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Story of one every two people ~二人で一つの物語~  作者: 柚雨&シノ
エレドニアでのあれこれの章
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こすぷれっ☆

Side Ray. ~レイ・サイド~


 人の持つ雰囲気というのは、その時々の精神的コンディションに()る。例えば、機嫌が悪く、攻撃的な思考に陥っている場合には、その人物の纏う雰囲気はとてもぴりぴりしたものになる、といった具合だ。また、気分が沈み、全てが嫌だ……などと思っている人物ならば、纏う雰囲気はとても暗ーく、陰鬱で、どーんよりした、周りの人物にまで影響を与えるものとなる。


 …………現在のジュリアスが、まさにそれだ。


「うぅ……なんで僕が…。じょ、女装なんて……」


 と、こんな具合に。なんか可哀想になってくる。そこまで落ち込むなよな。

パッと見、ジュリアスにはとても見えないし、別にいいじゃないか。おしゃれ街娘☆ジュリエット! みたいにさぁ、堂々としてろよ。


「という考えのレイ。レイもじょそうする?」

「あっ、おもしろそー! いっそハルもっ!!」


 …………………………………………………………ゑ?

 えーっと、ルナールさん? セラフィさん? 何を調子乗っちゃったりしてふざけたおしていらっしゃるので?

 これは、よくない流れだ! 回避しないとマジまずい!! そう考え、大きく息を吸い込んで反論する。


「いやいやいやいやいやいやいや、何言っちゃってんのぉお?!」

「無理無理無理ぃぃ!! ぼ、僕はあれだよ、うん、サイズ! サイズが合わないっ!!」


 ハルも追従し、否定の意を示した。…………って、そうじゃん、サイズ! 俺に合う女性モノなんて、ないだろ、うん、回避っ!!


「あぁ、そういえば……確かにレイに(・・・)合うサイズの服はないかもしれないわね…」

「え、ちょっと? ぼ、僕は?!」

「はるは、セラのを着れる」

「ちょ、えぇえ?! だ、ダメ、女装なんて無理ぃ!!」

「なにを言ってるんだ! 僕にはやらせたんだから自分もやれぇ!!」


 くははは!! 危険が去った今、俺は狼狽するハルを見ていくらでも楽しめるっ! なんて良いポジションだ!!


「だから口に出してるからぁ!! 頭の中で考えてるだけっぽくしてるけど、盛大に大声で叫んでるからぁああ!!!」

「おっと、そりゃ悪い。わざとだ、気にするな」


 やばい、今日すげぇ楽しい。


「「「「………やっぱレイって嗜虐趣味なんだ」」」」

「全員で言うな!!?」


 っと、全員で迷走を始めて、今日はどうなるんだ? こんなボロッボロな別れはごめんだぞ?

 だけど、ジュリーだけ女装させて、『気分さいあくー』状態で城下を探索しても、良い思い出にはならないだろう。とはいえ、ジュリーは変装させないと、バレて面倒なことになりそうだし…。


「あっ! いいことおもいついたっ!!」


 唐突に上がる、ルナールの声。先ほど、ジュリーの女装を思いついた時のように、その頭上には豆電球がぽっと浮かび上がっている。…………嫌な予感がするんだけど。


「みんなで、こすぷれ(・・・・)しよう!」


 ……………………はぁぁあああ??!


 ルナールは、俺たちの荷物から布類を取り出し、皆の苦言をさらりとスルーしながら魔法を使って、どんどん衣装を制作していった。






「………い、良いかも、それ」


 白いブラウスに、同じく白のハーフパンツ、そして黒のニーハイソックスによって演出される絶対領域は、目にも眩い白を現している。その上から薄蒼のマントを羽織り、口の端から八重歯を覗かせたセラフィは、俺の方を見ながらそう呟いている。ちなみに、ルナール曰く、セラフィはヴァンパイアのコスプレなんだとか。……似合うね、うん。

 だが……俺の衣装は納得いかん。しかも、それを“良い”って…。嫌だ、何で俺が…。


「なんで、執事なんかやらなきゃなんねぇんだよ…」


 そう、俺の衣装は執事の服だった。基調とする色が黒なのはいい。燕尾服というのは、確かにカッコイイかもしれない。だが、“執事”という立場が納得いかないのだ。なんせ、ルナールの設定では、“ツンデレヴァンパイアに仕える、皮肉屋で素直じゃないけどマスターのことを一番に想っている執事(もちろん、ますたーには敬語をつかう――byルナール)”というものだからだ。セラフィに、敬語って…。


「あらレイ。敬語、使わなきゃいけないんじゃなくて?」


 調子乗りやがって…。

 ここは、ちょっとからかってやるしかないな。


「………失礼しました、マスター。マスターがあまりにも普段と違って(・・・・・・)お美しいので、見惚れておりました。いやはや、馬子にも衣装とは、まさにこのことですな」


 決まった…! 言いながら、ルナールの考える執事の標準装備、ノンフレームのメガネをかちゃりとずり上げ、不敵に笑ってみた。完璧だろ、これ!!


「なっ!! レイ最悪っ!! バカバカぁ!!」

「ふふふ、マスター。少しお勉強なされた方がよろしいのでは? 人をけなす語彙が、あまりにも少なすぎると……」

「うっさい! だいたい、レイの敬語、気持ち悪いのよ!!」

「あぁ?! 使わせようとしたのはセラフィじゃねぇかよ!!」


 そうだ、ルナールがそう言い始め、セラフィはそれを受け入れてその通りにするよう、俺を促したのだ。

 そう思い、もう一度文句を重ねようとしたところで、ジュリーから一言。


「さっきからどんだけイチャつけば気が済むんだよ?!」


 っと、聞き捨てならん一言、いただきました。……いいのかぁ? 今のお前はいじりどこ満載なのを忘れたのか?


「「イチャついてねぇよ(ないわよ)、ジュリエット!!」」

「じゅ、ジュリエット言うなぁ! だいたい僕はこんな服装望んでないし…!!」


 それは、俺たちもだよ…。いや、まぁ確かにジュリアスが一番ひどいのかもしれないけど。

 だけど、みんなコスプレには違いないわけで。


「うわ~、ルナールちゃん似合ってる~」

「わたしの思ったとおり。はるのいしょう、にあうと思うよ」


 このように、なんかテンションを上げているのが信じられない。ちなみに、こいつらのコスプレは、確かに似合う。

 ハルとルナールは揃ってアニマルコスだ。一方は羊、一方は狼。当然、狼は…。


「おおかみがおー」


 がぶっ♪ とハルの頭にかぶりつくルナール。………うん、狼はルナールです。ハルの草食ぶりからしたら、当然かもな。それはそれでどうかと思うけど。ルナールは耳と尻尾を装着し、狼にしては艶のある毛並み。結構似合っている。ハルは、羊の着ぐるみ。こちらも、THE☆弱者という感じで似合っている(笑) もこもこ感が、なんともはや……こいつのヘタレさを悠然と物語っている。


「うーん。はる、あんまりおいしくない」

「うわぁぁ、僕おいしくないよぉぉ! 僕は羊じゃないから当たり前だからぁ!! ルナールちゃんも狼じゃないから生肉はお腹壊すよ?! 生肉は、いけませんっ!」

「はる、おかーさん?」


 ……………なにやってんだ、こいつらは。

 なんか話の進まない和やか過ぎる(・・・)展開に陥りそうだったので、とりあえず修正を試みることにした。


「まあ、とりあえずお前らのコスがそれの理由、教えてくれよ」


 セラフィはツンデレヴァンパイアで、俺はさっき言った通りの皮肉屋執事。なら、ハルとルナールはどうなんだろうか。


「えーと、ハルのばあいは、レイがしつじだから」


 は?


「どういうこと?」


セラフィも疑問に思ったのか、首を傾げながら問いかける。


「レイはしつじだけど、はるはひつじ」


………………………しょうもなっ!!


「わたしは、そんな迷える子羊をたべちゃうおおかみ。にげないとたべちゃうぞー」


 がおー♪ そう言って、またはるにがぶりと噛み付く。


「ぎゃあああ」


 ハルはルナールに噛み付かせたまま、どんどん走っていった。……つか、ルナールの顎の力ハンパねぇな??!


「はぁ、さっさと追いかけるか。ジュリー、女装すんのも諦めな。みんな、コスプレだ」

「……僕が一番キツいコスプレだけどな」


 まあ、そこは気にしない方向で(キリッ

 サムズアップし、セラフィを伴ってハルたちを追いかけることにした。それと一緒に後ろから溜め息が聞こえ、足を速めて追い抜いていく影。


「こらぁ、バカ二人っ!! そっちよりもこっちのがおもしろいって!!」


 あ、もう服装は諦めたんだ?





 こうして、俺たちは城下へ繰り出した。そこまで金を持っているわけではない俺たちは、いろいろな店を冷やかしてまわりつつ、たまにスイーツでも買って、コスプレをさせられていることを忘れるほどに和みながら楽しんだ。ジュリーも最後の別れまでを満喫しようと、精一杯楽しんでいる。


「ねぇ、ハル! ルナール、セラも!! あぁ、レイ早くっ! こっちだってば!! あっち! あっち行こう!! あっちには、僕のおすすめがあるっ」


 まぁ、少々テンション上げすぎな気もするけど。

 そう苦笑しながらゆっくり歩いてジュリーの方へ行こうとすると、セラフィが俺に歩調を合わせ、話しかけてきた。


「ふふっ、ジュリーも、だいぶ素直に笑うようになったわね?」

「あ? まぁ、そうだな。最初の傲慢っぽさは、だいぶ抜けた。………今では…」

「「ハルに次ぐヘタレ」」


 上手くシンクロさせ、二人で笑いあう。こんな話の種がなくなるのも、やっぱ辛いな。


「なに、レイ? 悲しいんだ?」

「……そんなわけねぇって。清々する」

「ははは、レイが素直じゃないのは、相変わらずねっ」


 あーあ、どうせ俺は素直じゃねぇよ。認めてやる。


「けっ、うっせぇ。……ほら、さっさと追いかけねぇと、おいてかれるぞ」


 でも、ちょっとムカついたから、セラフィを振り切るように早歩き。


「あっ、拗ねたぁ! おもしろい♪」

「うぜぇ!?」


 俺が言葉を返した頃、やっとジュリーに追いついた。


「相変わらず、二人ともイチャつき過ぎだって。あっ、ここだよここ! ここのクレープが、美味し……い…?」


 イチャついてない! そう反論する前に、ジュリーの言葉が不自然に途切れた。


「あれ、ジュリーどうしたの?」


 ハルが呼びかけ、俺たちはジュリーの視線を追う。


「な、なぜここにいらっしゃるので…?」


 そこには、大臣ルックのおっさん。そして、彼はジュリーだけを見ておもっきし敬語。


「……いえ、それよりもその服装は……そしてその馴れ馴れしい者共は、一体…?」

「いや、これは、えーっと………いえ、あの、わっ、わたくしは、ジュリエットですわっ! 大臣さんの見間違えでは…?」


 ジュリぃぃぃい!! 無理があるっ、無理があるぞ、それぇぇ!! それに何気に大臣だって分かることを明かしてんじゃねぇよ!! 無理がありすぎるわボケぇぇぇえええ!!!




 こうして、俺たちは全員で誤解を解こうと必死になりながら、結局王宮に連行されることになった。………一応、ジュリーのおかげで誤解は解けたが……俺たち、何されるんだろうな…。




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