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Story of one every two people ~二人で一つの物語~  作者: 柚雨&シノ
ヘタレとひねくれ、邂逅の章
3/84

チェックメイト

今回は、“ひねくれ”の方が主観のお話です。


さりげなくグダグダと戦闘描写が続きますが、どうかご容赦を。



それでは、本文をどうぞ!

Side Ray. ~レイ・サイド~


 あぁ、めんどくせぇ。

 だいたい、どんだけ間抜けなんだよ、“アレ”は。


 目の前にいるのは……いや、全速力で逃げているのは、(くせ)のある茶髪を玉のような汗によって額に張り付かせた、少年と言えるような年代のヒト。

 それがとにかく間抜けな走り方で、戦闘経験なんてゼロであることは容易に検討がつく。

 どうやら、敵に追われているらしい。よく見ると追う側は、賞金首の張り紙に描かれていた顔と同じヤツだし、おそらく悪いヤツに追われた哀れな一般人(高級そうな武器所持)なんだろう。


 …………それを助けてやろうとしてる俺って、結局は相当なお人好しなのか。


 めんどくせぇが、このままでは死ぬであろうヤツを放っておくわけにもいかない。全く以って気は進まないんだが…………本当に、助けたいなどとは欠片も、それこそ一ミクロンたりとも思わないが、しょうがないから助けてやらないこともない。

 出血大サービスだ。感謝しな、名前も知らない“ヘタレな間抜け君”。


 俺は身体を支える足に力を込め、激しく地を蹴った。

 気配を殺し、今まで隠れていた草陰から音も無く飛び出し、獲物(ヘタレ)を狙うヤツの背後へ移動する。


 そして気付かれることなくそいつの背後に回りこむことに成功、と同時に、俺は懐からダガーを一本取り出し、容赦なくそいつの背中から心臓を突き刺した。


 噴き出す鮮血。真っ赤な一閃が迸る。


 不意討ちは得意なんだ。加えて、俺のダガーは斬れ味が良い。一撃でそいつは事切れた。辺りには血が飛び交うが、その全てを避け、返り血で服が酷いことになるのは免れた。


「ふぅ、これでなんとかなったな」


 そう呟いた後、俺はヘタレな間抜け君……長いな、よし、ヘタレ(笑)でいいだろう……ヘタレ(笑)に、声をかける。


「おい、ヘタレ(笑)。逃げるにしても間抜け過ぎだろ。そしてその剣が飾りじゃねぇんなら、戦えるようになりな」


 あ? 言ってることが厳し過ぎる? うっせぇ、ヘタレ(笑)にはこれくらいで充分だ。

 いや、むしろもっと厳しく言ってもいいハズだ。………このヘタレが死にたくないと思うのなら。


 ………それほど、傭兵の世界は厳しく、周りの人間ってのは薄情だ。


「い、いや、あの、助けてくれてありがとう? あっ、でも、殺しは良くないと…」


 はぁ? 甘過ぎるぞ、こいつは。

 自分を追っていたのは賞金首。世間一般では、とっておきで完全なる悪党と認識されるべき人物。いつ首取られたって文句は言えねぇだろうが。


 …………それぐらいでないと、この傭兵の世界では生きていけない。


「命が助かっただけありがたいと思え。そう割り切れないなら、さっさと傭兵なんて稼業は辞めて、両親の所に帰るんだな」

「それは…困るよ。こうでもしないと生きていけないほど貧乏になっちゃったから。シノラインだってあるし」


 そう言って、ヘタレ(笑)は、背中にあるロングソードを指し示す。………剣に名前までつけるとか、若干……いや、大いに引く。


「あー、お遊びは大概にしとけよ? 死にたくないんな…ら……あぁ??!」


 迸る殺気。俺はその場からバックステップを使って離れた。

 今まで俺がいた所には、大きな槌が振り下ろされていた。そしてその槌を振り下ろす人物は………。



 間違いなく、先ほど殺したハズの大男だった。



「……てめぇ…心臓を突き刺したハズだぞ」


 なるべく低く、ドスの効いた声で、相手を威嚇するように問いかけた。……それは、久しぶりに感じる戦闘への高揚感から来るものだったのだろうか? 分からないが、この男の殺気は充分警戒に値する代物だった。


「ハッ、そんなチャチな攻撃じゃあ俺は殺せねぇぜ。俺の身代わりの魔法に気付かねぇ辺り、てめーも大したことねぇな」


 そういえば、こいつの首にかかった賞金はかなりの額だった。相当な猛者だったのだろう。不意討ちで心臓を刺したハズなのにそれがウソになるとは。

 こういう輩は筋肉バカが多い。そのため、魔法なんて使えないとタカを括ってたんだが………あながちそうでもなかったらしい。現に、ヤツにあるハズの傷はあった形跡すら見られず、地面に広がっていた血の海も消え去っている。


 ………完全な身代わりだ。


「………めんどくせぇことになりやがった。不意討ちが効かねぇとか、どんなだよ」


 そう言いつつも、懐に無数に収納してあるダガーに手を伸ばす。俺が常に身に纏うロングコートはマジックアイテムだ……その懐の空間が捻じ曲げられることで、広大な格納スペースを得ている、結構な高級品と言えるモノ。………つまり、得物だけは無尽蔵に近い。これでなんとかなると思いたいな。


 しかし、俺の最大の武器は得物の多さではなく、スピードだ。それを生かし、身を低くしてヤツの視界のアウトレンジへ、逃げるように距離を取る。そして懐から取り出した十本のダガーを全力で投擲した。

 ………軽く避けられるのは予想済み。逆にヤツが避けている間がチャンスだ。

 今度は逆にヤツに近づき、背後から頚動脈を狙う。………これも避けるか。とりあえず、もう一度距離を取る。


「さっきからなんだぁ? その臆病な戦い方はよぉ! それなりに腕はあるみてぇだが、そんなんじゃ俺には勝てねぇぜ」


 ………そう挑発されると、何故(なぜ)か勝てる気がしてくるから不思議だ。相手が思う事とは反対の結果を出すってのは、興味をそそるもんだ。これは、何がなんでも勝ってやるしかねぇだろ。

 と、そんな覚悟を決めていると、背後から濃密な殺気を感じた。しかも、その殺気は俺へではなく、大男の方に向いていた。

 大男を警戒しながらも、殺気の方へ目をやる。そこには…。


「さっきまで説教たれてたヤツが情けねえな、おい! 押されてんじゃねえか!」


シノラインと呼んだ剣をダラリと構え、ニヤリと愉しそうに笑うヘタレ(元)が立っていた。


「二重人格……いや、そんなことはどうでもいい。さっさと潰すぞ」


 本当は一人でやってもよかったんだが、隠し武器は最後までとっとくべきだ。ヤツに勝つにはダガー以外の武器や、魔力操作を行う必要があったが、それをしなくていいのは助かる。まあ…。


「…迷惑だけどな」


そう、迷惑。早い話、実質的には助かるんだが、せっかくの戦闘を邪魔すんじゃねぇ! ってコトだ。


 だが、そんなことを思ってる間にもヘタレ(元)は大男に向かって突進していく。さっきまでの間抜けさがウソのような完成された動きで、大男の胴を薙ぐように鋭い一撃を見舞っていた。

 なかなかやるじぇねぇか。本当に、別人格でも乗り移ったみたいな動きだ。………すごいなんて、絶対に言わねぇけど。


 しばらくヤツらの戦いを観察しながら、自身の存在を希薄にしてゆく。……自分自身が空気に溶けてゆくような感覚を覚え始めると、周りの状況はより鮮明に映るようになってくる。


………さぁ、狩りの時間だ。


 俺はダガーを一本だけ取り出し、完全に気配を殺したまま、大男の背後へ。……最初に奇襲をかけた時よりも入念に気配を殺し、さらにはヤツの思考はヘタレ(元)との戦闘に大きく傾いている。つまり……。


「チェックメイト………まぁ、既に事切れてるんだが」


 不意討ちにはもってこいの状況だったわけだ。

 言葉を言い放ったのは、大男が死んだ後。……“チェックメイト”を正しい意味で使うのなら、殺す前に言うべきだったな、と若干後悔。


 だがまぁ、これでめんどくさいコトから解放されるわけだ。嬉しい限り。


 …………まだまだ面倒ごとに巻き込まれそうな予感がするのは、きっと気のせいだ。

 そうだと、思いたい…。


レイに、巻き込まれフラグが成立したわけですね(笑)


次回はハル・サイド……まあ交互ってことですね。


よろしくお願いします!



それでは、また次回(^^)ノシ

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