とりあえず、旅の用意でも始めましょうか。
新章、スタートです!
この章で、主要メンバーは全て揃いますね。
よろしくお願いします♪
それでは、本文をどうぞ!
Side Hal. ~ハル・サイド~
第十九話 とりあえず、旅の用意でも始めましょうか
僕の安眠は妨害されることなく、無事に朝を迎えた。まあ、夜中にハプニングが起きるなんて凄く嫌だし、僕は目覚めないだろうけど。
静かな朝、ステキ。すっきりした目覚め、イイ。
「おはよおー、レイくん」
レイはすでに身仕度を整えていた。僕はベッドから這い下りる。
「今日は市場で必要なものを買いそろえたらすぐに発つからな」
「ええー? もう行くの? ここの宿のベッド気持ち良かったんだけどなー」
「こんな町、さっさと出たほうがあいつのためだ」
あ、そっか……。セラフィーナにはこの町が故郷であると同時に、辛い思い出を秘めた決別の地になる、のかな。
「早く着替えろ。んで、セラフィを起こしてこい。俺が行くと……殴られそうだからな」
それは僕が行っても同じじゃ? とりあえず言われたままモソモソ着替え、ロングソードを背負って隣室へと向かう。
「セラちゃーん?」
さすがに無断で扉を開けることはどうかと思い、ノックするも返事はない。鍵もかかっている。
「レイくーん。セラちゃんまだ寝てるみたい」
「しゃーねーな。ま、寝かしておくか」
起こすのは悪いと思って、扉の隙間に置き手紙を挟んで僕たち二人は市場へ繰り出すことに。
途中、通り掛かった領主の屋敷の前には人だかりができていた。町役人が調査に入ったようだ。子供を抱いている親の姿も、ちらほら見える。
「行くぞ」
「あっ待ってよー! ねえ……あれでよかったのかな」
悪を罰したことは。あの子供達は幸せに暮らせるだろうか。
「子供のことなんか知ったこっちゃねえ。ただな、少なくとも一人は救えたんじゃねぇのか?」
「うん……そうだねっ」
出歩く人の群れですぐに市場は見付かった。それなりに賑わっているようだ。見慣れない服装の商人がいるところを見ると、外交が盛んなのだろう。
「レイくんレイくん。僕こういうとこ来るの初めてだよ!」
「馬鹿か。それと、くん付けはやめろ。見下されてる気がしてならねぇ」
「ええっ! そんなつもり全然無いのに! じゃあ、なんて呼べばいい?」
「……普通に名前で呼べばいいだろ」
へ? それって名前で呼んでいいって意味だよね。じゃあレイくんからレイって呼んでいいのかな? なんか友達みたいだ!
「じゃあ、れ、レイ? ……えへへっ。あ、レイ、僕のこともハルって呼んでよ!」
「断る!」
「ひどっ! なんでよ……」
「お前はヘタレだ。ヘタレはヘタレとしか呼べないだろ」
「ひどいぃ…」
さりげなく三回もヘタレって言った……。傷ついたよ。さっさ、一歩踏み込んで仲良くなれたとおもったのに。
「そういうことは脱ヘタレしてから言え」
「ううーっ……」
「小麦粉と、干し肉、少しの乾燥野菜も要るかな? 他に何があれば良い?」
「……料理はできるのか?」
「あ、うん。人並みには。それに、出来合いを買うより安いからねー」
貧乏生活の賜物ですけど。あれやこれやを切り詰めて生活してたからね。あ、これでも僕、一応貴族生まれですよ?
「あとはー、これも買おうかな」
「チョコレートに、飴玉。何に使うんだ。必要か?」
「セラちゃんにお土産だよー。……留守番させて、怒ってるかもしれないし」
レイは溜め息で答えた。
最低限に必要な買い出しは済ませ、お土産も持って、セラフィーナの待っている(で、あろう)宿に帰る。
その途中、僕は気付いてしまった。
「あああっ! 間違えて“激辛塩キャラメル味キャンディー”買っちゃった!」
「はあ!? どこをどう間違えて何を買ったんだよ! しかも何味だよそれは!」
てっきり、“桃と林檎の果肉煮込みキャンディー”を手にしたと思ってたんだけどな。甘い飴がキャラメル味でさらに塩辛いなんて、何を考えて作ったんだろう。
「返品するか」
「う、うーん。でも、これもこれで興味あるなあ」
「味覚が死んでも知らねぇからな」
「うっ、やっぱりどうしよ……わっ、何?」
僕の悩みは、後方から聞こえてきた悲鳴に掻き消された。振り返ると、酔った赤ら顔の大男と……セラフィーナの姿。
「セラちゃん!?」
「なにやってんだあの馬鹿!」
が、どうも泥酔した男に絡まれているだけで怪我は無さそうだ。
僕らは特に助けもせず、ちょっと離れて眺めていた。薄情だって? いやいや、助けたとしても、来るのが遅い! とか言われそうじゃない? じゃあ最初から見なかったことに、って。やっぱり薄情?
セラフィーナが男の手を払いのけた。何か叫んでいる。すると男か顔色を変え、持っていた剣を抜き放った。
「ちょ!? なんか危ないよ!」
タチの悪い酔っぱらいはどこにもいるけれど、どこにいても大概タチが悪い。
「どうする……? 町中だから剣も抜けないしっ」
「ハル! あの、よくわかんねぇ飴玉出しな!」
「えっ、あ、うん!」
ほえ? いま、ハルって?
僕は“激辛塩キャラメル味キャンディー”をレイに渡す。と、レイはそれを遠く離れた大男の大笑いしていた大口に投げ入れた。
ジャストミート。
「!!!?」
とたんに悶絶する男。その隙にセラフィーナが走りだす。……やっぱりあの飴、不味いんだ。
「セラちゃん!」
叫んでセラフィーナを呼び止める。気付いたセラフィーナはこちらに駆け込んできた。
そして開口一番…。
「遅いぃっ!」
やっぱり怒られた。
「置き手紙してあっただろうが!」
「そんなの信じるわけないじゃない!」
「なんで信じねぇんだよ!」
えー、僕の目の前で壮絶なケンカが繰り広げられてます。ケンカはよくないと
……思うよ。
「「うるさい!」」
「まあまあ。あ、チョコレート買ってきたよ! コレ食べて、落ち着いてよセラちゃん」
僕は持っていた粒チョコレートを手渡す。セラフィーナはイライラしながらそれを口に投げ入れた。
「!!!?」
セラフィーナの顔が激しく歪む。
「えっ!? あっ、ああっ!」
そう、お分りのように、僕が手渡したのは激辛以下略だったのだ! レイの爆笑する声が聞こえる。僕はセラフィーナにバシバシ叩かれた。い、痛い……わざとじゃないよぉ!
「にゃ、にゃにほれぇ!」
「は、ハル。お前、良い仕事すんじゃねーか。くくくっ!」
い、痛っ、痛いよ。でもレイくんが笑ってるからいっか? あれっ、僕のことハルって呼んでくれてる。いつから呼んでた? まいっか。仲良くなるのに理由は要らないし、些細なきっかけで友情は深まるものだよね!
激辛塩キャラメル味キャンディー………少し、食べてみたいかも(笑)
さて、次回で旅再開です。
またもや、波乱の予感ですよ?w
それではっ(^^)ノシ