二つの解決策
財布を失くしてしまったハル。
困り果てた彼は、悪いとは思いながらも隣の部屋の扉を叩きます。
面倒事に巻き込まれそうなレイは一体どうするのでしょうか!
それでは、本文をどうぞ!
Side Ray. ~レイ・サイド~
めんどくせぇめんどくせぇめんどくせぇめんどくせぇめんどくせぇぁぁぁあああ!!!
なんだよ、あいつは! 何故に俺の所へ?! お前の財布の行方なんて知らねぇよ!! 勘弁してくれぇぇぇぇ!!!
……………おーけぃ、少し落ち着こう。クールになれ、俺。常に冷静でいれば、きっといいことあるって。
目の前には、半泣き……というか、ほとんど泣きながら土下座している茶髪のバカが一人。どうやら、財布を失くしたらしい。んで、俺に一緒に探して欲しいとか。
はぁ、どうしてこうなった…。よし、一旦振り返ってみよう。
ヘタレ(笑)が常識外れの行動をし、それに呆れて撃退した俺は、もう一度ベッドに転がって目を瞑っていた。先程のような夢を見たいとは思わないが、とりあえず寝たい気分だったからだ。
………まぁ、次に起きたら宿から逃げるけどな。面倒事に巻き込まれたくはない。
まどろみ始め、ちょうど気持ち良い眠りと覚醒の狭間を彷徨っている時に、その音は聞こえた。重苦しく、気分最悪…と言わんばかりのノック音。姿を見ていないのに、その落ち込みようを確認できた。
不審に思いながらも、扉に近づき、ゆっくりと開けてやる。
……………それが運の尽きだった。
「れ、レイくん。助けてぇぇ……」
扉を開けた瞬間になだれ込んできた、ライトブラウンの髪を持つ少年。……明らかにヘタレ(笑)の特徴。そして、薄っすらと涙を滲ませた金色の瞳も、間違えなくヘタレ(笑)のモノだった。…………いや、この状況ならばヘタレ(憐)か? もちろん、(憐)とは、悪い意味でしかない。
ヘタレ(憐)は何を思ったのか、俺の肩を揺さぶりながら悲痛な声で泣きついてきた。
「財布が! あの、さっき見たら見当たらなくて……。でもどうすればいいのかな?! 落としたのかも……スリに遭った? どどど、どうしよう!!」
「だぁぁっ! 落ち着け!! お前が慌ててもどうにもなんねぇだろうが。とりあえず、もう一回念を入れて荷物を探ってみろ。もしかしたら見つかるかもしれん」
「あっ、そっか、そうだね! し、調べてみる!」
俺の言葉にハッとしたヘタレ(笑)は、その場で荷物を探り始めた。……………ここにいられると邪魔だってコト、気付かねぇのか?
とりあえず、大きく咳払い。…………気付けよ。One more・咳払い。さらに咳払い・again。………何、コイツ。ホントに気付かないわけ? 気付いてないフリじゃなくて? どんだけ図々しいんだよ、コイツは。
……………それでも、結局は助けてしまうことになりそうな俺。本当に憐れなのは、俺かもしれない………そう、思った。
案の定、ヘタレ(憐)の財布は見つからず、またも涙が滲み出す金色の瞳。ヤツは静かに俺の部屋内部に入っていったかと思うと、くるりとこちらの方を向き………。
「たっ……助けてください! お願いします!! 死にたくないんですぅぅぅ!!!」
土下座して俺に頼みこんできた。
………こうして、話は冒頭に戻るわけだ。あぁ、めんどくせぇ。
ヘタレ(憐)の説明を聞くに、最初に俺と出会った時には確かに財布を持っていたらしい。つまり、俺を追いかけている時に落としたか、泊まる宿を探している時にスラれたか。そんなトコだろう。
………って、あれ? なんで俺は既にコイツを助けようとしてるわけ? すげぇ真剣に考えてたぞ? ………………やはり、お人好しなこの性格を怨む。わりと本気で。
それでも、一度助ける流れになれば、逆らうのもめんどくさくなるわけで…。
…………………結局、助けることにした。
「なぁ、とりあえずウゼェから泣くの止めな。それと、いつまでもヘタレ(笑)とかヘタレ(憐)じゃ不便だ。名前を教えろ」
「え? 助けてくれるの?!」
がばっと顔を上げ、目をキラッキラさせてこちらを見てくる。………いや、その金色の瞳は、途中で曇った。
「あれ? 僕って、名乗ったよね? レイくんの名前、訊いた時にちゃんと名乗ったよね?!」
……………そうだったか? 全く記憶にない。まあ、俺はどうでもいいことは覚えない主義だからしょうがないか。
「ひ、酷い!!?」
「テレパシー?!」
コイツ、俺の思考を読み取ってリアクションを?!
「いや、声出てたからね? 助けてもらってお礼も出来ず、今もワガママ聞いてもらってる僕でも、さすがに『どうでもいい』なんて言われたら傷つくからね?!」
「いつの間に…。声に出しているつもりなどなかったんだけどな。……まあ、どっちでもいいか。気にするな、ヘタレ(憐)」
とりあえず、ヤツの肩をバンバンッと叩き、椅子に座る。と同時に、ヤツは机を隔てて向かい側にある椅子に座るよう促した。
ヘタレ(憐)が素直に座るのを見届け、俺は静かに口を開く。
「……さて、冗談はともかく。カーストウッド、解決方法を考えるぞ」
「あ、うん。ありがとう。…って、名前知ってる?! え、さっきまでの“名前覚えてない”発言は全部冗談だったの!? しかも覚えてるのファミリーネームの方だし!!」
………一々文句の多いヤツだ。それに、ファーストネームだってしっかり覚えている。だが、親しくもねぇヤツをファーストネームで呼ぶ気にはなれねぇよ。
「口を挟むな、カーストウッド。お前が思いつかねぇんなら、俺が二つほど解決策を出してやる。……その代わり、見つかったら俺と関わるのは止めろよ」
「え? でも益々お礼しないと…」
「うるせぇ。俺を面倒事から解放するコト、つまり俺と関わらないコト………それがヘタレに出来る最高のお礼の方法だ」
本当に、話が全く進まねぇ。コイツ、金を取り戻す気はあるのか?
俺の辛辣な言葉に多少落ち込んで勢いのなくなったカーストウッドをいいことに、さっさと話を進めてゆく。
「さて、俺が提案するのは二つの解決策。一つは、純粋に財布を見つけること。………この場合、賞金首の大男と戦った場所からこの町まで、念入りに探さなければならないという気の滅入る作業が待っている。しかも、だ。スラれていた場合には、その労力は全て無駄になっちまう」
「……それは嫌だなぁ…。じゃ、じゃあ二つ目は?」
ちょっとは自分で考えろよ…とか思いつつも、俺は結局素直に答えてやることにした。………本当は、しばらく答えないで焦らした方がおもしろいんだが。
「そう急かすな。………二つ目は、一気に金を稼ぐこと。ちょうど今、上位ギルドで緊急のクエストが出ていてな。それの報酬が目を見張るほどに高い。これに成功すれば、二人で山分けにしたとしても一ヶ月は遊んで暮らせるだけの金が手に入るだろう。だがめんどくせぇのは、この討伐クエの対象が……」
―――――飛竜種だってコトだ。
カーストウッドの瞳が、驚愕に彩られる。まあ、それも仕方ねぇだろう。飛竜種なんて、軽く天災だ。いくら今回の討伐対象の飛竜種が一番低級の竜だとはいえ、それでも並の人間では遠く及ばない存在だ。そんなヤツに、勝負を挑もうとする方が馬鹿げてる。国が、討伐騎士隊を招集するのも時間の問題ってヤツだ。
それでも傭兵世界に依頼が………それも、大型のパーティではなく個人への依頼が入るのは、ある種イベント的なノリもあるんだろう。もしくはギャグか? 受ける人間なんて、ほとんどいないっぽいしな。だが……。
「驚くのも無理はない。だけど、意外と俺には勝つ策があったりするわけで、そうじゃなかったらこんな提案なんてしねぇんだ。まっ、絶対に生き残れるという保障は出来ねぇが、な」
どうする? というように、俺はカーストウッドの方を見る。戸惑いを隠せない金色の瞳に色濃い動揺を浮かべながら、ヤツは沈黙してしばらく考え込む。…………コイツがイカれていると判断する要因である、“シノライン”という剣と相談しているのだろうか? もしそうなら、妄想も大概にして欲しい。
そして、ヤツはやっとのことで考えを纏め、キョドりながらも俺へ向けて言葉をはく――。
レイくんに、『不幸』属性が追加された模様(笑)
次回もよろしくお願いします!
それでは(^^)ノシ