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Story of one every two people ~二人で一つの物語~  作者: 柚雨&シノ
名も無き集落の章
68/84

ハルの成長

Side Hal. ~ハル・サイド~


「さて、と」


 レイが最後の山賊を鋼糸で縛り上げる。さっき、セラフィーナが銃で撃ち抜いた男だ。弾丸は太ももにヒットしたみたいだけど、命に別状はなさそうだし、意識もある。でも他の山賊さんはみんな気絶。

 さすが、レイとシノラインのコンビ。致命傷どころかほとんど血を流さず敵を沈めた。かっこいいなぁ。いつか、僕もこう、レイとお互いの背中を預けながら戦ってみたいなっ! ……いつになったら実現するかわかんないけどね。



「ちっ……くしょう」


 男は僕達を見て歯ぎしりをしたが、足が痛むのか顔を歪ませた。痛そう……大丈夫なのかな?


「ね、ねぇレイ、この人めちゃくちゃ血出てるよ? 大丈夫?」

「あ? 死にゃしないだろ。おい、えーと、山賊A。死にそうになったら言えよ。そん時は治療してやっから」

「えっそれはいろいろと適当すぎでしょ」


 山賊A(仮名)は僕たちのやりとりにいっそう顔をしかめた。本当に傷が痛むのかな? それともこんなガキにやられた……なんて思ってたりして。


「そんじゃ、立て山賊A」

「足から血ぃ出して立てるかよ。そのうえ鋼糸でかんじがらめときた」


 山賊Aは自嘲ぎみに笑った。


「ったく、仕方ねぇな。リア、悪いがちょっとこいつ中まで連れてきてくれ」

「ちょっとー! リアはあたしの召喚獣なのにぃ!」

「いいじゃねえかよ! 俺の癒しアイテム!!」

「勝手にアイテムにしないでよ!!」


 ありゃま、こんなとこで、痴話喧嘩勃発ですか? リアの取り合いですか。だけど渦中のリアはレイとセラフィーナを見上げて、セラフィーナに擦り寄ってから、山賊Aの襟をわしっと咥えた。


「うわ、お、おい」


 うろたえる山賊Aにリアは、咥えたまま牙を剥き出して唸った。威嚇すらもかっこいい。そのまま白狼は、おとなしくなった山賊をずるずる引きずって洞窟の中に消えていった。


「おい、ハルはそこの二人組を中に連れてけ。まだ終わりじゃねぇぞ」


 レイが僕の近くに転がっていた気絶山賊を差す。鋼糸でがっちり縛り付けられている。


「あっ、うんー!」


 返事はしたけど、大の大人ふたりって、それなりに大きい。それに重そう。気絶してるから、暴れる心配はないけど。

 僕はよっこらせと男二人の首根っこをつかんで引きずる。あ……っ、あれれ? 思ったより重くない。この二人が軽い? いや違うよね。あっ、じゃあ僕の力?


「ねぇねぇっ、レイー! なんか僕筋肉付いたみたいー!」


 僕の嬉しい報告に、さもどうでもよさそうなレイの返事が返ってきた。そのレイは男三人をまとめて運んでいた。


「そりゃよかったな。それと、俺の名前を伸ばして呼ぶな」


 なんか、山賊BとC(仮名)を引きずっているだけなのに、思わぬところで自信が付いたよ。まぁ、なんか気合い入ったからいいけどさ。


「よぅし、これからは少し筋トレに力入れようかなっ」

「えー。きんにくついたはる、ちょっとむり」


 なんか不服そうな音を上げたのはルナール。な、なんで? ちょっと無理とか、さりげに傷つくんだけど。


「え……じゃあ、ほどほどに鍛えるよ」

「うん。なら、いい」


 今度はルナールの許可もおりた。よし、彼女の言う通りに、ほどほどに頑張ろうっと。

 僕はルナール好きでいるんだから、僕もルナールに好きになってもらえるようにならなきゃねっ! あははっ!


「はる、ちょっときもちわるい」


 ごめんなさい。




 洞窟の中に山賊を運び入れる。中ではさっきの山賊Aさんがリアに監視されていた。

 ルナールのライトの魔法で照らすと、それなりに広い空間だということがわかった。さらに目に入ったのは、縛られて絶賛気絶中の山賊たち、ざっと数えて十余り。いやー、不意討ちとはいえ、この荒くれ者まとめて倒しちゃうんだもん。僕たちアカシアはすごいっ! って、そこに感心するんじゃなくて。

 早速レイが山賊に拷問……もとい問いただす。


「他のヤツ起こすのめんどくせぇから山賊A、おまえ代表な。一応訊くが、なんであんな寂れた村なんか襲ってんだよ」

「はっ、そんな質問に俺が答える義務なんてねぇよ。それより、なんでお前らがこんな寂れたとこにいんだよ」


 山賊Aはなんか、捕まってんのに余裕綽々な雰囲気。もしかして、最後の手段とか、ひみつ道具とか出てきちゃったりするのかな?


「訊くの俺、答えんのがお前。じゃねぇと……セラフィ、拳銃な」


 レイが僕達に視線をやる。が。


「うわ、レイこわ……」

「ほんと、最近目に見えて……うん」

「これがジュリーのいってた、しぎゃく?」


 僕達揃って一歩引く。


「ハル、引くな! セラフィ、目に見えてってどういうことだ! ルナール、そのネタ引きずりすぎだっての!」


 弁明だか突っ込みだかを一息に叫んで若干息を切らすレイ。それを見て山賊が鼻で笑う。


「仲間割れかよ」

「よくあることだ。それは置いといて。お前ら、謝罪の代わりにこの村で畑でも耕しとけば?」


 山賊Aは、なぜか突然笑いだした。それも、おかしくてたまらない、みたいな感じ。ちょっと、怖っ。


「っは、馬鹿なガキだな。俺たちのバックにはでかい組織がついてることも知らずに。お前らなんか一捻りだろうぜ」


 あー、最後の手段とかひみつ道具はその組織さんってこと? Aさんが余裕な表情な理由もこれなのかぁ。じ、じゃあ僕達危なくないっ!?

 でもレイは、やっぱクール。


「こんなダメ部下を持つ組織なんか考えられねぇけどな」

「はっ、どうだか」


 すごい組織って…………はっ!?

 一瞬、僕の灰色の脳細胞が閃いた気がした。理由はわかんないけど。とりあえず挙手してみる。


「はいはーい。ちょっとひらめいたー」

「なんだよ、ハル」


 レイが僕を指名する。僕は閃きを確かめるように山賊Aに訊く。


「えーと、山賊Aさん? 組織の上司さんたちはすごい人なんだよね」

「あぁ。俺たちは会ったことねぇが、相当情け容赦ない御方らしいぜ。それがなんだってんだ」


 情け容赦ないんだ……。だったら、僕の仮定は当てはまるかも。僕はさらに山賊Aに尋ねてみる。


「じゃ、その情け容赦ない上司さんが、この……僕達にあっさり負けた山賊さんたちを生かしておくの、かな?」


 見る間に山賊Aの顔色が豹変していく。真っ青というか、白に。

 あっ、当たった? 組織って、任務に失敗したヤツは切り捨てろ! みたいなイメージがあるのは僕だけかな……。

 なんか、相手の裏を掻くってすっごく気持ちいいなぁ! なんか、すごいかっこいい気がする!


「はる、かっこいー」

「えへへっ!」


 うわぁい、それにルナールに褒められた! 素直に、うれしい。

 レイは、山賊にむけて重苦しく宣告する。


「まぁー、限りあるあと僅かな命を、畑でも耕して平穏に過ごせよ」


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