだ」
「ふ、二人はまだいいじゃん! 僕とか……人間の格好じゃないからね! モコモコだから!」
ルナールは軽く獣だしね。
「がおー」
「ひゃー、やめてぇー」
「お前ら、ほんっとお手軽だよな」
「同感ー」
そんなこと言わないでよぉー……。二人だって、楽しんでたじゃない、美少女ヴァンパイアとその毒舌執事さん。
「っていうか、傍から見れば二人とも普通な服だよね。レイは燕尾服だし、セラちゃんはブラウスにハーフパンツにマントだし。対して僕は白のモコモコ……。ねぇ何でルナールちゃん僕はこんな格好なの?」
「だからー、レイはしつじだけど、はるはひつじ」
「そのくだりはさっき聞いたからね?!」
むー、と口を尖らせるルナール。それはそれでかわいいけどなぁー。それで上目遣いだったらなんか……三割り増しでグッとくるんだけどなっ! 我が儘オオカミさんとか、かっ、かわいい……。
「コラ、にやにやすんなハル」
「えっ……あっ、してないよぅー!」
「いや、妄想ただ漏れだから」
またもレイとセラフィーナからの同時攻撃。結構痛い……。そんなににやにやしてないからねぇ! いろいろ考えたけど!
「目に見えてデレデレすんじゃねえよ」
「油断させてその隙にがぶりっていくんだわ、きっと」
好き勝手に考察されています……。オオカミさんかわいいけど、喰われるのはちょっと、ね。
「いまはそんなばあいじゃないよ」
「「「はい」」」
ルナールに諫められました。セラフィーナがばさりとマントを翻して言う。
「でも、どうしようもなくない? この格好で連れてこられちゃったんだし、あたしたちジュリアスに悪いことしてない……よね?」
「いや、俺たちは一応王子様でいろいろ遊んだんだし、向こうがその気になれば……」
レイは親指を首に当て、くいっと引いた。そ、その動作って。
「くっ、首がとぶっていうのぉー!?」
「こわーい」
僕とルナールはひとしきり怖がる。ま、まさかこんな羊さんのまま死を迎えるなんて……。羊コスじゃなくても死ぬのは嫌だよ。
「そんなわけないでしょ。一応、ジュリアスとは仲良くなったんだし、一応は」
セラフィーナがあっさり否定する。
「なんだよ、もう少し恐がらせても反応面白いし」
な、なにをぅ! 面白がってだのぉ。セラフィーナは呆れ顔だ。
「ほんっと趣味悪いわね、レイは。本気で怖がるじゃない」
そうそうセラフィーナの言うとおり! ルナールちゃん脅かすのはやめてよね! セラちゃんもっと言っちゃえー。
「ハルなんか震えてたじゃないの」
あ、僕ですか……。さいですか、はい……。生首になるのはいやですけど。
「まぁ、俺たちはクエスト受注して完遂したんだからどうこう言われる筋合いはないはずだし、むしろここはさっさと帰してくれるとありがたいんだがな」
「わたしたち悪いことしてないし、ジュリーですこしあそんでたけど」
ジュリーと、ではなくジュリーで、なんですねルナールさん。
でも確かに、僕らは遊びこそすれどジュリアスに危害は加えていない、はず。むしろ彼を更生? してあげたんだから喜ばれないとね!
あっでも、もしかして、まさかまさか、この格好で王に謁見とかないよね? さすがに失礼だよね? それは困るよ。執事と吸血鬼と草食獣と肉食獣を連れてはいけないよね、うん。っていうかこの白モコモコ羊さん意外に暑いから早く脱ぎたいな……とか思ったり。
僕が祈りとも言える思考を巡らしている最中に、おもむろに応接室の扉が開かれた。
次回、強烈キャラ注意、とだけ言っておきましょうw