野宿するしかないようです。
今回、新造語(地名)がたくさんでるので、あとがきにて軽く説明しておきます。
それでは、本文をどうぞ!
Side Ray. ~レイ・サイド~
早朝。俺たちはフィナレアを発った。目指すは次なる町。しかも他国だ。今までいたトレスフィニアという国から飛び出し、隣国であるミアルカンドへと旅立つのだ。
商業に特化した町が多いトレスフィニアとは違い、ミアルカンドはそこまで商人の出入りは多くない。
だが、ミアルカンドには、通称、学術都市という大きな町が存在する。その名も学術都市・エレドニア。学術都市の名に相応しく、この世界で最先端の学力を駆使して最先端の技術を生み出し続けている。と同時に、世界随一の蔵書量を誇る図書館があり、全ての情報が集まる町でもある。
特に旅の目的もない俺たちだが、情報はあった方がいい。そこには俺の馴染みの情報屋もいることだし、そこを目指す運びになったのだ。ルナールも母親を探していると言うし、この先の旅の方針を決めるという意味でもちょうどいいかもしれない。
幸い、フィナレアはトレスフィニアとミアルカンドの国境線近くにあり、ミアルカンドとの関所まではおそらく四日ほどでつけるだろう。のんびり気ままに、ゆっくり旅しよう。
そう思っていたさ。ただ、これはない。四日? 無理無理。一ヶ月はかかるね。なんせ…。
「未だにフィナレアが見えるんだからなぁ!!」
現在、太陽が沈みかけ、真っ赤な夕陽が眩しい黄昏時。フィナレアを出て十時間以上経過している。
そ れ な の に !!
後ろを振り返れば、未だにフィナレアが視界に入るのだ。………普通は、三時間も歩けばフィナレアは見えなくなるハズだと言うのに。
「うるさいわねぇ。しょうがないじゃない、この子の歩くペースに合わせなきゃいけないんだから。……ふぅ、疲れたぁ」
そこ、ルナールに責任を押し付けようとしてんじゃねぇよ。
「…………いや、遅れてるのはお前のせいだよ、セラフィくん」
「はぁ? 何言ってのよ?! あたしは普通のペースで歩いてるじゃない!!」
「お前の脳みそはそこまで小さいのか? ミニマム脳みそだと主張したいのか?! お前、とりあえず俺たちに追いついてから口開けや!!」
そう、俺とセラフィの間の距離、およそ五メートル。その間に、ハルとルナールがなんだかんだで着いてきている。…………一番体力がないのは、セラフィのようだ。
「う、うるさいわねぇ! あんたたちが少し速すぎるのよ!!」
「はっ! これでもだいぶペース落としてんだよ!! じゃなきゃ、今頃はフィナレアなんて見えねぇぞ、ボケ!!」
「ボケっていう方がボケなのよ! ボケぇ!!」
「じゃあお前もボケだな、ボケぇぇ!!」
「あの、二人とも、ルナールちゃんがいるのにケンカはよくないよっ…」
いつもなら、うるせぇとか言っときゃいいんだが、なんだかんだでハルの隣にいて、慕っているように見えなくもないルナールがいる手前、あまり酷い扱いをするのは躊躇われた。それはセラフィにとっても同じだったようで、あいつも口をつぐむ。
まぁ、俺たちの場合は冗談半分の言い合い(のハズ)だから、そこまでケンカをしてるつもりはねぇけどな。
「二人とも…! ついに分かってくれたんだね?! ケンカは良くないって!!」
………そんな喜ぶなっての。そして隣のルナール、状況を理解していないのに何故に万歳してるわけ? 意味分からん。
「けんか、おさまった。いいコトだよ?」
「お、おう、そうだな」
よく分からんが、何故かこの子の雰囲気には調子が狂う。安定しないというかなんというか………いや、漂ってる? まぁ、そんな感じの雰囲気なわけだ。な~んか取っ付きにくい。
「ねぇっ! そろそろ休憩~!!」
お、いつの間にかセラフィが遥か遠くに。………はぁ、分かった分かった。とりあえず、今日は野宿がしたいと、そういうわけだな?
「休憩、したいか?」
「したいっ!」
「えっと、僕もそろそろ休憩したい……かな」
「……えと、さんせい。休憩、したい」
全員かよ。このパーティ、ホントに大丈夫か? 体力的に、ヤバイのではないか。
……………そんな思いなどおくびにも出さず、俺は懐から簡易テントを二つ取り出す。実はマジックアイテムだったりするそいつは、指をパチンと鳴らすだけで組み立てられ、二人は余裕で休むことが出来るスペースを作り上げる優れものだ。
まぁ、四次元ポケット(笑)付きのロングコートやら、こういったテントのマジックアイテムやらの、便利道具は全て師匠であるリヒト・アルフォードから譲り受けたモノだったりするわけだ。マジ便利。
「それなら、もう野宿の準備を始めた方がいい。ここから、夜はすぐにでも始まる」
「えぇ~、野宿なんて嫌よぉ~」
「そうかな? 僕は野宿っておもしろそうだと思うけどなぁ」
セラフィ、ワガママ言うな。休むなら、今は野宿しかねぇだろうが。次に休めそうな村(町はない)はこのペースで歩いて半日はかかる。………それなら、野宿しかねぇんだよ。
そしてハル。野宿ってのは別に楽しいモノじゃねぇよ。特に俺とお前はつら~い仕事も待ってるぞ?
「で、ルナールはなにをやってるわけ?」
いつの間にか、ルナールは俺たちから少し離れて、なにかの呪文を唱えていた。……これが不思議美少女じゃなければ、かなり怪しい人にしか見えないだろう。
…………………いや、不思議美少女だが、やはり怪しい。
「………精霊さんに、おねがいしてるの」
「…何を?」
「薪を集めてって。火は、ひつようでしょ?」
まぁそうなんだが………薪ぐらい、十分も集めればすぐに充分過ぎる量を集められると思うんだが? だってこの道、森に挟まれてるようなもんだし?
それでも、集めてくれるんなら楽だ。別に異存はねぇけど。………ねぇけど、やっぱり違和感。そしてやはり苦手な雰囲気。不思議ちゃんと言うヤツか? これよりは、セラフィみたいな分かりやすい性格の方がマシだな。
「ちょっと、分かりやすいって何よ!!」
「おっと、悪ぃ。口に出してたか?」
「あたしだって複雑だもん! あんたなんかにあたしのコトは理解出来ないわよ!!」
「ドコが複雑だって? 単純にもほどがあるわ!!」
「だからケンカは良くないって…」
「「ヘタレは黙れって言ってんの!!」」
「す、すいませんっ、僕が悪かった……ってなんで??!」
あ、結局、ハルをいじってしまった。あーあ、これでハルはルナールにもヘタレと認識されるわけか。可哀想に(笑)
「はる、おもしろい。その顔、もっとやって」
あ、意外と好評。ならいいか。
「さて、おふざけはこの辺にして…」
「ふざけてたわけじゃないわよ!」
「さっさと野宿の準備を始めるぞ」
「ちょっと、聞いてんの??!」
「あー、あー、聞こえねぇなー」
「「大人気ない!!」」
……………ハルまで乗るなっての。
その後、なんとかセラフィを説得し、俺たちがようやく料理を始めた頃には、すでに夜の帳が降りていた。……あいつも、意外と強情だよな。
ちなみにあいつは、俺が抱えて運ばない限りは、夜が終わるまでに次の村に辿りつけない、と言ったらやっと諦めてくれた。……そんなに、俺のお姫様抱っこ(笑)が嫌だったか? 顔真っ赤にして怒りやがって。
炊事は何故かハルが率先して行い、結局仕事のなくなった俺は、魔獣を警戒する役に納まっていた。………邪魔だって言いたいわけ?
そんなこんなで遅めの夕食を食べ、俺とハル、セラフィとルナールのペアに別れてテントに引っ込んだ。明日に備え、早く寝るのだ。
…………まぁ、俺たちには仕事があるがな。
俺は、ハルと一緒にセラフィたちがテントに入るのを見届け、もう一つのテントに入った。そこで、俺はすぐに口を開く。
「おい、ハル。お前には……いや、裏のお前には、仕事がある。とりあえず、代われ」
「えっと、代われって、シノラインと?」
「そうだ。早くしな」
俺の言葉を受け、ハルが黙って下を向く。………そして次に顔を上げた時には、その表情にヘタレの影なんて微塵もなく、挑戦的な顔つきに変わっていた。
剣を抜かずとも、意識の交代は不可能ではないようだ。
「んで、俺に仕事があるって? まー、だいたい予想はつくけど」
「なら、話は早い。この辺も、少ないとは言え魔獣が存在する。寝てる間に襲われたらたまったもんじゃねぇ」
「やっぱりか、それを俺とお前の二人で、交代制寝ずの番ってトコだろ?」
やはり、通常のハルより使えるな、こいつは。全て言わなくても、簡単にこちらの意図を察してくれる。…………なんか、ここまでちゃんとした会話って、久しぶりにした気がする。すげぇ虚しいって思えてきたよ…。
「まぁ、最初は俺がやる。四時間もしたら起こすから、そのつもりでいてくれ」
「ん、りょ~かい。あともう四時間は俺に任せな」
「ああ、頼む」
こうして、俺たちの仕事は決まった。そして俺は外に出て、鋼糸を周囲の木々に巻きつけ、張り巡らせることで罠を仕掛けた後、焚き火の傍に座った。
………さて、地獄の仕事中、四時間の暇をどうやって潰そうか。
俺はそんな事を考えながら、上を見上げ、星を眺めるのだった。……うん、こういうのも悪くねぇな。
地名、紹介。
『トレスフィニア』(国):商業に特化した町が多く存在する国。主人公メンバーたちが最初に会った国。
セイルス(町):ハルとレイが絡み始めた時の町。最初の町。トレスフィニア内にある。
リディス(町):アーヴィン家(セラフィーナの家名)が領主を務めていた町。セラフィの父親が捕まった後の領主は不明。犯罪組織である“影”の拠点でもある。トレスフィニア内にある。
フィナレア(町):ルナールが祈祷師を務めていた町。トレスフィニア内にある。
『ミアルカンド』(国):トレスフィニアの隣に位置する国。商人の出入りは多くないが、学術都市と呼ばれる高度な都市が存在する。トレスフィニアとは、比較的に友好な関係を築いている。
エレドニア(都市):通称、学術都市・エレドニア。多くの学者がここで学を究めようとしている。大陸最先端の都市。この都市には、たくさんの情報が集まると言われている。ミアルカンド中心部にある。
こんな感じです。
それではっ(^^)ノシ