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Story of one every two people ~二人で一つの物語~  作者: 柚雨&シノ
名も無き集落の章
65/84

恋愛相談なんて、俺にするな。

Side Ray. ~レイ・サイド~


 この集落に着いて二日が経った。

 俺たちの中で隠密性に優れているのは俺だけだったため、主に情報収集は俺だけで行うことになった(もちろん、村人からすでにある情報を集めるのはハルたちに任せた)が、一応有益な情報をいくつか集めることに成功した。

 山賊たちのアジトの場所(とある洞窟にある)、その周りの地形やアジト自体の状況まで調べ、こちらから襲撃する場合の作戦も立てた。

 ついでに言えば、この集落で迎え撃つ作戦も、立ててある。……まぁ、こちらの場合、色々と準備が必要なんだが。


 そして、俺たちが得た情報の中でもっとも有益な情報は、ヤツらが襲撃してくる日程についてだ。なんと運良く、今日から数えて三日後にこの集落を襲撃する計画を立てていることを知ることが出来たのだ。


 これを受けて、俺たちの取るべき行動パターン……というか、取ることの出来る選択肢は二つ。

 一つ目は、集めた情報により最初に立てた作戦通り、洞窟をこちらが襲撃するパターン。この方法ならば相手の不意をつくことが可能だが、地の利は相手にある。つまりこの方法を取るのなら、ヤツらがこちらの襲撃に動揺している間に一気に畳み掛け、捕縛しなければならない。

 二つ目は、この集落で迎え撃つパターン。こちらでは少々受動的な作戦になってしまうが、その分こちらで罠を仕掛けやすい。相手の襲撃に対し、一番有力な罠を仕掛け、その罠を利用して捕縛するのだ。しかし、この作戦を取るのなら、明後日までに罠の準備をしなければならないため、少し切羽詰った状況に追いやられる。


 この二つの行動パターンだ。これを今朝、アカシアメンバー+α(α=ジュリアス&リエナ)に説明し、村人たちにも説明、相談した結果、今回は一つ目のパターンを取る事となった。

一応襲撃の日取りは三日後とされているが、ヤツらがこの日程を必ずしも守るとは限らないし、そもそも誤った情報を掴まされている可能性も捨てきれないのだ。

そんな危険性も考えると、受動的な行動パターンをよりこちらから攻めた方が、成功率は高いと考えたのだろう。


 一番重要な襲撃時の作戦についてだが、これはすでに説明してある。了解は得たし、まあまあの作戦になったハズだ。ルナールを頼ることになってしまうが、致し方ない。

 ………情報収集にもルナールを一度連れて行って必要な情報を集めたが、これも致し方ない。ルナールの魔法の知識、実力、利便性は、どうしても俺には足りないのだから。

 情報収集においてだが、ルナールがもっとも役に立ったのはヤツらのアジトの出入り口についてだろう。ルナールは風の精霊に呼びかけることによって洞窟(山賊のアジト)内の風の流れを確認、そして、出入り口が表に大きなもの一つ、裏に人が一人やっと通れるような小さなものが一つあることを確認出来たのだ。

 この情報のおかげで俺の立てた作戦が通用することが分かり、作戦は決定した。


 あ? 早く作戦を教えろって? いやいや、それは決行時のお楽しみということにした方がおもしろいだろ?



 というわけで、俺たちの作戦についてはまとめ終えた。

 ここで、最近気になることについて触れておこうと思う。……少し、日記みたいな感じになってしまったが、気にするな。


 “気になっていること”についてだが、それはハルの様子についてだ。

 最近、ハルの様子がかなりおかしい。なにか悩んでいるような………それでいて、どこか平和的な、ほのぼの感を漂わせ、俺から言わせりゃ不気味だ。

 何度も俺になにかを訊こうとしては「や、やっぱりいいっ」とか言って逃げ、それ以外の時はボーっとルナールを見つめたり、それに気付いたルナールがハルの方を向いて首を傾げると、すげぇニヤつく。満面のへたれた笑みだ。


 もう、超気持ち悪い。やめて欲しい。


 だ か ら ! 俺はとりあえず、強引にハルの悩み(笑)を聞き出すことにした。


 現在は昼食を食べ終わり、全員がダラダラしている時間。一応、俺が情報収集に出かける時間ということになる。


「……作戦は決まったが、情報は集めておいて損はない。今日も行ってくる」

「え、今日も行くの? ……今日こそは、あたしも連れてってよ。あたしも、役に立ちたいの」


 セラフィ。確かに、今回の情報収集において、あまり役に立ったとは言えないかもな。


「お前には、襲撃時の役割がちゃんとある。それに、今は食事の用意はほとんどセラフィに任せてるだろ? お前は、必要だよ」


 言いながら、髪をくしゃっと掻き混ぜておき、顔を赤くしているセラフィを目に焼き付けておいてから、ハルの方を向く。…………顔赤くしたセラフィ、可愛かったんだから、目に焼き付けるのはしょうがねぇだろ!


「んで、ハル。今日はお前に着いてきてもらう。いいな?」

「へ? 僕? あぁ、シノラインね。今は寝てるから、アジトに近づいてからでいい?」


 勘違いしてんな。まぁ、その方が好都合か。


「ん、頼む。じゃあ行くぞ」

「分かった」


 こうして、俺たちは宿屋の扉を開く。


 …………開く前、上目遣い&期待した目つきで俺を見上げてきたリエナのことは、とりあえず忘れることにしておこう。いや、後が怖いから、でこぴんして一言。


「俺はそんなに安売りしねぇの。でも、セラフィに料理を教えてくれるのはありがたい。サンキューな」


 あ、一言でもねぇか。………つか、でこぴんで喜ぶな。リエナ、そっちは危険地帯だ、戻って来い。


「……………行こう、ハル」

「あ、うん」


 ハルに確認を取り、俺たちは今度こそ扉を開いた。………結局、俺たちとは違う変な扉を開きかけているリエナのことは、放っておくことにして。






「さて、この辺でいいだろう」

「へ? 何が?」


 俺たちは、山賊たちのいる洞窟がある森、その入り口にいる。集落からは歩いて十分ほどのところだ。


「実を言えば、もう情報はそんなに必要ねぇんだ。んで、今日はお前に用がある」

「ぼ、僕に?!」


 どこか慌てたように聞き返すハル。あー、そういえば最近はハルと二人で話すことって少なかったな。………うん、俺がセラフィと一緒にいたからだな。しょうがねぇじゃん、あれからセラフィと概ね仲の良い関係を築けてるんだから。いや、言い争いは多いけど。それに、リエナの対処にも時間とられてるしな。

 っと、今はそれは関係ねぇな。


「ああ、お前に用がある。シノラインでもなく、ハル、お前だ」

「……うん、僕、ね。ちょうどよかったよ。僕も、レイに訊きたいこと、あったんだよね」


 おう、それだ、それ。お前の訊きたいこと……それを俺は聞きだし、一応悩み(笑)を解決してやらなきゃなんねぇんだ。


「そうか。じゃあ、聞こう。……俺は、お前が何かを訊きたそうにしてたから、呼び出したんだしな」

「ほえ~、そうなんだ。さすがレイ、僕のことをよく分かってるね!」

「……そりゃあ、お荷物でヘタレでも、お前は俺の相棒だしな」


 子供の頃、親に捨てられた時、友人を捨てた経験のある俺にとっちゃ、コイツは俺にとって一番近しい友人……だ。認めたくはないが、コイツは俺の親友なのかもしれない。


「あ、うん……ありがとう」

「………だが、調子に乗んなよ? 相棒でも、お前はお荷物でヘタレだ。しっかり鍛えるから覚悟しな」


 言いながら、でこぴん。補足だが、俺のでこぴんは地味に痛いらしい。


「うぅ~、酷いよお…。はっ、まさか本当に嗜虐しゅmいだあっ!?」


 何か調子に乗ったことをおっしゃりそうだったので、頭をハリセンで叩いておいた。もちろん、こういう時のためにロングコートの四次元ポケット(笑)な懐に入れておいたのだ。


「いたい……」

「そうか、それはよかった」


 ハルの苦言など、俺の右耳から入って左耳から出るまで素通りだ。


「さて、さっさとお前の悩み(笑)をブチ撒けろ。…………どんなくだらねぇコトでも、一応相談に乗ってやるから」

「………んと、うん。よろしく」


 こっからが本題だな。まぁ、悩みなんてだいたい分かってる。どうせ、ルナールのことが好きで、どうやって告白すればいいか、とか、どうやってルナールを振り向かせるか、とか、そんなヘタレた悩みなんだろう。


「あのね、僕、最近思うんだけど…」

「おう、なんだ?」

「僕って、ルナールちゃんのコト、好きなのかな…?」


 …………ん? 少し、趣旨が違うような気がするぞ?


「だって、ルナールちゃんの趣向とか気になるし、つい頭撫でたくなっちゃうし、可愛いし、この前の相合傘も緊張したし、可愛いし……」


 あー、ダメだ、コイツ。俺も恋愛方面に関しては結構なヘタレの自負がある(認めたくはない)が、コイツは俺の遥か上をいく。もう、俺のとこからじゃ見上げることすら困難だ。さすが、最強のヘタレ。

 ついでに言うと、さり気なく二回『可愛いし』を使うな。


「一つ、言おう。……お前がルナールに惚れているのは、ほぼ確実だ」

「うぇえ?! ほ、ホントに??」


 必要以上に驚くな。こっちがびっくりする。


「ああ。そして、ルナールも恐らく満更でもない感じだ。根拠として、お前がお前自身の時…つまりシノラインじゃない時、あの子はお前の近くにいたがる。だが、シノラインが憑いてる時、ルナールはお前に頭撫でられるの嫌がるだろ? やっぱ、お前がいいと思ってんだよ」


 何がいいのか、俺にはさっぱりだけど。………いや、確かにコイツのへたれた笑みは、周りを平和にするような雰囲気があることは確か、か。


「そ、そうなのかなぁ…」

「ああ。だけど、お前がこの先、アクションを起こしすぎるのも、なんかしっくりこねぇんだよな」

「むぅ……難しい」

「俺だって、難しい。恋愛関係について、俺はほとんど分かんねぇし」

「………うーん、やっぱ、僕には無理なのかなぁ…」


 二人して、沈黙。うん、俺が相談に乗るべきではなかったかもしれない。……いや、仲間のケアくらい出来なくてどうする。しっかりしろ、俺!


「……無理じゃねぇって。お前は、ルナールを好きだって自覚したんだ。なら、自分の思う通りに行動すればいいのさ。ありのままのお前を受け入れてくれるヤツ、それがお前に合うヤツで、少なくともルナールはお前を受け入れてる。そうじゃなきゃ、好んでお前と一緒にいようとしない」


 なんか、言いたいことがぐちゃぐちゃに混ざって、分かりにくいかもしれねぇけど、続ける。


「お前は、今まで通りでいい。したいようにすればいい。………あくまで俺の一人よがりの考えだが、偽らない自分を好いてくれるヤツと一緒になるのが一番いいと思うんだ。だから、お前は今までどおりにルナールを好きでいろ。そしたら、そのうち現状に満足できなくなって、告白なりなんなり、するんじゃねぇのか? 大事なのは、どれだけ一緒にいるかじゃなくて、どれだけあの子を想うか。これに尽きる、と俺は思う」


 想えば想うだけ、それは行動に表れてくると、俺はそう思うんだ。

 俺の言葉を聞き、ゆっくりと頭の中で咀嚼するように考えている………ように見えるハル。


 そしてヤツは口を開いた。


「…………そっか、うん、そうだね…! 僕、ルナールちゃんのことを好きでいる! それだけで、なんか変わるんだよね? よかったぁ、なんにもしなくても変わるなんて、すごいなぁ」


 ………ハル、認識の仕方が、結構違う。


 こういう所、直した方がいいんだろうか? それとも、そのまま“天然”というチャームポイントとして、残しておくべきなのだろうか?

 分からない。俺には、分からないな…。



 今日、一つ悟ったこと。


 『恋愛相談なんて、俺にするな』




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