国境は果てしなく遠い
はてさて、レイの前回の奇行に、ハルたちはどんな反応を示すのでしょうか。
それでは、本文をどうぞ!
Side Hal. ~ハル・サイド~
スルーしよう。僕の目の前でワイバーンが死のうと、天変地異が起ころうと、レイとセラフィーナが抱き合おうと、完全無視! 僕は何も見てない!
“その瞬間”をばっちり見ちゃったけど……いや、見てない! でも、でも……。
『ぷひーっ、ふぉ、ひぃ、きひひひっ……ああいうのはキスの一つでもするモンだぜ? ひひっ!』
シノラインが笑ってる。笑い声か奇声かわからないけど、多分笑ってる。“あの瞬間”から発作的に笑いだしている。笑うのは悪いと思うよ……。
そりゃふたりが、あっ! とかきゃっ! ってなったのはばっちり見ちゃったけど……。そこまで笑う? せめて、にやにやするだけだよ、僕は。するだけだよ……。
「「ハル!」」
テントを片付けていたレイと朝食の支度を始めたセラフィーナがすごい形相で見てきた。そんなに顔に出てた?
ルナールがくいっと僕の袖を引く。
「なんで、レイとセラ、どきどきしてるの?」
「「はあ!?」」
ここまでハモるとは、やっぱり仲良いんだなあ、ふたり。っていうかルナールさん、その理由を僕に訊きますか。答えに迷うよ……。
「うーんとね、ルナールちゃん。うーん……ふたりはびっくりしたからドッキリしてるん、じゃないかな」
「なんで、びっくりするの? だって飛びこんだのはセラで、ぎゅってしたのはレイでしょ?」
「思わずこうなっちゃったからびっくりしたんじゃない?」
「?」
こんな解説でよろしいでしょうか、お二人さん?
朝食はセラフィーナの作った、パンケーキだった。小麦を水で溶いて焼いた簡単なものだったけど、さすが女の子って感じで、美味しかった。美味しかったんだけど、さすがに四人で分けるから量は少なくなってしまう。それがまた、ケンカの火種になるんだけど。
「焼いてる人間が作るそばから食ってくんじゃねえ!」
「あたしだってまだそんなに食べてないしぃ! 意外とルナールがパクパク食べてくから」
「え、わたしのせい?」
「あーいや、そうじゃないんだけど……あんたのせいよ!」
「え、僕ぅ!?」
という感じ。いつも最終的に矛先は僕に向かってくるんだけどね……。はあ、喧嘩するほど仲が良い、仲良きことは美しきかな? でも僕は関係ないよ? 巻き込まないでね?
とにかく朝食を片付けたあとは、一刻も早く次の国ミアルカンドへと向かうことになった。このままのペースでは、いつまで経っても着きやしない! とレイがいうので、僕たち(レイ以外)は若干早歩き。本当に若干だけど。
「レイ速ぁい! もっとゆっくり歩きなさいよ!」
「うっせ! そんなペースに合わせてたら本当に着かねえっつの!」
そんな会話が僕たち(僕とルナール)の前後で交わされている。レイは先頭だし、セラフィーナは最後尾だし。ルナールは僕の隣をぴたっと張り付いている。前後と左側を挟まれて、ちょっと怖いな。
「あ、そういえばルナールちゃんのお母さんってどんな人?」
「……すごいひと。なんでもできるよ。あと、森の、あっ」
びたんっ。
「うわぁあルナールちゃん大丈夫!?」
突然ルナールが視界から消えた。というか、転んだ。何もない平面で。でも当のルナールは案外平気そうだった。
「大丈夫?」
「……いたい」
平気とはいっても膝を擦りむいたらしい。僕はレイを呼び戻す。
「レイー、ルナールちゃん転んだー!」
「はあ?」
レイが、本当に何やってんだよという顔で僕を見た。え、僕のせい?
出血はないみたいだけど、膝だけでなく足首が痛いそうで、歩くのは無理みたい。
「どうしようレイー……」
「お前が背負ってけばいいだろ。名前を伸ばすな」
そのうち後ろから歩いてきたセラフィーナが追い付いた。そのうち先頭を歩くレイ、それについていくセラフィーナ、その後ろにルナールを背負う僕という構図に変わる。
うー、歩きにくい。ルナールが重いわけじゃないけど、元々背中に下げていたロングソードを前にまわして、空いた背中にルナールを負ぶっている。前も後ろも手一杯。しかもそのルナールは寝てしまった模様。
「シノラインー……」
『ハルは筋肉の使い方がなってねえんだよ。変われ』
僕はシノラインに身体を譲る。すると一気に歩く速度が早まる。……筋肉の上手い使い方ってどんなんだろ。
前を歩いていたはずのセラフィーナをあっさり抜いて、レイと並んで歩く。
「よお。お前も朝っぱらから女の子襲うたぁ、いい度胸してんなーきひひっ」
「殺すぞ?」
茶化さなければいいのに、あえて口を出すところをみると、他人の恋愛イベント好きなシノライン。
「セラちゃんを遅い遅いって言うなら、手でも繋いで引っ張ってこいよー」
「はっ、誰がんなコトするか」
「実はまんざらでもねえんじゃねーの? 女の子のオトし方をシノライン様が教えてやろーかー?」
「ちょっとー、何こそこそやってんのよー! 疲れたって言ってんでしょー!」
さっきの言葉を聞いてか知らずか、後ろからセラフィーナが叫んできた。いつの間にか距離ができている。
シノラインは叫び返す。
「足の遅いワガママお嬢さんを連れてくか、ここに置いてくかって話をしてただけですぜー」
「ちょ、それどういうこと!」
レイは、めんどくさい事言いやがってと言いたげにシノラインを見た。
「こんなとこに置いていって、魔獣にでも喰われたら寝覚めが悪い」
「失礼ね! 一人でも戦えるわよ!」
「一人で戦えるのになんでそんなに歩くのは遅いんだ?」
またも怒鳴り合いに発展しそうなところをシノラインが茶々をいれる。出歯亀好きだな、シノライン。
「じゃ、レイに背負ってもらえよー」
「はあー!?」
「はいはい、俺がいるとふたりであんなコトもこんなコトもできないってー? 大丈夫だ、俺は気にしない。存分に…」
「誰がするか阿呆。っとに、お前らと居ると疲れ……いや、お前らと居ると面倒事しか起きねぇ。見ろ、厄介事のお出ましだ」
こんなことで、本当に目的地に到達することが出来るんでしょうか?w
まぁ、なんらかの方策をとって、そのうちに着くでしょう(笑)
ゆっくり進んでいくと思いますが、あたたかく見守ってやってください。
それではっ(^^)ノシ