惚れ薬を使用したらしいね?
ハルたちとリエナの会話です。
それでは本文をどうぞ!
Side Hal. ~ハル・サイド~
僕とルナール、そしてジュリアスは茫然自失の状態で、レイと連れ去られたセラフィーナの後ろ姿を見つめていた。
「……なんだ、あれ?」
「でも、もんくは言わせないとか、レイかっこよかった」
「えぇ! ルナールちゃんってあんな暴君系がいいのっ!? まぁ、俺についてこい的な性格は、女性に定評があるのは確かなんだけど……でもっ」
いやいやいや落ち着け。なにルナールの趣味嗜好を気にしてるんだ僕は。でっ、でも僕に「俺についてこい!」オーラ出すなんて無理だよなぁ。っていやいや、ルナールの趣味嗜好に合わせる理由なんかないよ、僕!
「人の趣味嗜好を気にしてる場合じゃないだろう。向こうに一人だけで取り残してきた、とかいってたじゃないか?」
ジュリアスが脱線した僕の思考を引き戻す。そうだった。レイがセラフィーナを誘拐してナニするかも気になるけど、覗いたら殺されそうだし、リエナを放っておくのも気が引ける。
というわけで僕たちはレイの言われた通りにキャンプ地へと帰った。焚き火の明かりがここからでも見えるので、そう苦労はせずに戻ってこられた。
さて、さっき様子がおかしかったのはレイで、今はリエナの様子が変だ。これってどういうこと?
キャンプ地に居たは居たものの、立ち尽くしているリエナと、その足元に転がるカップ。それを地面の火が下から照らしている。
「リエナさん?」
「な……んで?」
リエナは僕らが来た方向、レイがセラフィーナを連れていった方向を凝視していた。僕達には目もくれない。
「なんで……ねえ、なんでなの? ねぇ……」
おかしい。明らかにリエナの様子が変だ。さっきまでの明るい女の子の雰囲気は消し飛んでいる。
「り、リエナさん? コップ、落ちてるよ」
僕は取り敢えず転がっていたカップを拾い上げる。確か、レイに渡していたカップじゃないかな? 中身はすでに空だけど、強い匂いが染み付いている。
あれ……甘ったるいような匂いが鋭く鼻腔を突く。目が……霞む。あれ、えっ、あれっ? なんか、気持ち悪いかも……。
『嗅ぐな』
不意に響いたシノラインの声に、靄がかかっていた脳内が一瞬にしてクリアになる。
『お前はよぉ、ハル。酒にも弱いし精神力もないし、増してやこんな薬品には耐性も何もねぇだろ?』
薬品? っていうか寝ていたんじゃないのシノライン。
『どうせレイに夜勤とかなんだで起こされるだろうからな。で、ハル、ちょっと替わってくれ。その嬢ちゃんに話があるんでな』
「わかったけど……あ」
ルナールとジュリアス、リエナが同時に僕を見る。ありゃ、声に出てた?
「はる、なに?」
「いや、気にしないで。それと、今から何が起きても気にしないでね」
「あぁ、はるじゃないひとがでるのね」
さすがルナール、話がわかる。僕は意識を沈めるようにしてシノラインと交替する。
「へい! ハロー、ルナちゃん」
ちょうどいい場所にあったルナールの頭を撫でる。とたんにルナールのテンションがレベル2くらい下がったようだ。
「う゛ー」
威嚇された。えっ、そんなに嫌われてる? いや、今はそんな場合じゃないんだけど。
突然の変わりように呆然としているリエナに向き合う。
「やあ、お嬢さん俺は正義のヒーロー、シノラインだぜ」
「だっ、だ、誰ぇ?」
「だから、シノライン様。美女と美少女の味方だけど、君にはちょぉいと味方できねぇな。あ、可愛くないってわけじゃないかんな?」
改めてリエナを上から下まで見回す。うん、やっぱりそこのルナールとは違うな。体付きが。
「……なんですかぁ」
「いやいや、君のその可憐さに見惚れてしまっただけだよ。んで、本題。リエナちゃんさ、コレ、なにかわかるよな?」
手に持っていた、レイのカップを軽く掲げる。
「マグカップ、でしょ?」
「いやそうだけど、そうじゃなくて。この中に入ってたモノの話。俺が思うにこれは……」
もう一度、鼻を近付ける。これはやっぱり、あの甘い匂いの中に隠しこまれている…。
「惚れ薬、ってやつ?」
「っ!」
リエナの表情が強ばる。ジュリアスとルナールはひぇえ!という顔をしている。
「じ、じゃあさっきの、レイは……」
「今頃セラちゃんとあーんなこととかこーんなこととかしてんじゃねーの?」
「あのレイが、あいしてるよとかいうの? うわー」
うわーって、それは酷いなルナールさん。ほんっと、この子はたまに鋭いトコ突いてくるんだから。いや、今はそんなことより、リエナの反応はといえば。
目を見開いてこちらを向いている。元の顔が綺麗な分……なんだか怖い。そのまま微笑んできた……怖い。
「えぇ、使いましたよぉ、惚れ薬。それも、とびっきりのやつ」
「でもさ、リエナちゃん見たろ? あのガキ、真っ直ぐにセラちゃんのとこ向かったの」
「なんででしょうね……効かなかったのかなぁ?」
いや、見たのは一瞬だけれど、あの目は確実にやられていた。レイにしては珍しいヘマというか。まあ、面白いこともあるものだ。
「なんで薬なんて使っちまった?」
「だって! そうしないときっと私を見てくれないと思って……」
リエナは顔を伏せる。困ったものだ……つい癖で頭を掻く。ライトブラウンの癖毛が指に絡み付く。
「あのガキのどこが良いんだかなぁ。レイを追っても、あいつは振り向いちゃくれねぇよ?」
「……私は幸せになっちゃいけないの?」
リエナはわずかに顔を上げる。その瞳には酷く哀しい光が宿っていた。
「惚れ薬使っても、レイは私を見てくれなかった。じゃぁ、どうすればいいの……」
「僻んでんじゃねぇよ。レイが誰のものになろうと、レイが誰に心移りしようと知ったこっちゃないね。欲しけりゃ意地でも奪ってみろよ! 薬なんかで相手の心弄んでんじゃねぇよ! 結局傷つくのは自分だろ!」
リエナはわっと泣き出して森の中へ駆け込んだ。ジュリアスとルナールがジト目を向けてくる。
「……俺、やりすぎたか?」
「「やりすぎ」」
どうもこうも仕方ないし、レイ達がどういう状態かもわからないので、リエナを追うことにした。
このときは、彼女が何を抱えているのか、何かを抱えていることすら知らなかったんだ。
本格的にリエナさんの怪しさが表面化してきました。
リエナが抱えているモノとは、一体なんなのでしょうか。
次回、未だに甘かったりするレイとセラフィに邪魔が入るところから始まります。
よろしくお願いしますね。
それではっ(^^)ノシ