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Story of one every two people ~二人で一つの物語~  作者: 柚雨&シノ
名も無き集落の章
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なんか壊れてるけど、気にしないで欲しい。

Side Ray. ~レイ・サイド~


 そんなこんなで俺たちは王都一歩前の集落に着いた。

地図にすら載っていない。こんな集落があるとは初めて知った。そんな集落に、俺たちはなんだかんだで辿り着いたのだ。


 あ? そんなこんなとか、なんだかんだってどんなだって? 聞きたいか? …………いや止めとこうぜ、ハルがあまりにも不憫だ。不憫になるような事をさせてきたのは俺だけど。

 だって、最近のハルは俺を見るたびに震えだす。……こともある。俺が近づくと地獄を見るとでも思っているのではないだろうか。

 それに、そんな光景を見ていたジュリーが、俺に特訓を頼むことがなくなった。……せっかく鍛えてやろうかと思ったのに。


 そんな地獄の特訓を積ませてきた日々なんて、聞いてもおもしろくねぇだろ? だから飛ばす。文句ねぇな? うん、文句は言わせねぇ。


 というワケで、俺たちは集落に着いたんだよ。

 …………まぁ、そのまま何事もなく王都に着くなんて、俺たちが(いや俺が?)いたら到底不可能なんだけどな…。


「なんだよ、コレは……」

「………村人が…いない…?」


 セラフィが俺に応えるように、呟いた。……そう、人がいない。いや、奥にはいるのかもしれないが、見たところ人っ子一人いない集落。家屋は風化しかけていて、もうココの人々はどこかへ行ってしまったかのように見える。


「ね、ねぇ、レイ? どうしようか? 集落が見えた時から宿屋で休むモードに入ってるから、また野宿はキツイよ。………身体中筋肉痛だし…」


 そりゃ悪かった。ただ、修行を頼んできたのは他でもない、お前だからな? それと…。


「……“宿屋で休むモード”って、一体なんだよ?」

「うぇ? そりゃあ、宿屋でゆ~っくり、の~んびりする気分になってたって事だよ~。ね、ルナールちゃん?」

「うん。ゆ~っくり、の~んびりするの、すき。なんかね、心がほわ~ってなる」


 うん、それ多分いつもだろ? お前の雰囲気は、いつも“漂ってる”って表現が正しいほど、ほわほわしてるよ。


「あっそ。まー、こんだけ風化してても雨風は凌げる。元宿屋もきっとどっかにあるだろうし、料理だって作ればうまいもんが食えるさ。幸い、このパーティは料理がうまいしな」

「あっ、それって私のコトだったりしますぅ? 嬉しいです! ありがとぉ、レイぃ♪」


 …………勘弁してくれよリエナ。抱きついてくんな。セラフィの機嫌がどんどん悪くなるから。ホント、止めてくれ。そんなコトされたら、しばらく言い争いか、もしくは口聞いてもらえなくなるパターンになるから。………助けてくれよ、マジで。

 そんな中で、俺が思いついた回避方法は一つだけだった。


「………ん、あー、確かに、リエナの料理はうまいよな、うん。……ただ、今日はなんかセラフィの作った料理が食べたい気分だ。おー、なんかすげー食いたくなってきた。よし、セラフィ!」


 俺はやんわりとリエナを引き離しながら、セラフィの名を呼んだ。その際、少しセラフィの方へ寄っておくコトもポイントだ。


「な、なによ?!」

「今日の料理はお前が作ってくれ、な? 期待してるからさ」


 自分に出来る精一杯の笑顔と共に、セラフィの顔を覗き込みながら一言。……よし、これで回避だろ!!


「しょ、しょうがないわね! うん、レイがそこまで言うんだったら、考えなくもないわ!! ………あ、でも、あんたが言うから作るワケじゃないんだからね! 勘違いしないで!!」

「しないしない。でも、期待してるぞ?」

「……うっ……分かった。レイが好きなの、いっぱい作るからね…?」

「ああ、待ってるよ」


 きたっ! 回避!! 助かった……。


 ………と思ったら。


「ぎぃぃいい!! くっそ、料理はアタシの得意分野だってのにィ! これまで取られちゃやってられないよォ!!」


 あー、“嫉妬”モード突入ですか? 止めてくれ、マジで。これ以上、俺に頭痛を与えないでくれ…。


「………リエナも、セラフィの補助を頼むな」

「はい! 分かりましたぁ。私に任せてくださいねっ」


 はいはい、もうマジ疲れたよ。しかもいきなり元に戻ってやがるし。………ジュリアスなんて、この会話に入るのが怖くてずっと黙ってるから。なんか可哀想になってるくる。だが…。


「……ジュリー、黙ってないでちょっとは助けろや…」

「む、無理だっ! ぼ、僕にそんなこと出来るわけないじゃないかっ」


 使えねぇ…。まぁ、ハルは言わずもがな。あのヘタレがこういうコトに使えるワケがない。ついでに、ルナールもたまに鋭いこと言うくせに、こういう時は大概的外れで突拍子もないことを言い出す。

 ………あぁ、結局は自分でどうにかしなきゃいけないわけね…。


「ちょっとレイー? 急いでっ! 早く作りたくなってきたの!!」

「おう、ちょい待てセラフィ! 今行く!」


 しかも軽く置いてかれてるし。ホント、嫌んなる。






 ………と、こんな感じで宿屋を見つけ出し、セラフィのメシ食って、宿屋の残骸でゆっくり寝れればそれでよかったんだ。

 だが、それで終わるパーティ“アカシア”じゃない。………いや、俺の引き寄せた面倒事が、そんなに簡単に終わるわけがない。

ああ、自覚してるさ。たまたま拾った女性が魔物だったり、その女性に惚れられたり、そのせいでパーティ内の女性に軽く嫌われたり、仲直りしたと思ったら、助けた魔物の女性にキレられたり、殺せなかったり、奮闘したりするというTHE・面倒事を引き寄せてきたのだ。それに、お荷物なヘタレを拾い、そのままパーティにしたりもしているのだ。さすがに面倒事を引き寄せているのが自分だってことには気付くさ。

あれ、俺が面倒事を(こうむ)ることなくパーティに引き入れたのって、ルナールだけじゃね? おぉ、ルナールはいい子だ、ホントに。尊敬するよ、うん。ハルにはもったいないね。


 っと、現実逃避はもう止めにしよう。さすがに、鬱陶しくなってきた。


「おい! 話を聞いているのか侵略者!! どうせまた、この集落を乗っ取りにきたんだろう?!」


 はい、これが俺の言う“面倒事”だ。どうやら、俺たちをなんらかの侵略者と勘違いしてるっぽい。んで、十人くらいのおっさんが俺らの居る元(?)宿屋を包囲し、それぞれの武器を向けている。

俺からすれば、こんな寂れた集落なんて要らねぇよ! って感じだけど。つか、この集落にまだ人いたんだね! そっちのがびっくり!!


「れ、レイ!! どうしよう?! いくら武器向けてても、村人は襲えないよっ」

「シャキっとしろヘタレ! だ、だからヘタレって言われるんだ! っというわけで、全力で僕を護れ、いいな? ってか護って、お願いっ」


 …………おーい、ジュリー! お前ふざけてんの? マジいい加減にしてくんない? 確かに依頼主だから助けるけども。そんな動揺するんなら、ハルを叱咤すんなアホ。


「バカ、二人ともヘタレてんじゃねぇよ。こういうのはな、話し合いが一番なんだ。な、ラブ&ピースだ。………というワケで、武器を下ろせ、村人A~Jの諸君。じゃねぇとコッチからも攻撃するぞ、オイ!!」

「って、あんたも役立たずじゃないの!」


 パシン! と響く音。うん、綺麗に頭スパンといかれたよ。セラフィ、お前結構センスあるよ。


「冗談だっての。全く、最近のセラフィは冗談が通じなくて困る。だからいつまでもツッコミにもボケにもなりきれねぇんだよ」

「そっ、それはあんたもじゃない! あたしとの言い争いがなかったら、セリフなんてほとんどないんだからね!!」

「要らねぇよ! あいにく俺は語り部(かたりべ)なんでね! 結構忙しいのさ!!」

「何が語り部よ!! ただ愚痴をつらつらほざき続けてるだけでしょうが!!」


 んだと! 聞き捨てならねぇぞ!!


「おいおい、とうとう言っちまったな?! なら需要がない者同士、手を組もうじゃねぇか!! 言い争いで出番を増やす!!」


 はははっ! いくら聞き捨てならなくても、出番ゼロよりはマシだ!!


「しょうがないわね、ここは協定を結びましょ!!」

「おう、お前とってのは微妙だが、しょうがない、そうしよう!」

「あたしだって、あんたとは嫌だけどね! まぁしょうがないわ!!」

「ま、俺が譲歩した結果だけどな?」

「何言ってんのよ? あたしが譲歩したんだからね?」


 む、対抗してくんのか。いいだろう、受けて立つ。…………俺が壊れてきたとか、そういう文句は受け付けない。クールが売りだとかほざいてたじゃねぇか! って文句も、いっさい受け付けねぇ。これが俺だ! たまには壊れて、調子にのりたくもなるさ! しょうがねぇだろ? これくらいの現実逃避はさせてくれ!!


「はっ、譲歩したのは俺だ!!」

「あたしよ!!」

「おーれ!」

「あたし!!」

「「~~~~~~っ!!!」」


 睨みあう。とことん目と目を合わせ、睨みあう。………あー、こうやって見ると、やっぱセラフィは可愛いな、うん。って、なに考えてんだよ、俺は。とうとう、頭イカレたな。

 ってか、これってさり気なく見つめあってる感じ? うわっ、やっぱやめとこう。なんかハズい。


 セラフィも同時に察したのか、なんとなく顔を赤くしてそっぽを向く。


「あ、終わった~? レイもセラちゃんもご苦労さま~」

「もう、ふたりがけんかばっかなのはあきらめたよ」

「それに、今回は村人たちを呆気にとらせる作戦だったんだろ?」

「ふふっ、さすがレイですぅ。完全に村人たちを開いた口が塞がらない状態にしてますっ」


 ……………別にそういうつもりはなかったけど、まぁそういうコトにしておこう。うん、それがいい。

 セラフィにも、そのようにアイコンタクト。頷いてくれたので、分かってくれたようだ。


「ま、まぁな。うん、これくらい当然の技術だ」

「そ、そうね。あんたたちも見習いなさいよね」


 ……………やーっぱ、無理があるような気がする。


「おっ、お前たち!! ふざけるな!! 侵略者のくせに変な痴話喧嘩見せやがって!!!」

「「痴話喧嘩とはなんだぁ!!!」」

「「「「「「「「「「いやハモるなぁ!!!」」」」」」」」」」


 いや、さり気に合わせてきたおっさんたち十人もすごくね? まぁただの現実逃避だけど。


「うーん、よし。めんどくせぇ。………ハル、お前に任せた☆ 修行の成果を見せてやれっ!!」


 うん、これでいいだろう。つーわけで、ヨロ。


「うぇえ!? これ、今までの修行と関係ないよね??! 関係ないよぉぉ!!!」


 ハルのヘタレた声が、宿屋中に響き渡ったとさ。



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