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Story of one every two people ~二人で一つの物語~  作者: 柚雨&シノ
名も無き集落の章
69/84

ずっと一緒にいたい

Side Ray. ~レイ・サイド~


 ふむ………バックにつくでかい組織、ねぇ…。全く検討もつかない。

“影”は基本、リディスを中心に動く組織だから、他国であるミアルカンドの、しかも王都で学術都市のエレドニアの周辺地域で出没するとは思えないし、例え傘下の山賊とはいえ、この辺にまで勢力を拡大させる余裕はないハズだ。

 まさか、奴隷になる予定だった者を逃がし、部下を長期間眠りから覚めない状態にした俺たちを追っているとか? ………いや、それはないだろう。たかだか四人に復讐するためだけに、ここまで面倒でデメリットの多いことをやることはないだろう。実力を伴わずに勢力を拡大すれば、組織の潰れる危険性は高まるのだから。


 ……………だぁぁっ! 分からん!! 大体、情報が少なすぎるんだよ!!

やっぱ、エレドニアに早く行かねぇとな。あそこには馴染みの情報屋がいる。とりあえず、ルナールの母親の情報だけを手に入れるつもりだったが、俺たちと敵対しかけている“影”の情報、そしてこの山賊たちのバックの組織について、訊かなければならないだろうな。

 とはいえ、今はジュリアスの護衛クエストを受注、実行中だ。そして、ジュリーは王族。ジュリアス・ミアルカンド・シャンパイクと言う大層な名前を持った、王位継承権第二位の人物だ。そして、俺たちはヤツとそれなりに円滑な関係を築き、王宮に招待される可能性だってある。………しかも、王位継承権第一位のジュリーの兄(名前? 忘れた、つか知らん)一派は、ジュリーが王位を継ぐ可能性を潰したがっている。つまり、ジュリーを消そうと目論んでいたりする。

 ………………………………………なんだろう、この嫌な予感は。俺たち、ミアルカンドの王位継承問題に巻き込まれたりするのか? いやいや、それはないって。うん、ジュリーの招待を断って、エレドニアで情報を集めたらすぐに逃げればいいだけじゃないか。だから、俺は王位継承問題なんかに巻き込まれない!! 絶対だっ!!!



 それでも、憂鬱な気分は抜けねぇけどな…。あぁ~、だらだらしてぇ。


「ちょっとレイー! ほら、こっち来てよっ」


 だから、だらだらしてぇって言ってんのに…。


「せっかく集落の人たちがパーティー開いてくれるのに、楽しまなきゃもったいないわよっ!!」


 ………なーんで、こんな疲れそうな企画を用意してくれてんのか。しかも、山賊を拘束したまま。さらに、王都に逃げた人間たちを呼び寄せてまで。

 あぁ、鬱だ…。




「パーティーとか、めんどくせぇよ。セラフィ、お前はハルたちのとこ行って、一緒に楽しんで来い。俺ぁ宿屋で寝てっから」

「………レイは、あたしとなんて一緒に居たくないんだ…」


 ぐっ…………効くな、コレは。少し拗ねたように俯いて、本当に悲しそうな声で訴えかけてくるのだ。効かないワケがない。

そりゃ分かってるさ、これがセラフィの策だということは。俺をパーティーに出席させようとする罠であることは分かってるんだ。それでも…。


「い、いや、そういうワケじゃねぇよ、うん。でも、でもな? 俺は少し疲れてたりすr…………………おーけぃ分かった、一緒に回ろう。バイキングなんだろう? たくさん、うまいもん食べとかないとな」


 話の途中、上目遣いでこちらの様子を窺うのはやめてくれ。意見を翻さなきゃいけなくなる…。

 罠であることを分かったうえで、断れないのは俺が悪いのか……。


「…………そ、それだけじゃないでしょ。とと、途中から、あの、その……」


 待てっ、言いたいことは分かってる!! だけど言うなっ!! これを肯定したくないっ!! あんなモノに、参加なんてしたくないっ!!!


「ダンス、あるでしょ…?」


 がぁぁぁああああ!! 嫌だ、ダンスとか無理っ、絶対!! 俺は参加したくない!! 俺はこれが嫌でパーティーの参加を拒否したいんだっ!! つかなんでこんなしょぼくれた集落で開かれるパーティーで豪華な料理を用意出来て、しかもダンスパーティーなんて貴族趣味なパーティーを開けるんだよ!? ふざけんなっ!!!


「た、確かに……あるな」

「………な、なんか、あたしに言いたいコト、ないかな…?」

「うっ……ど、どうだろうな?」

「……もうっ! しっかりしてよ!!」


 逆ギレかよ……。俺は、ダンスなんてしたくないって雰囲気出してるだろうが。察しろよ。つかなんで俺んとこ来んだよ。嫌がらせか? 嫌がらせなのか?! 嫌がらせだろ!!


「しっかり……って言われても、なぁ? 俺、ダンスなんてしたことねぇから…」


 そうだよ、俺はアカシアの中で一番貧乏な生まれだよっ!! しかも親には九歳の頃に捨てられたわっ!! 拾ってくれた師匠には、戦闘技能と旅に必要な知識しか教えてもらってねぇよ!! 悪かったな、教養なくて!!!


「だから、俺には出来ない。悪いな、他あたってくれ」

「………で、でもっ……もし、ダンスが踊れたら………あたしと踊るのは別に嫌じゃないんだよね?」

「…………あ、ああ、まぁ、そうだな」

「じゃ、じゃあ………いいじゃない。別に、ちゃんと踊れなくても恥じなんてかかないわよ。だって、みんな貴族ってわけでもないし………だから、ね?」


 …………………………あぁ、もう、分かったよ。やりゃあいいんだろ? 仕方ねぇ、腹をくくる。


「…………セラフィ」

「は、はいっ」


 緊張した顔すんなよ。こっちまで緊張してくんじゃねぇか。


「今日、俺と………俺と踊ってくれないか?」

「お、お願いします…っ! …………じゃ、じゃなくて、仕方ないから、お、踊ってあげなくもないわ、うん! 仕方なく、なんだからねっ!! 感謝しなさいっ!!!」


 はぁ、セラフィらしいお言葉、どうも。俺にはもう、いつも通りの言い合いに持ち込む気力も残ってねぇよ。

 でもまぁ、セラフィと踊れるんだ。例えダンス経験がゼロでも、少しは楽しまねぇと、な。






 途中、俺らが山賊を捕縛したことに感謝の意を示してくる村人たち(王都に逃げた人たちも含む)のお礼を軽くいなしながら、俺とセラフィは食事が置いてあるテーブルの方に向かっていた。

 このパーティーでは、野外で焚き火をし、それを中心にした広場を囲うようにテーブルが置いてあり、自由に食事を取れるバイキング形式をとっている。

王都から呼び寄せた人たちの中に音楽を志す者でもいたのか、ここで流れる音楽はしっとりと優しく流れていた。夜の闇を明るく照らす中心の大きな焚き火も、いい雰囲気を醸し出している。


「さっ、こっちよ。……あ、もうバイキング始まってる!! あぁ!! もう音楽もかかってるよ!! 踊れるみたいっ」

「テンション高ぇな、セラフィは」

「なんか、パーティーってわくわくしない? あたし、こういうのすっごく好きなんだっ」


 あー、俺はもうついてけないよ。なんでこんなにテンション上がるんだよ、コイツは。…………いや、まぁ、こういうセラフィは可愛いから、別に文句はねぇけど。


「そうか。……じゃあ、まずは料理でもよそおう」

「そうねっ♪ あぁ~、どれにしよっかなぁ」


 どの料理を食べようか迷っているセラフィを尻目に、自分の分の料理を淡々とよそいながら、思う。………このセラフィ、すげぇ癒されるんだけど。


「あっ、レイがとったのおいしそうっ! うわ~、すっごく綺麗に盛ったね!! いいなぁ…」


 欲しいと? …………うん、しょうがねぇな、癒されたお返しにあげちゃおうじゃないか!


「ほら、これ、いいぞ」

「え、いいの?」

「ああ、俺はもう一回選び直すことにするよ」

「そっか、うん、ありがと。嬉しいっ」


 満面の笑顔を向けるセラフィを見て、軽く微笑んでから、新しく自分の分をよそいながら、もう一度思う。………パーティーに出席してよかった…!

 あとで出来ないダンスが待ってるとはいえ、これは充分に楽しい。つか癒される。



 さて、俺はそれなりに楽しめてるが、ハルたちはどうか。ちょいと、覘いてみますか。……そう思い、さり気なくセラフィを誘導し、ハルたちの方に近づくと、二人の会話が(かす)かに聞こえてきた。


「ね、ねぇ、まだ食べる?」

「うん。もっと」

「あのさ、そろそろ……」

「あ、はる、それたべたい」

「あぁ、はいはい、どうぞ。……そ、それでさ」

「それもたべたいー」

「………どうぞ」


 ハル……………そんなに踊りたいのか。そしてルナール、なんかハルが可哀想になってくるから気付いてやれよ。


「あっ!」


 お? どうした? 声が聞こえてきたのは俺の隣から。つまり、声を発したのはセラフィだろう。


「見て、レイっ! ほら、あっちにリエナさんとジュリーがいるわよ」


 さっきまでのハルたちの会話を聞いていなかった代わりに、リエナとジュリーを見つけたらしい。一緒にいるのか。あいつらも、楽しんでるかな?


「ん? あぁ、ホントだな。………なんで子供たちに囲まれてんだ?」


 ここにもともといた子供たち四人に加え、さらに幼い子供たちが彼らに群がっていた。おそらく、王都に逃げていた子供たち参加しているのだろう。


「うわぁ、ジュリー(にい)の服、なんかすごーい」

「ちょ、ひっぱるな、伸びるっ! うわっ、ちょっと……ってうわっ!!」


 びたんっ! そんな音と共にスッ転ぶジュリアス。………ふはは、無様な(笑)


「あははははっ!! ジュリー兄おもしろーい!!」

「うんー! おもしろいねー!!」

「ねー!!」


 にぎやか、だな。てかリエナ、助けてやれよ。ちゃんと助けろって言いにいこうか? ………いや、止めとこう。リエナにもダンスを迫られると、いろいろとマズすぎる気がする。うん、俺が踊るのはセラフィとだけだ。そう決めた。


「ふふふ、みんな可愛いですぅ。ほらぁ、こっちおいでぇ」

「リエナ(ねえ)なんかいいにおいするー」

「ホントだー」

「ねぇねぇ、どうしてー?」

「あぁ~、みんな可愛いです、可愛すぎますっ! もう、私、ずっとここにいたいかもぉ!!」


 よし、ナイスだ子供たち。このままリエナを引き付けておいてくれ。そうすれば、俺はダンスを迫られずに済む。



その後もおだやかにパーティーは続き、いつの間にか踊り始めたハルとルナールや、未だに子供たちに困らされたり癒されたりしているジュリーとリエナを横目に見ながら、俺とセラフィはゆっくり食事をよそって食べ、軽くワインを飲み、取りとめもなくくだらない会話を交わしながら、楽しい時間を過ごしていた。

 そんな俺たちに気を利かせてくれたのか、話しかけてくる者はゼロ。完全に二人っきり。それでも気まずいなんてことはなく、ワインのアルコールによってほどよく高揚した気分で、一緒に笑い合った。




 夜もだいぶ更け、流れる音楽の曲調がゆるやかで綺麗な………踊りに向いた音楽に変わり始めた頃、セラフィがもじもじし始めているのに気付いた。そろそろ、か。


「セラフィ…」

「な、なに?」


 セラフィの声には応えず、俺は彼女の手を握り、もう燃え尽きかけている焚き火の方へ進む。

 そして魔力の動く気配。中心に進んでゆく俺たちを見たルナール辺りが、気を利かせてくれたのだろう……いや、ハルがおせっかいでルナールに頼み込んだか? ………どちらかは分からないが、とにかく光の魔法が発動され、蛍のような光が、幻想的に俺たちの周りを舞い始めた。



「さぁ、踊ろう」

「……うんっ!」


 音楽のリズムに合わせ、セラフィのステップを真似て動くだけ。ただそれだけなのに、こんなにも楽しいのはなぜだろう?

 それはきっと、この雰囲気のせいだ。俺とセラフィを包むこの雰囲気は、なんだかすごく心地よくて……。ずっと一緒にいたい…そう、思わせてくれた。



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