今回は、ただのお人好しじゃねぇよ
面倒事を利用して、距離を稼ぎましょう(笑)
それでは、本文をどうぞ!
Side Ray. ~レイ・サイド~
こんにちは、面倒事。歓迎しますよ。……………ええ、ホント、マジで歓迎してますって。
だぁぁぁぁ!! またか!! またなのか??! どんだけ面倒事に好かれてんですかぁぁ??? 面倒事を引き寄せてるのは誰だよっ!!! ハルか、セラフィか、ルナールかっ!!? …………分かってる、俺だろ? ああ、認めてやるさ。
とりあえず、俺はシノラインが表層に出ているハルに目配せし、セラフィを抱えてから道を外れる。そして、道の脇にある草むらに隠れた。俺の意図を察したようで、ヤツも俺についてきた。
「ちょ…!」
抱えられたことにより、またもや顔を真っ赤にするセラフィの口を塞ぎ、耳元で話しかける。
「さっきの。見なかったのか? 未だ遠かったが、十字路の向こうから馬車がものすごいスピードで動いていた」
言いながら、セラフィを草むらに降ろす。
「だからなんだってのよ」
「はぁ、これだからお前は……いや、まあいい。シノライン・ハッカー、お前、説明しろ」
なんかめんどくさくなり、俺は裏ハルに説明を促した。あと、よろしく。
「はっ、フルネームで呼ぶな、気持ち悪ぃ。………で、説明だったか? 女の子と喋れんなら、別に構わねーよ。その代わり、俺がセラちゃんを取っても文句言うなよ、レイ?」
「…………冗談言ってねぇで、早く説明してやれ」
なんで俺に確認を取ろうとすんだよ。セラフィをオトしたいなら、勝手にやってろ。俺は止めねぇよ。
「へーいへい。んで、セラちゃん。あの馬車、なんかおかしいと思わない?」
コイツ、女性との会話では口調変わるよなぁ。
「はるじゃない人、たぶんあの馬車は速すぎるとおもう」
いつの間にか起きていたルナールが、全く反応を示さないセラフィの代わりに答えた。
「おう、俺はシノライン様な。んで、ばっちし正解。じゃあ、なんであんなに速いんだと思う?」
「えと、なにかに追われてる?」
またもや、答えるのはルナール。………セラフィ、お前は会話についていけてるのか?
「そう、その通りだよ。ルナちゃんは賢い!」
裏ハルは、背中に負ぶっているルナールに向けて、笑みを一つこぼした。
………そして俺は、この言葉を受けてセラフィにそっと耳打ちする。
「………暗に、お前は賢くないって言ってるようなもんだな」
「う、うるさいわね! あんたが結論をさっさと言えば済むハナシでしょ?!」
「だってよ、レイ。言ってやれって………愛しのセラちゃんに♪」
「「黙れ、ヘタレもどき!!」」
さっきから、裏ハルはタチが悪い。いい加減、止めてくれ。………朝のことは、忘れろ。
「おぉ、息ぴったり。こいつら、相性最高なんじゃね? なぁ、ルナちゃんもそう思うよね?」
「うん。レイとセラ、けっこん、しそうだね」
……………さりげなく、この子もタチが悪い。なんだよ、なぜか耳が熱い。
「しねぇよ」
俺はそう返すのが精一杯だった。
「おうおう、二人して顔真っ赤じゃねーか。初心だねぇ、ひひっ!」
「…………冗談が過ぎると……殺るぞ?」
正真正銘、毒塗りのダガー。少しでもひっかけば、それで事切れる。それを首元にそっと差し出した。
「全く、冗談のつもりでもねーんだけどなー」
そう言って、ヤツは下を向く。そして裏ハル特有の刺々しい気配が失せ、ヘタレが表層まで浮上してきた。
「れれれ、レイ。と、とりあえずそれ、しまおう? ね? ね??!」
「………命拾いしたな、シノライン・ハッカー」
ギロリと冷たい視線で金の瞳のその奥を睨み、俺は毒塗りダガーに覆いを被せ、懐にしまった。
「さて、話の続きだ。………あの追われてる馬車、助けるぞ」
「お人好し………悪い意味で」
「レイ、意外とやさしいね」
「はっ、今回ばかりはお人好しだってだけじゃねぇ。………助けて恩を売り、あの馬車に乗せてもらおう。そうすれば、一気に距離を稼げるぞ」
ふふふ……無償で働くのはもう終わりだ。これからは、助けには見返りを求める時代が来る!!
「………あんた、やっぱ性格悪いわ」
「そんなに、やさしくなかったね」
…………なんか、気分悪ぃ。なにコレ。俺、間違ったことは言ってねぇよな? 乗せてもらってる間は、護衛も出来るワケだし? そしてハル。お前は未だにさっきの脅しでガクブルしてんじゃねぇ。ヘタレの鑑といえる行動を、今ここですんな。
「うっせ。そろそろ馬車が目の前を通る。通り過ぎたら、後ろを追う魔獣を気付かれること無く潰してやる。……その間、この草むらに隠れててくれ」
…………さて、今回使う武器は何にしようか。やはり、起爆札で蹴散らしとくかね。
「いやぁ、本当に助かりました。いやはや、あれだけの魔獣を一瞬で葬ってしまうとは。かなりの手練でいらっしゃる」
目の前でしきりに感謝の意を示し、頭を下げているのは、スラっとした印象を受ける商人風の………というか商人の男。
「いえ、そんなことはありませんよ。私は道具に恵まれているだけです」
俺は結局、魔獣の群れを、起爆札を爆発させて一気に潰し、馬車に乗ってる商人を助けた。
…………そして、乗せてもらうために猫かぶりをしてみたりしているワケだ。
「はる、なんでレイはいつもと違うしゃべりかたなの?」
「えっと………なんで?」
「猫かぶりでしょ?」
セラフィは、よく分かっているようで。………それを言ったら意味ねぇけどなぁ!!
「猫かぶり? なんのことやら、私にはさっぱりですね。きちんと、的を射た言葉を吐きやがれこの野郎……です」
「あの………旅人さん。口調、崩してくださっても結構ですよ?」
商人の男は、苦笑いを浮かべて俺に話しかけてきた。
そんなコト言うんなら、いつもの口調に戻してやる。意味なく敬語使い続けるなんてバカらしい。
「…………はぁ、じゃあ率直に。俺たちをミアルカンドまで乗せてってくれねぇか?」
「意味ないなら、最初から敬語なんて使わないでよね。気持ち悪いわよ」
「……………出来れば、学術都市・エレドニアまで乗せてくれるとありがたい」
「あ、無視しないでよね。意味ないことするなって、あんたも言いそうなことじゃないのよ」
「…………なぁ、商人。無理か?」
俺はある一方から聞こえる雑音を完全に無視し、商人に向かって問いかけた。
「えぇっと……お連れさんに応えてあげなくてもよろしいので?」
「連れ? いやいや、コイツは俺のお荷物Bだ」
「じゃあ、僕がお荷物A??!」
「おう、よく分かったな、ヘタレ」
ハルにしては、察しがいいじゃねぇか。
「じゃあ、わたしは?」
「ルナールか? ……ふむ、まぁマスコットとかでいいだろ」
「やった。わたし、マスコットだって、はる」
「うん、よかったね! 確かに、ルナールちゃんはマスコットだよね」
まぁ、能力的にもお荷物でないことは確かだ。
「なによ、なんであたしはお荷物とか言われて、この子はマスコットなのよ。………いいわよ、どうせあんたも大人しい娘のがいいんでしょ?」
「別に? 活発な娘も悪くねぇよ。いや、むしろある程度活発な方がいい」
「え? じゃあ…」
「まあ、お前はありえねぇけどな」
よし、ナイスコンボ。……………まぁ、実際はありえないこともないけど。いや、その“絶対”なんてものは、ほとんどないって思ってるからこそ、絶対にあいつを好きになることはない、とは言えないだろうというだけであって、別に他意はない、うん。
「むきぃぃ!! あたしだってあんただけは絶対にないわよ!! 大ッ嫌い!!!」
「言ってろ!! まぁ、俺のがお前のコト嫌いだけどなぁ!!!」
「あたしのが嫌いよ!!」
「俺だ!!」
「あたし!!」
何、この不毛な争い。でも、止まらない。
「嫌い嫌いも好きのうち?」
「「ヘタレぇ!! 殺すっ!!!」」
「ひぃっ」
……あぁ~…疲れた。ハルも怯えすぎだっての。そしてセラフィ。なにコレくらいで息切れし始めてんの? てか、ハンパなさすぎるほど、はぁはぁ言ってんじゃねぇか。ホントにお前、大丈夫かよ?
そんなことを思っていると、不意に軽やかな笑い声が聞こえてきた。
「ふふっ、おもしろい方々ですね。そういう風に気兼ねなく怒鳴り合える関係……私はとても素敵だと思いますよ」
「そうでもねぇよ。疲れるだけだ。……で、どうだ? 乗せてもらえねぇかな。もちろん、その間の護衛はするぞ」
「ええ。分かりました。命の恩人の頼み、喜んで受けさせていただきますよ。………それに、皆さんと一緒にいれば楽しそうですし」
はぁ? 楽しい? うるさい、の間違いだろうよ。
「一人旅、というものは寂しいものでしてね。少しうるさいくらいが楽しく感じるのですよ」
「俺ぁ、一人旅のが気楽でいいけどな」
「でも、言い合いをしている時、あなたの表情はとても楽しそうでしたよ?」
…………………そうでもねぇよ。そうでもねぇ、うん。絶対に、一人旅のが気楽だった。お荷物は要らない。……たとえ、今が楽しくても、要らない。
あ、楽しいって認めちまった。
「そう見えたんなら、あんたの目は節穴だな」
「ふふっ、じゃあそういうことにしておきましょう」
余裕持ちやがって。俺、なんかコイツは苦手かも。
「おっと、私としたことがまだ自己紹介もしていませんでしたね。……私の名前はセイン・エイムズといいます。乗せていけるのはミアルカンドとの国境までですが、よろしくお願いしますね」
「おう、そこまで乗せてくれりゃ充分だ。俺は、レイ。よろしく」
「僕は、ハル・カーストウッドだよ。よろしくお願いします」
「……はぁ……はぁ…セラフィーナ……アーヴィン……。よろしく…」
「ルナール・ラグシェンカだよ。よろしくね、商人さん」
…………四番目に自己紹介したコイツ、ホントに大丈夫かよ。体力なさすぎ。言い争いだけで息切れるって、どんなだよ。
そう思いながらも、俺は背中をさすってやることにした。…………そう、あれだ。息切れさせたのは俺にも責任があるワケだし、これぐらいの行動は普通なハズだ。
―――――だからハル。そしてセイン・エイムズ。そんなにニヤニヤするのは止めてくれ。
途中で止めるわけにもいかず、俺はセラフィの背中をさすってやりながら彼女の動きを促し、助けた商人のセインが操る馬車に乗り込むのだった。……乗れとも言われてないのに、勝手に。
レイとセラフィには、ニヤニヤ出来る関係を求めています(笑)
これで、場所によって距離を稼ぐことが出来そうですね。
しかし、学術都市・エレドニアはまだまだ遠く、気ままな旅はゆったりと続いていきそうな予感です。
よろしくお願いしますね。
それでは(^^)ノシ