あえて言おう。君の常識はズレている…!!
レイ・サイドです。
ハル(シノライン)に手合わせを頼まれたレイ。
一体どうなるのでしょうか?
楽しんでくだされば幸いです。
それでは、本文をどうぞ!
Side Ray. ~レイ・サイド~
ああ、とうとうコイツは頭がイカれ始めたようだ。剣が話したいって、どういう状況だよ? 何がしたいわけ? そもそも、戦闘時と平常時のオーラの違いが激し過ぎるコイツは、大いに怪しい。怪しすぎる。
少しでも関わることすら、ご遠慮願いたいね。
「よお、ガキ。シノライン様が出てきてやったぜ」
「いや、ガキはお前じゃね?」
とりあえず、そう返さずにはいられなかった。だってそうだろ? コイツの頭は、俺の肩ぐらいの位置にあるのだから。………まあ、殺気振り撒いてる今のコイツに、先の言葉を聞かれると面倒………よって小声で言ったわけだが。
だが、コイツのオーラは一気に変わった。戦闘時のコイツと、全く同じオーラ。あのヘタレさとは似ても似つかない、鋭く濃密な威圧感だ。
「ヘタレオーラと殺気じゃ、最悪の組合せだな」
それが率直な意見。もっと言えば、どちらの性格も俺は好かない。関わり合いになる気分になど、毛ほどもなれなかった。
先程の俺の言葉(ガキ発言の方は聞かれていないハズだ)に、なにやら喚いているが、そんなことはどうでも良かった。
俺の耳に一番ストレートに飛び込んできたのは、“手合わせ”という単語なのだから。
いやいやいや、手合わせ?
うっわ、果てしなくめんどくせぇ。俺の予感は、やはり的中する運命にあるらしい。つまり…。
………こいつと関わり続ければ、容赦なく面倒事に巻き込まれる…!
俺の勘は、確実にそう訴えている。そんな事態に陥ることだけは御免だ。と言うか、もうさっさと逃げたい。
というわけで、俺の答えは至ってシンプルなモノとなり、吐き出される。
「全く以って興味ないね」
いや、ちょっとは戦ってみたいとか、思わなくもないんだが……まあその気持ちがなくもないと、言えるような気がすると思い込んでやってもいい、というくらいには思っているんだが、それでも面倒事に巻き込まれ続けるのは御免だ。というか、マジ勘弁してくれ。俺は別に暇ってわけじゃねぇんだから。
というわけで、俺は俺の最大の武器であるスピードを大いに生かし、全速力でその場から立ち去る。
目指すは、コイツが逃げてきたであろう町だ。それなりの広さと治安の良さ(あくまで、傭兵にとっての)を持つ町……という噂を聞いたことがある。あそこまで行けば、撒けないこともないだろう。
周りの景色がびゅんびゅん飛んでゆく。風を切る感覚が、先程の戦闘で温まった身体をちょうど良く冷やしてくれる。………まあ、この運動でまたすぐに体温は上昇するんだろうけど。
後ろを全速力で追っていた気配をグングン突き放し、最終的には気配を感じることはなくなった。アイツ、諦めてくれたか?
………意外と遠かったな。こんだけ全速力で走ってれば、そりゃ汗だくにもなるだろう。まっ、俺はまだ余裕だけど。
それでも、疲れたことに変わりはない。さっさと宿取って寝よう。
…………あ、賞金首の野郎の首、持ってくんの忘れた。
最悪だ。せっかく貴重な資金源だったと言うのに…。あと、一年分の生活費しかないじゃねぇか。
あ? 充分多い? 生活費以外にかかる金がすげぇ多いんだよ! 傭兵ナメんな! 武器代バカになんねぇぞ! 武器は充実させるべきなんだよ!!
広い町という噂だったが、そうでもないな。前にいた町の方が断然広いし………何より、この宿の質はどうかと思う。受付の態度、悪すぎだ。ああいうヤツは好かん。何が『部屋? ああ、適当に入っといて』だ。仕事する気、あるのかよ。
まあ、部屋自体はそこまで悪いわけでもない。簡素気味ではあるものの、必要最低限の家具は取り揃えてあるし、どれも木製で落ち着ける。ベッドもふかふか、悪くないね。
……………よし、寝よう。
あ? まだ昼? カンケーねぇよ。眠い時には寝たいだけ寝る。それが俺の信条だ!(嘘)
……………
………
…
夢を見ていた。
過去の俺の中に、現在の俺の意識が溶け込んでいる夢。過去の出来事を、もう一度自分の視点で見直しているようだ。思うとおりに動けないことから、過去と同じ行動しか出来ないのだろう……と、適当な予想を立ててみた。
これは、いつの日のことだろうか? 正確には忘れたが恐らく、十二歳頃のキオクを垣間見ている? とある事情で両親に捨てられた俺を、救ってくれた(まあ、基本的にそう言ってもおかしくはない)師匠との修行風景。そんな夢だ。
「レイ、そんなことでは私を越えることは出来ないよ」
いくらなんでも、師匠のことはちゃんと覚えてる。真っ白に染まった髪を短く刈り込み、無精髭など無いそれなりに温和な顔の、好々爺然とした俺の師匠。…………これがまた、戦闘時との変容の仕方が激しい人だった。いつもの穏やかなイメージが一変、歴戦の戦士の表情に変わるのだから。
「慌てなくてもそのうち越えてやるさ。んで、あんたの姓を受け継いでやる。一応、それが俺の目的ってことになってるらしいし?」
「……はぁ、お前には気合いというモノはないのか…」
「あ? あるに決まってんだろ?」
瞬間、過去の俺は全速力で背後に周り、ダガーを首に突き出した。
………あぁ、これが効かねぇんだよな。やっぱ、不意討ちは強いヤツには通じない。
首の皮一枚の所で寸止めするハズだったダガーは、師匠の指の腹で完全に掴まれ、止められていた。
「ふむ…不意討ちとは悪くない。だが、もう少し狙い澄ましてやるべきだよ。そんなことでは、やはり私を越えることなど…」
む…景色が歪む。言葉が聞き取れない。なんだ? やはり夢、思い通りにはいかんな。
暗転する視界。霞む視界。揺れる、揺れる。うわ、気持ち悪っ。………つか、なんでこんなにはっきりした意識で夢を見ないといけないんだ?
混沌とした視界はやっとのことで安定を取り戻し、目の前にはベッドの上で弱りきった師匠が。………もう老衰。師匠はこの時、助からなかった。
「おい。こんなとこで死のうとしてんじゃねぇよ…。まだ俺はあんたを越えてねぇぞ」
過去の俺は声を震わせて、師匠に声をかけていた。…………滲む視界は、決して涙のせいなんかじゃないハズだ。
「……いや、レイは充分、に……私を越え…た。だから…名乗りなさい、私の姓…を。今日……か…ら、お前の名…は、レイ・アルフォード……だ」
アルフォードという姓。親に捨てられた時に、元の姓を捨てた俺。だからこそ求めた、新しい姓。確かに受け継いだが、まだ堂々と名乗れないんだ。
―――――だから、俺があんたを越えたと確信するまで、俺はただの『レイ』だ。
以前と同じ決意を固めた。それが俺の名前の由来。………姓を教えない理由。
?! なんだ??! 先程とは比べ物にならない視界の歪み。そして先程にはなかった、ゴンゴンっという轟音。一体なにが起こっているんだ?
…………と、ここまで考えて、俺はいつの間にか目を覚ましていることに気がついた。それと同時に、先程の轟音は扉を叩くノックの音だと気がつく。
「今、出る。だからそんなに激しくノックすんな」
とりあえず返事をしておき、後頭部をガリガリ掻きながら扉の方へ向かった。
扉を開けた先に待ち受けていたのは…。
「あ、こんにちは! 隣に宿をとったハルといいます。よろしくお願いしま………って、あれ? もしかして、えっと……そうだ! レイくん?!」
………………問答無用で、扉を勢いよく閉めた。鼻っ柱を激しくぶつけたのだろう、扉一枚を隔てて、痛そうな呻き声が聞こえてくる。……が、そんなことは関係ない。ここで一番言うべきことは…。
「なんでここにいる? というか、何故に挨拶? 引越しの挨拶的な? 普通しねぇよ、宿では! もっと常識持てよ! もしこれが常識と思ってんなら、お前の常識はズレてる! ズレ過ぎだ!!」
扉の向こうに声をかけ、それだけで満足して鍵を閉める。
―――――面倒事が歩いてやってきた。その瞬間だった。
レイくんに『ひねくれ』属性だけでなく『巻き込まれ』属性や『ツッコミ』属性が付加された?瞬間でした(笑)
さて、次回はハル・サイドです。
よろしくお願いします!
それでは、また次回(^^)ノシ