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Story of one every two people ~二人で一つの物語~  作者: 柚雨&シノ
エレドニアでのあれこれの章
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別れの猶予

Side Ray. ~レイ・サイド~


 リエナや村人たちの盛大な見送りを受け、歩くこと二時間と少し。その間、セラフィとの口喧嘩は絶えず…………まぁ、相変わらずそれがしっくりくる関係だ。疲れることには変わりないが!

 と、いうわけで、かなり疲れて王都に辿り着いた。ジュリアスが王子であることはバレないように、少し地味ーに関所を通り抜け、依頼の通りなら、このまま休まずに王宮を目指すのだろう。………はぁ、なんかめんどくせぇコトになりそうな予感…。






 王都、エレドニア。商業国家、トレスフィニアを含む他国では、ミアルカンドの王都であるここは、学術都市という名でも有名であり、その名の通り、世界の知識のほとんどがここに集まっている。特に有名なのはその知識が集結する叡智の象徴、エレドニア図書館だろう。俺は、ここに興味がある。王宮などに興味はなく、ここに。

 …………何が言いたいかと言うと、俺は王宮には行きたくない。とにかく、行きたくない。王位継承問題でどろっどろした王宮に、誰が好き好んで出向くというのだ。つーか、聞いた話じゃまだ現王は健在だろ? そんな急いで王位決めようとしなくてもいいじゃん、めんどくせぇよ。

 だ か ら ! 俺は王宮の入り口まで送り届けたら、即逃げるっ! 王位継承問題が片付いて、この近くに寄ったら、ジュリーのとこまで顔を出してやらなくもないが、今はもういいだろう、帰ろう、うん、そうだ、帰ろう!!


 俺がそう決意を固め、その旨をジュリーに伝えようとした時、ちょうどヤツは俺とセラフィのところにやって来た。………い、いかん! こいつは絶対俺たちを王宮に誘おうとしているっ。先手を打たなければ!


「あれ、ジュリー、どうしたの?」


 問いかけたのはセラフィ。これに続いて、俺も口を開こうと…。


「いや、ちょっと相談が…」


 したところでジュリーが答えてしまった。……うん、いろいろ考えすぎて、追いつかなかったな。

 まあ気を取り直して、ここから修正していくか。


「相談、なぁ? めんどくせぇのはごめんだぞ?」

「いや、たぶんそういうのじゃない。ただ……」


 口ごもるジュリー。なんだ、こいつ? そんなに言いにくいことでもあるのか?

 よく分からないので、ちょうど追いついてきたハルに話を振ってみる。


「おいハル! こいつ、なにが言いたいんだ?」

「あ、まだ言えてないの? あのね、ジュリーは…」

「もういっかい、みんなで宿にとまりたいって」

「あぁ! 僕が言おうと思ったのにぃ!」

「いやいや、そもそも僕が言おうとして提案したことだろ!」


 宿に、泊まる? 誰が言おうとしたか、はどうでもいいとして。なぜ、宿に?


「宿か。別にいいけど、なんで?」

「やだ、レイ。分かんないの? そんなの、『まだみんなといたい!』って話に決まってるじゃないの」


 あぁ、そういうことね。うん、理解。でも、セラフィの言い方ちょいとイラつく。


「んだよ、そのバカにした言い方は?」

「仕返しよ、仕返し! いっつもレイはあたしをバカにするもん!」

「バカにバカと言ってなにが悪い、バカバカっ!」

「バカって四回も言ったぁ!! じゃあレイはバカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカよっ!!!」

「一つ増え過ぎだっ!! とうとう数も数えられなくなったかぁ?!」

「またバカにしてぇ!! もう、レイのバカぁ!!!」


 言いながら突っ込んでくるセラフィをひらりとかわしながら、高らかに笑い声を一つ。


「はっはー! 俺に攻撃するならもっとマシな攻撃をしな痛っ!?」


 ジュリー………思わぬ伏兵。ヤツは体勢を崩してふらついているセラフィに捨て台詞を吐いている途中の俺の頭を、背伸びしてスパンと叩いていた。

 こんなガキにやられるとは……不覚。


「今、話してるのは僕なんだけど。………それに、こんな道の真ん中でいちゃつくな!」


 むっ、聞き捨てならん。

 と、いうわけで、ふらついてぶっ倒れそうになっているセラフィの腕を掴み、支えてやりながら一言。


「「いちゃついてないっ!!」」

「いや今のその言葉に納得するヤツなんて誰一人としていないからぁぁ!!」


 うわ、珍しっ。ジュリーはハルタイプのヘタレツッコミしかしないヤツだったのに、ここまで真っ当に、綺麗にツッコミを決めてくるとは。


「ジュリー。……お前、成長したな」

「え? ど、どこがっ?」

「お前のツッコミスキルは、今まさに進化したっ!」


 ………………………………………………………………………………。


 いや、そんな目で見ないで。ちょっとふざけただけじゃん。壊れたモノでも見るような悲しい目で、俺を見るな…。


「ゴホンっ! と、とにかくっ、宿だろ? 行こう、うん、ほら着いて来いって!」

「レイ………最近、壊れること多いよね」


 ハル、その言葉………結構突き刺さるよ。






 そんなこんなで、俺たちは宿に辿り着いた。宿屋では二つ、ジュリーの金(俺たちの報酬になる予定の金)で部屋を取り、女子組と俺たち三人に別れた。とはいえ、今回はジュリーとのお別れのための猶予みたいなものだ。俺たちの部屋にセラフィとルナールも迎え、相談した結果、明日一日は全員で遊び、明後日、王宮にジュリーを届け、依頼は完遂とすることになった。

依頼の報酬は既に送り届けたものとし、俺たち四人のパーティ用ギルドバンクへ半分、残金を四等分してそれぞれに支払われた。補足だが、パーティ用ギルドバンクとは、そのギルドに所属している者全員が使用出来る資金用バンクで、パーティの食料などを買う時には大抵、そこから金を支払われる。


 まぁ、そんなこんなで俺たちパーティの懐は再び温まり、余裕が出てきたのだろう。飢えの危険からの解放なのだから当然だ。


「あした、たのしみ~」

「だねぇ。あ、ルナールちゃん、おいしいものいっぱい買おうね」

「かう~」


 そのせいで、節約とは無縁のヤツらが無駄遣いを始めようとしているワケで、正直もっと考えて使えよ、って感じだが。


「相変わらず、呑気よね」

「全くだ。コイツらはもう少し緊張感と、先を読む能力を備えて欲しいね」


 コイツらがこんなんだから、すぐに俺たちの生活費がなくなるのだ。前回も確か、そのせいで…………ん? なんかおかしい。そういえば、前回金がなくなったのって…。


「あれ、レイ。僕は、そのネックレスが値段も言えないほど高かったせいで生活費がなくなったって聞いたぞ?」


 ジュリー………確かに、その通りです。思い返せば、確かにこのペア・アクセサリーは、かなり高かった。本当になんらかの魔力がかかり、“絆が切れない”能力があってもおかしくないほど、高かった。……いや、もしそうならいい買い物じゃないか。そうじゃなくても、このアクセサリーはさりげなくセラフィとの繋がりを教えてくれる。なら、いい買い物だ。

 と、いうワケで。


「ジュリー、価値の有る買い物は無駄遣いとは言えないんだ。……理解したか? それとハル&ルナール、軽く睨むな。ああなるように仕向けたのはお前らだろ、諦めろ」

「そうよ、価値有る買い物に、ケチつけないでくれる?」


 いつの間にかこちらの方を向き、話を聞いて『そのせいでお金がなくなったんだよね…』みたいなジト目の視線を向けてきていた。それに対し、俺は言葉と正論っぽいノリで牽制し、セラフィも同調したのだが、“価値有る買い物”という言葉は、いろいろとまずかったらしい。


「あ、恋人どうしでかうものを“価値有る”ってみとめたってことは、もう二人はかんぜんに恋人になったの? 恋人じゃなきゃ、“絆が切れない”価値なんてほとんどないもんね、ペア・アクセサリーには」


 …………ルナールさん? どうしてそんなにも、こっちの赤面を誘うような発言を堂々と吐きますかね? 意図的に? 天然に? ……どちらにしても性質(たち)わりぃよ!! ………という状況に追いやられた。


 二人して首筋まで真っ赤にした俺たちを見て、この部屋は本当に軽やかな、心地よい笑いに包まれる。

俺とセラフィからしたら迷惑極まりないが………まあ、こういう形でも全員で和やかな雰囲気を共有出来るのなら、それはそれでいいのかもしれないな。そう、思った。




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