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Story of one every two people ~二人で一つの物語~  作者: 柚雨&シノ
名も無き集落の章
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相合傘でもヘタレはヘタレ。

Side Hal. ~ハル・サイド~


「しぎゃくしゅみってなーにー?」

「ああ、残虐なことが好きってことだ。ていうか、年上なのに何も知らないんだな」


 ジュリアスがまたルナールに要らないことを教え込んでいる。こうやって社会の悪いことを知っていって子供は大きくなるんだなぁ。おぉ怖い。


「レイねたのかな?」

「そうじゃないかな。テーブルに突っ伏したままだし」

「なんでアイツが両手に花なんだかな。嗜虐趣味なのに」


 それレイが聞いてたら絶対に色々と殺されてるよ、ジュリアス。


「残酷なことがすきとか、はる、がんば」


純粋なルナールが悪い言葉覚えちゃったよ。その対象が僕っていうのもなんか納得行かないよ。あぁ、悪い芽は摘み取っておかなきゃ。よし、ジュリアス排除。


「いだっ! なんで僕殴られた!? ヘタレ何で殴った!」

「もう、ルナールちゃんに変なこと教えないの!」

「な、なんだよ! 母親かっ!?」

「え、はる、おかーさん?」


 お、ルナールが反応した。ヘタレに追加して、母親ってスペックも良いかもねっ! ヘタレなお母さんってどうかと思うけど。それに僕一応は男だし。


「え、僕そんなにお母さんぽい?」

「うん。じゃあおとーさんはレイだね」

「うわー、この夫婦やばそう」


 ルナール! ジュリー!! なに、この子たちそんなに性質(たち)悪いの!? 夫婦な上にやばいって何ぃー! なんか根本的に間違ってる気がするよぉおー!

 お、落ち着け、僕……。


「ふっ、二人とも、僕はともかく、レイが起きてたら……危ないよ」

「ジュリー、レイったら両手にはかかえきれないくらい花があつまってくるね」

「お、たまに巧いこと言うな」


 ルナールも便乗した。実は、かなりの腹黒なんじゃないかな、この二人は……。しかも僕も花としてカウントされてるし。

 ルナールをジュリアスのそばに置いておくと、なんだか危ない気がしたので、ジュリアスは追い払うことにした。


「ほら! ジュリアスはもう少しで王城に帰るんだから、身支度ちゃんとしておきなよ!」

「む、そうか?」


 そうして悪の芽ジュリアスを二階に追い立てた。静かになると、古い厨房で作業している様子が耳に届いた。


「あぁーっ、セラさん違いますよぉー? これは……アタシの方が断然上手にでき……こうですよっ!」

「あ……ありがと」


 水の滴る音や食器のぶつかり合う音の合間に女子二人の声が聞こえる。僕には……その声で二人の仲の良し悪しを測ることはできない。というか測るの怖いし。

 二重人格を飼い馴らすのも大変そうだけど、二重人格と一緒にクッキングなんて、そっちの方が大変みたいだ。セラフィーナ若干引いてるみたい。

 レイは仮眠、ジュリアスは荷の整理、セラフィーナとリエナは料理中。ヒマしているのは僕とルナールだけみたいだ。


「はるー、ひまー」

「僕もだよ。ちょっと外に出る? そこら辺散歩とか」

「いくー!」




「あ、うん、わかった」

「こちとら忙しいのにフラフラしやがっ………いえ、いってらっしゃーい♪」


 一応、散歩に出ることをキッチンの二人に告げておいた。おぉ、般若が突然笑顔になるとびっくりする。っていうか普通に怖いと思う。二重人格って……あ、僕とシノラインも若干二重人格?



 宿の外に出てみる。空には分厚い灰色の雲が立ちこめている。そのせいかわからないけれど、村の雰囲気もどんより思いし、薄暗い。そして、やっぱり人の気配がない。さっき押し寄せてきた男たちや子供は、家の中に閉じこもっているのか、誰も出歩いていない。

 そんな中でも、黒髪と同色の長裾の服をなびかせて、ぱたぱたと楽しそうに走り回る少女。


「ルナールちゃん……楽しい?」

「うんー。あっ、あそこが村のまん中なの?」


 ルナールが言いながら指差したのは、広場らしき開けた空間と、その真ん中にある噴水。なんか、半分ライオン半分魚みたいな魔獣の口から滝のように水が流れるのだろうが。しかし今は水は出ておらず、噴水は枯渇している。


「真ん中だろうけど、噴水は使われてないね」

「つまんないー」


 なにを思ったか、ルナールは渇いた噴水に両手をかざして、なにやら唱えている。魔力増強のロッドは、宿に置いたままだ。


「え、ルナールちゃん何するの?」

「うりゃ!」


 やや抜けた掛け声とともに、モチーフのライオンの口からざばーっと水が溢れだした。魔法? 僕には何が何だかわからないが、隣のルナールは満足気だった。


「うん、ちょっとはおもしろい」

「何やったの?」

「水の精霊さんの力で空気中の水分を凝縮させてさらに圧迫」

「訊いた僕が悪かったよ、ごめん」


 ルナールの言っている内容がわからなくもないけど、彼女から難しい言葉が出てくることが違和感だった。似合わないなぁ……。

 ルナールは楽しげに、僕はなんとなく、その水を噴き上げる様を見ているうちに、だんだんと流れる水の勢いは減少し、ついには流れを止めた。


「あ、止まった」

「水がなくなったみたい。おしまいー」


 噴水には飽きたようで、またフラフラと歩き出したルナール。その自由さに呆れながら、僕はその後を追う。


「わ、つめたっ」


 不意に、僕の首筋に雫が落ちてきた。さっきの水かと思ったが、違うようだ。また一滴。うわ、これって。


「ルナールちゃん、雨! 雨!」

「わぁー」


 雨脚は、降り始めて数秒で本降りと化した。濡れて風邪でもひいたら大変だ。ほら、僕お母さん気質だし? とりあえずルナールを連れて、閉まっている店先で雨宿り。


「うわー、降り出しちゃったね」


 雨雲は灰色よりやや色濃く、雨は止む様子が無い。むしろ強い。どうしよう。


「傘なんて、持ってないよね」

「ないないー」


 濡れて帰るには少し気が引ける距離と雨の強さ。止むのを待つには、どれくらいかかるだろう。


「あ」


 ルナールが何か閃いたようだ。爛々と僕を見る。


「ん、どしたの?」

「わたしまほう使えたんだった」


 そう言うと、ルナールは具合良く傘の様な形のシールドを張った。それは、持ち手の無い傘のような。それが彼女の頭上に浮いている。


「おわー! すごいルナールちゃん!」

「じゃ、はいって」


 僕はルナールの隣にお邪魔する。あら! これって相合傘なんじゃないかな? う、うわあ、ルナールと相合傘だよ近いなぁ! あっ、な、何考えてんだろ僕。

 ゆっくり、彼女の歩調に合わせて歩き始める。彼女基準のシールドの高さだから、若干屈まなきゃいけないけど、そんなの気にならない。なんかもう、これ、恋人同士みたいじゃないかなっ? そっとルナールの顔を窺うと、楽しそうだ。何が楽しいかはわからないけど。

 う、うわ。なんか、気付いたら沈黙になっちゃったよっ。何か、喋るべきなのかな。いや、それとも手を……手を!? どうするっていうんだ。ああっ、が、頑張れ僕どうにかしろー! ルナールがすっ、好きなのなら……。


「ついたー」


 頭上の傘代わり、消失。気付けばすでに、宿の前。相合傘タイム、終了。

 忘れてたよ……僕、ヘタレだったね……。当分立ち直れそうにないや、ははは。っていうか、僕、ルナールのこと好きなのかな……確かに今すごい、その、ドキドキしてるけど。そのルナールは長い髪を振り乱して雨粒を払い落としている。小動物みたいな可愛い仕草だなぁ。


 まさかっ、これが恋ってやつですかっ! 後でレイに訊いてみようー。相棒だしね。そう思って、宿の扉に手を掛けた。



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