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Story of one every two people ~二人で一つの物語~  作者: 柚雨&シノ
移動の最中、面倒事の章
59/84

誰か……助けてくれ

Side Ray. ~レイ・サイド~


 意識を取り戻した時、俺の視界には藍色の影が映った。セラフィだ。


「あっ、レイ! 起きて大丈夫なの?」

「ああ。ありがとう。……悪い。肩、貸してくれねぇか? リエナの様子が見たい」

「えっ、うん。分かった」


 セラフィの肩を借り、なんとか立ち上がった。そして、ハルにリエナの様子を訊ねる。


「リエナは……?」

「だいじょうぶだよ、もう」


 安心させるように、笑みを浮かべて俺に教えてくれた。………俺、そんなに不安そうな顔してたのか?

 だが、無事を聞いてかなり安心したのも事実。

 安心して、もう一度意識を手放してしまいそうになるが、これ以上セラフィたちに心配をかけるわけにはいかない。なんとか意識を保ち、声を出す。


「……じゃあ、帰ろうか」


 白み始めた空の下。俺たちは今日の拠点まで歩いていった。






 次の日………というか、数時間後の朝。俺は目を覚ました。

 本当は起きたままでいるつもりだったのだが、『魔力は、つかいすぎるとつかれる』と言って眠ったルナールと、それを見て『……レイ。あんたも魔法使って倒れたでしょ? 寝なさい』と言うセラフィの言葉に甘え、数時間の仮眠をとっていたのだ。本当はまだ眠り足りないが、ハルもセラフィも、ジュリアスだって徹夜したようなもんだ。さすがにそろそろ起きだしてやらないと、申し訳ない。

 ………それに、そろそろリエナが目を覚ましてるかもしれないしな。



「……おはよう、セラフィ」

「あっ、レイ! おはよ! もう、大丈夫なの?」


 セラフィは、俺の言葉に反応し、元気に応えてくれた。そして、無事を訊ねてくる。んー、まあ大丈夫だと言ってもいいだろう。


「大丈夫だ。……っと、ハルたちはどうした?」


 周りを見渡しても、ハルもルナールもジュリアスだっていない。


「えっと、ルナールはまだ寝てるみたい。ハルとジュリアスは、リエナさんの様子を見に行ったわ」

「セラフィは行かなくてよかったのか?」

「………あんたが、心配だったから」


 ………嬉しいことを言ってくれるな。ま、でも心配かけたんなら、悪いことしたな。


「……ありがとう。勝手に悩んで、勝手に無茶してたよな、俺。いくらリエナを殺さないようにするためとはいえ、やっぱあんな魔法は使うべきじゃなかったかも」

「ううん。確かに無茶かもしれないけど、その方がレイらしいよ。ホントだったら失くなっちゃう命を『助ける』って言ってちゃんと助けちゃうんだもん。すごいよ」

「そうでもねぇよ。……俺はただ、殺したくなかったから。自己満足さ。やったことはただの自己満足で、俺は自己中心的なガキだよ。自分の思い通りに、助けたがる。死なせたくなかったら、絶対死なせない。……どうやら俺は、そういう生き物みたいだ」


 最後は少し、冗談っぽく。でも、ある意味的を射ているかもしれない。自己中に、人を助ける。お人好しというよりは、ただのおせっかいかもしれねぇけど。


「うん、それでいいよ。………そういうレイが、いつものレイ」

「じゃあ、俺はいつもどおり、めんどくさそうにおせっかい焼きながら生きてくよ」


 ニヤリと笑みを一つ。セラフィも、俺に微笑みを返してくれる。


「……さて、そろそろリエナの様子も見に行こうか。起きてるかもしれない」

「そうね。せっかく助けたんだもん。前みたいな優しいリエナさんに戻ってるといいね」


 そのままセラフィと言葉を交わしながら、リエナを寝かせているというテントに向かった。




「ハル。リエナはどうだ?」


 天幕を上げながら、ハルに声をかけた。俺の言葉に反応し、ハルは笑顔で答える。


「大丈夫そうだよ。寝息も規則正しいし。………ただ…」


 表情が曇る。………なんだ? ヤバイことでもあるのか?

 言いにくそうにしているハルの代わりに、ジュリアスが答えてくれた。


「……寝言が、な。ずっと、『レイぃ』って言ってる」


 ………………………やめてくれ。またセラフィに出て行かれたくないんだけど。頑張って仲直りしても、またリエナに暴走されたくないんだけど。この流れ、超トラウマだから。


「ふふっ、レイ、あんたかなり好かれてんじゃないの」


 ほっ……どうやらセラフィは、余裕を持って対処してくれるようだ。ある程度なら、リエナのことを気にかけても大丈夫そうだな。いや、もちろんセラフィのことを一番に考………ん? なんでセラフィのことを一番に? 別に恋人ってわけでもないんだから。


「うっせ、からかうな。……まー、無事でなによりだ。あとは、元が魔物であるリエナが、この先どうなるかってことだけだな」

「どーいうこと?」

「元が魔物ってことは、また“嫉妬”が暴走する可能性もあるし、起きたらまたあの状態なのかもしれない。もしくは、俺の魔法によって完全に“嫉妬”が消されているかもしれない。どうなるか、分かんねぇんだよ」


 そう、分からない。彼女は人間ではなく、魔物だ。どうすれば一番の結果が得られるのか、まるで分からない。………彼女の望みを出来るだけ叶えたいとは思うけど、たぶん叶えられない気がする。だって、その願いを聞くことすら怖ぇし。なんか、リエナを好きにならなきゃいけなくなりそうな気がする。それは、ちょっと困る。

 …………俺が好きなのは、セラフィだから。


「れ、レイ、どうしたの? あたしの顔になんかついてる?」


 おっと、セラフィのことをずっと見つめていたみたいだ。マズった。


「な、なんでもねぇ。いやマジで」

「動揺してんじゃないのよー。あ、またあたしが怒ると思った? 大丈夫よ、あたし、もう成長したもん。あんたが誰にデレても、問題ナシよ」

「それはそれで、反応に困る…」


 ………なんか、俺のことを全くなんにも思ってない感が、非常に大きい気がするから。いや、実際そうなのかもしれないけど。


「なによ、せっかく少しは許してあげようと思ったのにぃ!」

「つかなんでお前の許しが必要になるんだよ?!」

「い、いいじゃないの、別に!! あんたに誑かされたら、女の子が可哀想でしょ? だからデレたら怒るの!! ……ホントだからっ!!」

「なにがだよ!! 別にいいじゃねぇか、俺が女の子オトしても!!」

「無理無理、あんたには女の子オトすなんてぜぇーったい無理よ!!」

「んだと、おい!! じゃあてめぇをオトしてやろうかぁ!!」


 …………………あ。これはかなりのミスだ、うん。


「ななな、なに言ってんのよ!! あ、あんたなんかにあたしが…! あたしが誑かされるわけないじゃない! ほ、ホントなんだからねっ!! あんたのことなんか、好きじゃないんだから!!」

「あぁ?! 俺だってお前のコト好きなわけじゃねぇよ!!」

「むぅぅ!! あんたなんか大嫌い!!」

「俺の方が嫌いだっての!!」

「あたし!!」

「俺だって!!」

「あ た し !!!」

「お れ だ !!!」


 不毛ー。争いが不毛すぎるー。そろそろハル、ツッコんでくれよ。俺らは、いつでもシンクロの準備OKだから!

 そう思い、ハルとジュリアスを見ると…。


「今日も平和だねぇ」

「そうだなぁ」

「レイとセラちゃん、今日も仲良いよねぇ」

「ホントだなぁ」


 ………………なにこの和みよう。でもまぁとりあえず…。


「「俺(あたし)たちは仲良くなんかない!!!」」


 おう、シンクロできた。やっと、しっかり仲直りできた感じだな。…………シンクロが仲直りの基準ってのは、どうかと思わんでもないけど。






 その後、起きだして来たルナールを含め、俺たちはリエナのいるテントに集合していた。さすがにそろそろ、リエナも目を覚ましたっておかしくないハズだ。………そろそろ起きてくれないと、寝言がすごくハズいし。なんどもなんども、俺の名前を連呼すんな…。


「ん、そろそろおきる。呼吸のしかたが、なんかおきそうな感じ」


 ルナールの声。どうやら起きるようだ。………起きそうな呼吸の仕方ってどんなのだよ、と思わなくもないけど。


「……う………んぅ……!! あ、あれぇ……みなさん、どうしたんですか?」

「リエナさん!! 無事でよかったよ!!」

「しんぱいしたよ、お姉さん」


 真っ先に声をかけるハルとルナール。………俺から見れば、リエナの状態は出会った時と大して変わらない。まぁ、“嫉妬”状態で起きだしてくるよりは、相当楽だ。よかった。


「リエナさん。傷は大丈夫なのか?」

「レイ、容赦なかったもんねぇ」


 ジュリアスの言葉に反応するセラフィ。

………俺だって、最小限に抑えようと必死だったぞ。


「ほぇ? 大丈夫で…んっ………いたいですぅ」

「………悪いな、リエナ」

「レイ? なんで謝ってるんですかぁ?」


 やっぱ、覚えてないのか。暴走している時の記憶は、彼女にはない。どうすればいいのだろうか。


「………あ……もしかして、私じゃない“私”が、なにか……」

「私じゃない“私”って………ヤツのことか?」

「私の“嫉妬”みたいですぅ………昔、お母さんに教えてもらいました。…………レイに惚れ薬も盛っちゃったし、本当にごめんなさい…」


 申し訳なさそうに頭を下げるリエナ。ここまでされると、なんかこっちが悪いことしてる気分になってくるから不思議だ。


「……気にすんな。一応、あれで俺は仲直り出来た。逆に感謝するくらいだよ」

「あらレイ。リエナさんには優しいのねぇ?」

「むっ、別にリエナが特別なわけじゃねぇよ」

「ほんとーにぃ?」

「ホントだって! 特別なのは…………ッ! やめとく。言わない」


 特別なのはセラフィ。でも、面と向かって言えるわけねぇだろ。


「ねぇはる。レイがとくべつに想ってるのは、セラでしょ? なんでいわないの?」

「うぇえ?! あ、あの~、れ、レイだっていろいろあるんだよ! ね、レイ?」


 こっちはこっちでめんどくさい展開だな…。今の言葉で、セラフィも顔赤いし。俯いてるし。俺も顔赤いし。前見れない。



「ぎぃいい!!」


 俺が一応ハルに答えようとした矢先、突然の奇声。……はっ! また“嫉妬”なのか?! ま、マズイ!!!


「またアタシじゃなくてその女かァ!!」


 あれ? 容姿が変わってない。肌も黒くないし、なにより瞳が優しい光を灯したまんまだ。


「もう! ならアタシがアンタを振り向かせてやるよ!! 覚悟しなァ、レイっ!!!」


 しなやかで細く、綺麗な指先を俺へ向けて。裏リエナはそう豪語した。

 そして彼女は下を向き、今度は元のリエナのようなフワッとした空気を纏って一言。


「セラには、負けませんからぁ!!」


 あー、裏まで完全に使いこなしたのか。さっきまでの“嫉妬”状態の記憶も残ってるらしい。…………知ってるか? 二重人格使いこなすヤツって、結構厄介だぞ? なんたって、一人の人間の中にもう一人の人間がいるようなもんだからなぁ。しかも、なぜか裏の方まで俺を狙ってやがる。


 ………………あぁ、さらにめんどくさい展開だ、コレは。ホント、誰か…。


「……助けてくれ…」


 そう願った俺は、悪くはないハズだ。うん、絶対悪くないよ、きっと…。


レイ は あたらしい ずつう の たね を はっけん した !

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