素直になるには時間がかかる。
はい、お待ちかね(?)レイとセラフィのデートもどきですよ~
それでは、どうぞ!
Side Ray. ~レイ・サイド~
あぁ、いい加減にしてくれ。なんでコイツは店内を歩き回るんだ。しかも…。
「ねぇ、レイー。これはー?」
…………俺を連れまわして。ハルたちは放っておいてるのに、何故に俺を連行する…?
機嫌が直ったのはいいんだが、女性の買い物は長い上にあちこち回って忙しいと聞く。そんな状態になりかけているような…。
「ちょっとレイ! 早くっ」
「おう、今行く」
催促の声がかかったので、少しだけ開いていた距離を埋め、セラフィの隣に来た。
「で? どれだ?」
「これよ、これ。このアクセサリー!」
セラフィが指差すのは、シルバーで天使の片翼を模したネックレス。まぁ、なかなか悪くないんじゃねぇか?
「悪くねぇ。だが、お前に似合うかぁ?」
俺の言葉に、セラフィはみるみる表情を怒りに染めていく。怒ってるといっても、半分冗談ってトコだろうけどな。
「なによ! どうせあたしは天使なんて遠い存在よーだ!!」
「おう、ちゃんと理解してんじゃねぇか」
「むぅー!! もう、レイなんて知らないっ!!」
だが、結局そっぽを向いてしまった。…………からかいすぎたか?
「そう怒んなっての。もっと似合うヤツ買ってやるから」
「………そんなお金、あんたは持ってないでしょ。それに、今は生活費が苦しいし、武器代も集めなきゃいけないコトだって分かってるもん。見るだけでしょ、どうせ」
失礼な。俺だって、娯楽用に貯めてた金はあるっての。
「いいから。俺はお前に買ってやりてぇんだよ」
機嫌を直すために。………あ、俺が率先して物で釣ってんじゃん。
まぁ、アクセサリーを買ってやる程度で喜んでくれんなら、それでもいいか。
「そそ、そんなこと言って………あの、その……ありがと…」
頬を上気させて、恥ずかしそうに礼を言ってきた。…………うっ、めちゃくちゃ可愛いじゃねぇかよ。反則だ、それ。
「お、おう。で、ネックレスが欲しいんだった…よな?」
「…うん。でも、あの、なんでもいい。その……あんたが、え、選んでくれるなら…」
さっきから羞恥心の欠片もない言葉オンパレードぉぉぉ!! ……………悪くないけども! むしろなんか良いけどもぉぉ!!
おっと、壊れるな、俺ぇ! クールに行こう! クールに、クールに。
「分かった。なら、真剣に選ばねぇとな。責任重大だ。………まぁ、少しくらいは意見出してくれよ?」
「うん。……ホントに、ありがとね」
ここまで素直になるとは“物で釣る”恐るべしだな。……はっ! これが女性に貢いでしまう者の心理なのか?! それは無理! 欲しがるモノは出来るだけ買ってやってもいいけど、“貢ぐ”って響きが無理!!
って、また壊れてきた。むしろ、今日は壊れてる俺が正常なんじゃねぇのか?
それでも、内心の壊れっぷりを外に出すつもりは毛頭ないけど。
「気にすんな。…さぁ、選ぶぞ」
そう言って、俺はセラフィの手を取り、店の奥へ向かう………いや、向かおうとした時に、誰かの気配を感じて立ち止まった。
「お客さんお客さん!」
と、その気配の正体は、どうやら店員だったらしい。セラフィと共に横に身体を向けると、そこには茶髪で、好奇心旺盛そうな光を焦げ茶の瞳に宿した女性店員がいた。
「お二人、仲いいんですね! お付き合いされてどれくらいになるんですか? あ、もしかして記念日です? 一年記念日とか!! そうじゃなきゃ、わざわざアクセサリーなんて買いにきませんもんね! 記念日にプレゼント! そういう彼氏、いいなぁ~、お優しいんですね! 目つきは鋭めですけど、カッコイイですし! あ、そんなこと言ってたら彼女さんに怒られちゃいますね、すいません! でもでも、彼女さんも可愛いですし、お似合いですよぉ~♪ ………って、どうされました?」
………なにこの人、このテンション。しかも勝手に勘違いしてんじゃねぇよ。俺とセラフィはそんな関係じゃねぇ!
「ちょっ……別にレイとはそんな関係じゃないもん!!」
「おう! そうだ、勝手に決めつけてんじゃねぇぞ、おい!!」
「へ? そうなんですか?」
ぽかんとした表情で、この店員は首を傾げた。信じられないって感じの表情だ。……そこまで、付き合ってるように見えるのか? 俺たちは。
「でも、お二人………手を繋いでいらっしゃいますよね? ホントに、お付き合いされてないんです?」
は? 手を繋いでる? おいおい、そんな冗談は笑え………な……い…?
「うぉうっ!」「ひゃあっ!」
忘れてた、買うヤツ探しに行こうとした時に、コイツの手を取ったんだった…。あまりに自然すぎて、完全に忘れていたよ……。
「「じ、事故っ! わざとじゃないっ!! ホントに!!!」」
あ、ここでハモるとか……完璧に照れ隠しだって思われる…。終わったな……。
「ふふっ! やっぱり仲いいじゃないですか!! それじゃあ、仲がいいお二人にはコレなんかオススメです、ハイ!!」
店員は、ハイテンションのままに近くの棚まですっ飛んでいき、そしてすぐに商品を取って戻ってきた。
「あ…可愛い…」
「……悪くねぇな」
それは、指輪だった。いや、指輪をネックレスのようにぶら下げる形にしたもので、なかなかに凝ってる造りだ。そして、指輪部分には小さな宝石が嵌っていて、片方は紅いルビーで、もう片方は蒼いサファイアという………高そうな逸品だった。
「ふふふ、ペア・アクセサリーです! どうです? きれいでしょう? 男性はサファイアの指輪、女性はルビーの指輪を、ネックレスの輪に通して首からぶら下げるんです! そうすると、二人の絆が切れることはないんですって!! まぁこれは、この地方の言い伝えってだけなんですけど」
相変わらず、よく喋る店員だ。………二人の絆が切れることはない…ねぇ。別にそういう関係じゃねぇって言ってんのに。
結局、買ってしまった…。俺もセラフィも、そのアクセサリー自体は気に入った。というか、かなり欲しくなった。そんなワケで、買ってしまったのだ。
………どう考えても、恋人同士が買うようなネックレスを。しかも、俺が貯めてた娯楽用の金では収まりきらず、生活費を軽く削ってまで。そして、互いに顔を真っ赤にしながら。
こりゃ、失礼な計画を立てていやがったヘタレたちには報告できねぇな。だが、言いたいことはある。……別に、感謝ってわけじゃねぇけど。
と、ここでハルとルナールが勘定を済ませた俺たちの方を向いた。
「おら、ハル。帰んぞ。もう、欲しいもんは買った。……お前らも、さっさと済ませろよ」
「へ? ちょ、ちょっと待って」
「はる、これ、買って買って」
「え、うん。ま、待って」
ハルは慌てながらもルナールにハンカチを買ってやっていた。黄色だったな。………ハルの瞳の色に合わせた? いや、ねぇか。ヘタレがそこまで好かれるわけはねぇ…おそらく。厳密に言えば、ハルの瞳の色は金色だし。
そして、店から出て宿に帰り、俺とセラフィは部屋が違うのでそこで別れ……俺とハル、セラフィとルナールに別れて部屋に戻った。
ハルと共に部屋に入った俺は早速、口を開いた。
「おう、ヘタレ。なんかお前、俺とセラフィの仲を取り持とうとしてたみたいだな」
「うぇえ?! き、気付いてたの?」
「あのな、セラフィはどうか知らねぇけど、俺には丸聞こえだボケ。ルナールと随分勝手な計画を立ててたみたいだな、オイ」
「ご、ごめんっ! でも、仲よくなれたでしょ? お揃いのネックレスだってつけてるしっ!!」
うわ、もう気付きやがった。
実は、ネックレスの勘定を済ませる前に、あのよく喋る店員にネックレスを着けさせられたのだ。……………なんか、ホントに繋がってる感が恥ずかしいな、おい。
「あー、これについては突っ込むな。特に、値段なんかは絶対に訊くな。……いいな、分かったか?」
最後の言葉を吐く時には、あのワイバーンと戦り合った時以上の殺気を込めて。
「わわ、分かった、うん。ぜぜぜ、絶対にき、きき、訊かないよ」
分かってくれたか。物分りのいいヘタレだ、うん。
「おう、それでいい。………それと、別に余計なことはしなくてもよかったぞ」
「え? 仲よくなれたんなら、余計じゃないと……思うよ?」
「あぁ、そういうコトじゃなくて。俺とセラフィは、ケンカしてるくらいがちょうどいいのさ。そんな関係のが、心地良い。………まぁ、たまにはああいう機会があってもいいとは、思わなくもねぇけどな」
別に、感謝してるワケじゃねぇからな。……ペア・ネックレスを買ったコトで、アイツのことを好きになるわけでもねぇし。ってか、アイツの性格はねぇよ、俺と合わねぇよ。……たぶん。
だが、一応は俺たちのことを考えてくれたわけだし、礼は言っとく。……不本意だけどな。
「……ありがとよ、相棒」
「へ? 今なんて?」
聞き取れなかったか。まぁ、だいぶ小声で言ったしな。
「なんでもねぇ。それより、あとでルナールだけには感謝しとかねぇとな。セラフィと俺が軽く仲違いしかけたと思って、気遣ってくれたみたいだし?」
「ぼ、僕はぁ?!」
「はっ! ヘタレには、逆に感謝してもらわなきゃいけねぇほど恩作ってんだ。感謝なんてしねぇよ」
「ひ、ひどいぃ~」
………ハル、それでもありがとう。少しだけ、素直になれる気がしてきたよ。ホントに、少しだけ、な。
何に“素直になる”かは訊くなよ? 勝手に察してくれ。……俺だって、まだ認めたくねぇんだから。
だから、素直になるのはもうちょい先だ。
ちょ……あれ? レイくんが軽く自覚し始めた?
早い、早すぎるよ兄貴!
まぁ、まだまだケンカばかりの二人になると思いますがねぇ(笑)
さて、そろそろマリシアから抜け出さないと、目的地に辿り着けませんね。
パーティ“アカシア”の面々にも、急いでもらわないと!
それではっ(^^)ノシ