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Story of one every two people ~二人で一つの物語~  作者: 柚雨&シノ
名も無き集落の章
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私の騎士

この先、更新スピードが落ちてくる可能性があります(汗)

Side Hal. ~ハル・サイド~


「た、助けろ……助けてくれぇ」


 ジュリアスが息も絶え絶えに僕達のところへ転がり込んできた。背後ではちびっこたちがジュリアスを指差して笑っている。僕とルナールはテーブルの片隅で、積まれた馳走に手を付けていたところだった。主にルナールが、だけど。

 ジュリアスはずいぶんとへろへろだった。僕は一応ねぎらいの言葉を掛ける。


「うわぁ……お疲れさま」

「まったく、子供は嫌いだ!」


 いや、君も子供だけどね。ジュリアスは服が破けていないか丁寧に確認していた。そして、うんざりというようなため息。


「王子たるもの、民にはびょうどうに手をさしのべるべし、だよ。すききらいは、いくない」

「今それは関係ないだろ! それに、食べながら発言するなっ」


 小動物のように料理を頬張るルナールに、ジュリアスの叱責がとんだ。


「でも、子供たち放っておいていいの?」

「ああ……任せてきた。僕はもう、関わりたくない」


 僕の問いに、ジュリアスはリエナを顎で示す。リエナは子供たちに囲まれて楽しそうに笑っていた。子供が好きみたいだ。いや、子供たちに好かれてるのかも。何にせよ、和む光景だなぁ。リエナが実はもう一つの顔は怖いこととか、レイを取り合ってセラフィーナと険悪だなんて誰も思いもしないだろうなぁ……はは。


 そのセラフィーナとレイの二人は……ああ、すごく楽しそう。なんかこう、絵になる二人って感じ。端目から見て、幸せですオーラが出血大サービス、みたいな。セラフィーナはころころと表情を変えるし、レイは軽やかに笑う。はぁ……ため息が出るよ。


「噂に聞くツンデレのデレってやつだよな。絵に描いたみたいにわかりやすい」


 ジュリアスが僕と同じ光景を見ながら言った。どこの噂でツンデレって聞いたんでしょう、この王子様は。


「お似合いだねぇ、あの二人」

「たのしそう」

「爽やかすぎて逆に引くぞ」


 僕とルナールとジュリアスが、それぞれ和やかに素直に辛辣に、彼ら二人の感想を述べた。てかジュリアスさっきから厳しすぎない?



 突然、広場の片隅で拍手や冷やかしの口笛が響いた。


「え、何?」


 見ると、若い一組の男女が――僕達よりは年上のようだが、その二人が抱き合っていた。いや、女の人のほうが男に抱きついているみたいだけど。恋人同士のようだ。彼らはそのまま手をとりダンスをはじめた。音楽隊も、緩やかなワルツの曲に切り替えた。ぐっと、ムーディーな雰囲気が高まる。


 ダンスかぁ。いいなあ。あ、こうみえて僕ダンスステップは慣れてるんだよ。ずいぶん前のことだけど、舞踏会にも何度か呼ばれたりしたこともあるし。

 それに……なぜかシノラインにも教わったし。口説き文句の講座付きで。あんまり役に立たなそうだけど。シノラインの中ではルナールは例外中の例外らしいからね。

 でも、ルナールは踊れるのかな? いや待て! それよりも僕はルナールをダンスに誘えるのかっ!?

 横目で彼女の様子をうかがってみる。楽しそうに料理を口に運んでいる。うん、かわいい。ってそうじゃなくて。意外に食べるんだよなぁ。そうでもなくて。

 それに、ダンスに誘うにしても、この王子様がちょっと、邪魔……。なんか、誘いづらいし、見られるの恥ずかしいし。


「ねぇジュリアス、ちょっと子供たちを……」

「あー、ジュリー兄遊ぼー!」

「こんなとこにいたのー?」


 リエナとの遊びに飽たのか、さっきのちびっこたちがわらわらとジュリアス目がけて猪突猛進してきた。どーんっ、ちびっこ衝突、ジュリアスは宙を舞った。


「あっちでさっきの続きやろー!」

「あっ、ちょ、待っ……助けろ!」


 そのままジュリアスはあれよあれよという間に子供たちにさらわれてしまった。ナイスちびっこ集団。

 これで、舞台は整ったはず。よし、行くぞぉ!


「あー…………えっと、ルナールちゃん?」

「うん」


 ルナールは咀嚼しながら僕のことを見た。し、行けハル! やればできるぞ僕! やればできる子なの知ってるよ!


「あのさっ、おっおどっどどっ…………お、踊ろうよ」

「うん?」


 思いの外反応は鈍く、ルナールは首を傾げて僕を直視。なんのてらいもなく綺麗な蒼い瞳を向けられるとすごく、焦る。標的は想定よりレベルが高いです! たっ、たた退却ぅ!


「うぁわぁああ今の忘れてっ!」


 そのままずだーっと逃避。とりあえず広場の片隅に退避。あわわわ……む、無理無理無理っ! やっぱり無理だよぉー! でも、ダンスはしたい……あぁ、こういうときは、困ったときの彼を!


「しっ、ししシノライン……!」

『んあぁ?』


 僕の奮闘を見ていたのかいないのか、シノラインの返事はかなりけだるげだった。


「ど、どうしたらいいのっ!? ルナールちゃんとダンスしたい!」

『ばーろー、俺に訊くな』

「こないだは俺に訊けばいいって言ってたじゃんっ!」

『年齢が三桁の女性と、俺の決め技(口説き文句)が通じない不思議天然ちゃんは守備範囲外って言ったろ』

「そっ、そんなぁー……」

『それくらい自分で考えな。じゃあな』

「あっ、ちょっ、シノライン!?」


 話を切られてしまった……。レイはセラフィーナと仲良くやってるし、リエナとジュリアスは子供達に囲まれてる。頼れるのは僕だけですか……。

 木の影に隠れてルナールの様子を伺う。ダンスを断れるのは嫌だけど、ダンスを申し込めない僕はもっと嫌だ。よし、一世一代の勇気を絞りだせ! 僕は決意を改めいざ、戦地へ乗り込む。


「ルナールちゃん!」


 上着をマントの様に翻し、ルナールの前に跪き片手を差し伸べる。


「……一曲踊っていただけますか、マドモアゼル?」


 言ったー! 言いましたやりましたやっちゃいました……。手も声も震えてたけどさ。震えながら、ルナールの答えを待つ。


 …………………………?


 反応が無いためそろそろーっと目線を上げる。青空色の瞳とまともに視線がぶつかってしまい、本気で焦る。

 え、な、なに? この間なに?


 片膝をついたままの体勢で固まる僕にむけて、ルナールはドレスのように、ローブの端を軽く持ち上げて片膝を折った。貴婦人の動作のように。そしてルナールの手がそっと、僕の手に触れた。


「いえす、私の騎士(マイ・ナイト)


 僕はルナールの手を優しくとり、ゆっくりと踏み出す。広場の中央で燃える鮮やかな炎が、僕たち二人を闇から浮かばせる。

 そっとルナールを伺うと、ルナールは首を傾げて小さく笑い返してくれた。


 もう、死にそうです。




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