修行でもしとく?
ついに、あのヘタレなハルを鍛え始め…ます?
おそらく、たぶん、きっと……これは鍛えているといっていいでしょう…!
それでは、本文をどうぞ!
Side Ray. ~レイ・サイド~
「それにしても、さすがにヘタレの土下座ってのは違うな。なんつーか、クオリティの高さを伺えるよな!」
「確かに! もう、ハル=土下座のプロよね!」
「その方程式は、もう既に一般常識だな!」
ルナール隣のテント忍び込み事件の後、もう一度寝ようとしたハルを叩き起こし、今度は土下座ネタで盛り上がっていた。
まぁ、ルナールが忍び込んだネタの方がおもしろかったけどな。なんせ、見張りをしていた俺は、ルナールがハルたちのテントに入っていったことは気付いていたわけだし、知らないふりしていじるのは、マジでおもしろかった、くくくっ!
だが、今は土下座ネタだ。とりあえず、土下座ネタに花を咲かせよう!
「僕の土下座談義に花を咲かせないで?!」
いや、無理だろう。あの土下座の鮮やかさはマジでハンパない。……それと、ハルいじりはおもしろい。
「はる。はるの土下座は、きれいだよ」
「……………全く以って嬉しくないんですけども?!」
「え? なんで? せっかくほめたのに…」
うわー、天然でダメージ与えちゃうわけ、この子は。
なぜか本気で落ち込んでるし、ハルはハルで落ち込んだルナールを見てオロオロしている。情けねぇな、ホント。
「まぁ、ハルいじりはさておき」
「いじらないで?!」
「……さておき。全員、ちゃんと起きたな? ジュリーも?」
「だから、勝手に愛称で呼ぶな!」
「何気に僕はスルーですか?!」
そろそろ慣れろよな。だいたい、こいつ微妙に名前長ぇんだよ。省略させろや、めんどくせぇ。
それとハルは存在がめんどくせぇ!
「どんなめんどくさがりだ!!」
「扱いが酷すぎるぅ!!」
「テレパシー??!」
「普通に口に出してた! わざとだろ!! 絶対わざとだろぉ!!」
おう、わざとだ。………うん、さりげにジュリーもいじりがいがあるな、くくくっ!
「レイー、もうこのネタやめようよおー…」
「嫌だって言ったらどうする?」
「わたしがおこる」
あ? ルナール? ………ふーん、まぁさりげなくハルも上手いことやっちゃったりしてるってことだな。
「おう、そうか。なら止めといてやろう」
「レイ、あんたどんだけ上から目線なのよ。まっ、その方がレイらしいけどねぇ。……さて、さっさと朝食の準備、済ませましょ?」
………上から目線キャラが定着しかけてる感が気になる。
けど、一番気になるのは、セラフィがジュリーの方を全く見ないこと。いや、見れないってか? ………やっぱ、昨日の話だけじゃ……そして、俺の力だけじゃ、足りなかった……かな?
朝食の準備を終え、俺たちは組み立て式のテーブルに並んでいる。いつもだったらゆるーく食事って感じなんだが、今日のハルはなんだか様子がおかしい。
「おい、ヘタレ」
「へ? な、なに?」
「なにか言いたいコトがあんなら、すぐ言えよ」
「べ、別になんにもないよ! 大丈夫!」
「……誰かさん曰く、『聞くは一時の恥。聞かぬは一生の恥』らしいぞ」
誰かさんってのは、もちろん師匠だ。………どっかの国の古い諺らしいが、俺の師匠であるリヒト・アルフォードは、俺が師匠に訊きたいコトがあっても言わなかった時、決まってこの言葉を使っていた。
「えーと、うん。まあ、質問っていうよりは、お願い……みたいな感じなんだけど」
「お願い、ねぇ。まぁ、おおよそ検討はつく。…………俺も、そろそろだと思ってた」
予想が正しいなら、だが。コイツは以前の『みんなが笑うために強くなりたい』という言葉通り、なんらかの形で強くなろうとするハズだ。そして、一番手っ取り早いのは、誰かに師事すること。んで、一応は師匠がいたし、もう八年も傭兵やってて、経験もまあまあな俺は、ヘタレにとっちゃ丁度いい物件だろう。
「そろそろって、なんの話?」
「セラフィ、気になるか?」
「早く教えなさいよっ!」
「そうだな。ハルにも確認ってことで、言うぞ。………おそらく、このヘタレは俺に修行を頼むつもりだ。違うか?」
そのために一応、修行メニューも考えていたし、まぁ丁度いいっちゃ丁度いい。
「い、いいの?!」
「おう。いつまでもヘタレが役立たずじゃ困る。なんらかの理由で、シノラインを携帯できない場合もあるだろうしな」
「…………確かに役立たずだけどさあー。直接言われると、こうグサっとくるものがあります、ハイ」
「鍛えりゃいいハナシ。見た限り、お前自身にもまだ成長の可能性は十二分に残されてるさ」
「そう。はるはやればできる子」
ルナールの励まし(?)も受け、少しテンションの高いハルに修行をつける。まぁ、まだ朝早いし、今から一時間ぐらい修行時間に充てても問題ないだろう。
「さて、修行方法を説明しよう」
「(ジーッ)」
………ん? 当事者のハルや、見学のセラフィやルナールが俺の方を見ているのは分かる。ただ、何故かジーッと食い入るように見つめるイヤーな視線を感じるのだ。……つか、ジュリーだよな? んだよ、コイツは。こっち見つめてんじゃねぇ。子供とはいえ、男に見つめられてもキモイわ。
「…………修行方法を…」
「うん。いいよ、早くっ」
………いや、俺も始めたいけど。このキモイ視線をどうにかしてください。
「ねぇ、レイ? ハルも困ってるわよ? 早く説明してあげたら?」
「わぁーってる、セラフィ。…………だが、そこのアホガキの視線をどうにかしてもらえねぇ?」
「だってさ、ジュリー。レイがこっち見んなこのやろーっていってるよ」
いやルナール。別にそこまで酷いことは言うつもりない。……思ってはいるけどな?
「だから聞こえてるぅ!!」
「あぁ、悪い悪い。悪かったなーホント。で、俺も反省したんでコッチ凝視すんのはやめてくれませんかねぇ、王子様ー?」
「べ、別に、修行方法が気になったりなんかしてないんだからな! ましてや、僕も修行つけて欲しいなんてこれっぽっちも思ってない!!」
…………あー、修行つけて欲しかったわけね。
「あ、そう。修行つけて欲しいんなら、しっかり頼め。嫌ならどっか行け。邪魔」
「だからっ! 修行つけてほしくなんかない!!」
「なら邪魔だ。退け」
「……グゥ……わ、分かった。………僕にも、修行をつけてくれ」
なんか屈辱的ーみたいな表情だったが、一応頼んできた。………まぁ、認めないけど。
「嫌だ。さて、修行の説明を始めよう」
「なっ! ふざけるな! せっかく頼んだのに!!」
「あ、もしかして頼む時には敬語じゃなきゃダメだーとか?」
別にそういうわけじゃねぇよ、ハル。ただ、一つ。けじめをつけてもらわねぇとな。
「そういうわけじゃない。ただ、条件を一つクリア出来たら、考えないこともないな」
「な、なんだよ…!」
軽くいじけ気味のジュリーに、俺は他の誰にも聞こえないように耳打ちする。
『セラフィに、謝れ。それが出来たら考えてやるよ』
俺の言葉に、驚いたような表情をする。……俺、変なこと言ったか? セラフィを傷つけたのは事実で、これからも少しの間は関わらなきゃいけないのも事実。それなら、仲間内での溝は、少しでも埋めておいた方がいいだろうがよ。
「まあ、今からじゃなくてもいい。とりあえず、今日はハルの修行だ。お前は見てな」
わしゃわしゃとジュリーの髪を掻き混ぜて、ハルたちの方に向き直る。
「さーて、始めんぞ」
「話は終わったの?」
「ああ。じゃ、まず説明からな。………とりあえず、今ハルに足りないものって、なんだと思う?」
ハルは俺の問いかけに、しばらく逡巡した後、ひらめいたように答える。
「あ! 勇気とか?」
「………勇気がないことを自分から認めてんな。そうじゃなくて、初心者であるお前には、決定的に足りないものがあんだよ。しかも、お前の場合は頑張ればすぐにでも手に入れられるモノだ」
またもや、ハルは考える。考えて、考えて、考える。
「うー、わかんないよお…」
「使えねぇヘタレだな、おい。……セラフィ、ルナールも分からねぇか?」
「んー、全っ然。さっぱりよ」
「………えーと。たぶんだけど…」
お? セラフィはさっぱりらしいが、ルナールが気付いたか?
「え? ルナール分かったの?!」
「うん」
「言ってみ」
「たぶん、けいけん」
おー、ビンゴ。この子、たまに鋭いとこあるよな。
「ああ、正解だ。ハル、お前には決定的に経験が足りてないんだ。だから、昨日の襲撃でも慌てて全く動けない」
「うっ……た、確かに。………あ、でも、僕ならすぐに経験を積めるっていうのは?」
おう、いい質問だ。そこが、俺の考えた修行に通じるんだ。
「気になるか? じゃあ、まずはシノラインに代われ。お前の意識は、しっかりと覚醒させたままでな」
「へ? なんで?」
「いいから。それが、今回の修行に繋がる」
「えーと、うん。分かったよ」
ハルはそう答え、背中の長剣をスラリと抜いた。と、それと同時に現れるシノラインの意識。
「よー、真っ黒なガキ。それと、セラちゃんルナちゃん、久しぶり! 元気してた? あ、そうだ「うるさい」………もうちょい喋らせてくれてもいいじゃねえかよー」
「ヘタレが強くなった方が、お前も動きやすいだろ。……それと、お前の豹変ぶりに驚いてるジュリーは無視する方向で」
「確かに、この身体はへぼいからなー。……それと、俺も説明めんどくさいからその方向で同意しとくわ」
ま、セラフィはジュリーと接しづらいだろうが、ルナールは別だ。あの子がなんだかんだで説明するだろう。
「んで、シノライン。俺の考えてるコト、分かるよな?」
「それがよー。俺、ハナシ聞いてなかったんだわ。説明、頼む」
いや聞いとけよ。……あー、また寝てた感じ?
「じゃあ、説明しよう。中のハルもちゃんと聞いとけよ。…………ハルに足りない経験。それを積むには、本格的な戦闘を体験するのが、一番だと俺は思うわけだ。だが、いきなり実戦ってのもどうかと思う。そこで、俺は考えた。シノラインがハルの身体を使い、ハルはその身体の動きを注意して感じ取り、それを自身の経験とすればいいんじゃないか、と」
「ほーう。まー確かに、意識して動きを感じようとすりゃあ、俺の動きを覚えることが出来るかもしれねえな」
「うし、いけるか。なら、今回はその方法で模擬戦をする。いいな?」
「いいぜ。つか、さっさと始めな」
シノラインも納得したことだし、早速修行を始めようか。
「さて。じゃあ始めようか………死に損ない」
戦り合おうぜ、シノライン。それが、ハルの修行にも繋がる。
「てめぇ! 今のはちょっとカチンときたぞこのヤロー!」
「死に損ないは死に損ないらしく、一生死に損ないでいてもらう」
「ホントにキレるぞ、クロガキよお!」
「…………だから、お前の封印を解くことが出来たとして。そして身体まで復活出来たとして。……自殺なんてさせるつもりはねぇからな」
まぁ、シノラインにずっと言いたかったんだ。………コイツは、どうにも死ぬ方法を捜し求めてるらしいが、自殺なんてふざけた真似はさせねぇよ。
「………はっ、てめぇ……結構ナマイキなのな。しかも、クール気取ってるわりには、青い。青くせえ。…………まっ、嫌いじゃねえけど!」
「お前に好かれても嬉しくねぇよ! さ、始めんぞ!!」
「一々気に障るヤローだな! 容赦はしねえから覚悟しろよっ!!」
こうして、初めて会った時には実現しなかった『俺vsシノライン』が始まるのだった。
シノラインが身体を動かしているとはいえ、動いているのはハルの身体です。
つまり、高度な動きをよりリアルに体験できるということで、かなりの経験になるんじゃないかなぁ…という考えです。
さて、この訓練は実を結ぶのでしょうか…?
それは、次話にならないと分からないw
それではっ(^^)ノシ