とりあえず、回収完了しました。
これで、今回の章は終了です。
セラフィーナも、どちらのヒロインかほとんど予想がついていると思いますが、とりあえず本文をどうぞ!
Side Ray. ~レイ・サイド~
「あんたは正式なファーストネームで読んで」
果てしなく高慢な口調で、俺はそう告げられた。
「ヘタレには“セラ”でいいと言ったくせに? どんな差別だよ?」
「いいの! いいからそう呼びなさいよ!!」
そう、この高慢な口調で喋るお嬢様(笑)こそ、新しいお荷物であるセラフィーナである。
「セラフィーナ………長ぇよ!! 何回も呼ぶには、長すぎるわ!!!」
「う、うるさいわね! あたしはそれが良いって言ってるんだから、そう呼びなさい!!」
「ワガママか! ワガママなのか?! ワガママ過ぎるわ!!」
「いいのぉぉ!! あんたには他と違う呼ばれ方じゃなきゃ嫌なんだから!!!」
…………冷静でいられなくなった。ちょっと叫んでもいいか?
「あぁうっせぇ! マジでうっせぇ!! そんなに言うんだったら変えてやらぁ!!! それで文句ねぇな!?」
「へ? 呼んでくれるの?」
きょとんとした顔で訊ねてきた。濃い藍色の髪を揺らし、拍子抜けしたような顔で。………こういう表情は、本当に可愛い。いや、性格は全く以って好きになれねぇが。
「ああ! だが、フルは長ぇ。だから、“セラフィ”でいいな?」
「まっ、まあそれで譲歩してあげないこともないわ!!」
なんだよ、それ。譲歩したのは俺だっての。
む、カーストウッド、笑ってんじゃねぇよ! このやりとりがそんなにおもしろいかよっ!?
あ? なにやってんのか分からねぇ? ………しょうがねぇ、少し振り返ってやろう。
あの時、俺は全ての意識を狂気に委ね、屋敷ごと破壊しつくすところだった。それを止めたのは藍色の影だった。
口ではめんどくせぇやら、許せねぇ、殺してやるつもりだった、などと言っていたが、ホントは感謝してた。また、俺は“闇”の狂気に負け、怒りに身を任せた殺戮を犯すところだったから。
……まあ、前回に暴走しかけた時は師匠が制止したし、まだ殺戮なんざやらかしたことはねぇが。
セラフィーナによって現実に引き戻された俺は、次なる案を考えた。………暗殺やら虐殺など物騒なモノばかりが頭に浮かんでくる中で、俺はふと閃くものがあった。そして、それを実行することにした…。
商人のフリをして唐突に部屋に入りこみ、多少カマをかけて実際にセラフィーナを売り飛ばそうとしている事実を再確認………そして態度を豹変させて脅してやった。
「テメェみたいな下衆な輩に敬語使うなんざ反吐が出る」
ダガーを突きつけ、俺は領主に迫った。……それを止めるのは、カーストウッドだ。
「もう、いいんじゃない?」
打ち合わせ通りでもあるが、少し早くないか? もう少しいたぶろうと思っていたのに。
それでも、ここに長く居座るつもりがないコトも事実。俺はダガーを下ろし……安心してへたりこみ、裏切ったハズの娘や、ヘタレにまで助けを求める下衆野郎を一瞥、そして少し距離をとり、言葉を吐く。
「さて、ここであんたの罰を決定してやろう」
カーストウッドはもちろん、セラフィーナですら沈黙している。
「お前の罪。それは娘を裏切ったこと。奴隷売買に加担する下衆であること。………そして罰は…」
“死”………そう言われると思ったのか、領主はみっともない悲鳴を上げながら部屋のふちまで後退していった。
「お前の罰は国の役人が決める。……すでに、証拠は押さえてある。公正な場で、公正に裁かれるんだな。そして、たとえその罰が“死”だったとしても…」
俺は“影走り”を使って下衆の後ろに回りこみ、その首に手刀をすとん、と落とした。
「俺には関係ねぇよ」
気絶する領主を支えることなどするハズもなく、ドシンと崩れ落ちる下衆を尻目にそう告げた。
「……こ、これでよかったんだよね?」
「知るかヘタレ。……この結果をどう思うかは、当事者にしか分からねぇよ」
そう。いくら粛清しようとも、セラフィーナが親に裏切られたことは事実だ。しかも、すでに余裕のある経済状況を、さらに良くするためだけに。………その事実は、予想以上に辛いモノがある。
「奴隷になるよりか、百倍マシよ。昔からお父様は気に入らなかったし、慕ってたお母様も先日、病気で亡くなったわ。………これでよかったのよ、これで…」
言葉とは裏腹に、その表情は暗い。……やはり、か。そりゃ、辛いよな。
「れ、レイくん! ど、どうしよう?!」
「うっさいヘタレ。俺がなんとかしてやるから、お前は下衆を町の役人のトコまで運んどけ。いくら人気のある領主でも、証拠を挙げればとりあえず捕まえられる。証拠は、地下に捕まってた奴隷たちでいいだろう。………待ち合わせは“やすらぎの香り亭”というナンセンスな宿だ……相棒、よろしく頼む」
そう言って、俺はセラフィーナを抱え、下衆をカーストウッドに押し付けて窓から飛び出した。
俺たちはすでに地下の奴隷たちを解放した。その数はおよそ十人。これだけの人の証言があれば、裁判でも勝てるハズだ。裏では、汚れ仕事の噂も充分広がっているしな。だから、とりあえず頑張っとけよ、ヘタレ(笑)
その後、俺は即効でセラフィーナを宿に連れてきた。
二部屋にチェックイン、そのうちの一つの部屋にセラフィーナを入れ、俺も入ると……。
「ちょっと変態! なにするのよ! 引っ張らないで!! ………って、ここ宿じゃない!? なっ、なにするつもりなのよぉぉ!!」
…………誤解すんな。待ち合わせ場所に移動しただけだから。とりあえず、荷物置きに来ただけだから。
「何もしねぇよ。俺がお前なんかに発情すると思ってんのか?」
「なっ!? あんた最悪ね!! せっかく、あたしを助けてくれたと思って感謝してたのに!!」
「勝手に感謝しとけ! そしてそのまま感謝し続けろ! ……っと、今はケンカするつもりじゃねぇんだったな」
「はぁ?! あんたからケンカ売っといてなに言ってんのよ!!」
まぁ、悪かったとは思う………謝らねぇけど。
「そんなことはどうでもいい。………今は、泣いとけ」
「は? なんでよ」
「………下衆のこと。お前、つらかっただろ」
明らかに動揺しつつも、返す言葉は強がりだ。
「そんなわけないじゃない。気に入らなかったお父様は粛清できたし、むしろ気分は晴れ晴れとしてるわ!」
「…………別に、嘘はつかなくてもいい。親に裏切られる悲しみぐらい、分かるつもりだっての」
俺も、捨てられたからな…。
「!? そ、そんなの……悲しくなんて………」
言葉とは対照に、その瞳からは涙が零れ落ちる。………泣き顔なんて、全然見たかねぇよ。笑っとけ。だが…。
「悲しいんなら、悲しいって言え。お前のことは気に食わねぇが、こういう時ぐらいは支えてやるよ」
「気に食わないって…ひっぐ…なによ…」
そう言いながら、泣き出してしまった。………こういう時、安心させるにはどうするんだっけか。抱き締める? いやいやいや、ないない。………ああ、ヘタレは頭を撫でていたっけ。
そう思い至った時には、俺の手がすでに彼女の頭を撫でていた。
「とりあえず、今は泣きな」
俺の言葉に、さらに嗚咽を激しくさせて泣き始め、なんと抱きついてきた。………コイツの容姿だけは、俺の好みだ。つまり、結構ドキドキしたり…。
…………たまには、こういうのもいいかもな。
と、ここで終わればよかった。だが、この話には続きがあり、しっかりと冒頭に戻らなければならないのだ。
「えぇ?! なにやってんの、レイくんたち??!」
失念していたのだ。宿の受け付けに、『ハル・カーストウッドと名乗る者が出たら、俺の部屋に通してくれ』と頼んだことを。
ヤツの言葉によって、顔を真っ赤にして離れていくセラフィーナを尻目に、俺は額を抑えて溜め息を一つ。
……………タイミング、悪ぃよ。
とりあえず落ち着きを取り戻した俺たち(あとからヘタレに訊いたところ、結局は俺も相当慌てていたらしい)は、自己紹介から始めることにした。
「僕の名前はハル・カーストウッドだよ。しばらく、一緒に旅……するよね? 仲良くしてね!」
まあ、しばらくは連れて行くつもりだった。勝手に話を進められても、文句はねぇ。
「俺はレイ・アr………ただのレイだ。よろしく」
あやうく、“アルフォード”姓を名乗るトコだった。まだ、名乗るだけの実力は手に入れてないってのに、危ねぇ…。
「ただの? ………気になるけど、まあいいわ。あたしはセラフィーナ・アーヴィン。しっかり、面倒みなさいよね」
「へ? あ、うん。分かったよ」
ヘタレ。ヘタレへタレへタレ。どんだけ簡単に押し込められてんだか。
「あ、セラ……フィーナさん? だっけ? あの、セラフィーナさんは…」
「ちょっと待って。名前も覚えられないなら、セラでいいわ。あたしの愛称、セラだったし」
「え? いいの? よかったぁ。僕、名前覚えられないから愛称とかないかなぁって、訊こうとしてたんだよね」
つか、名前覚えられないのかよ。ヘタレ………もしかしなくても、頭まで弱い?
「おい、セラ。ヘタレのことはその辺にしておいて、とりあえず今後の方針を決めるぞ」
俺が、そうして話の流れを区切り、切り替えてやった時だった。………めんどくせぇ流れに追い込む言葉が放りこまれたのは。
「あんたは正式なファーストネームで呼んで」
…………こうして、話は冒頭に戻った。
あれから、ヘタレの笑いは何故か収まらず、俺とセラフィの言い合いがまた始まったりして、なかなかに混乱した。ホント、めんどくせぇことになったもんだ。
ケンカが収まった後にはセラフィは隣の部屋、俺とヘタレはこの部屋で眠ることになり、長いようで短かった今日という一日は終わりを告げる。
新しい仲間という名のお荷物を引き入れ、俺の周りは少し(いや、だいぶ)騒がしくなり………ほんの少しあたたかくなって、次なる町への旅は始まるのだ。
………この旅が、どうか安寧なモノとなるように。そう願った時に、ふと思った。
―――――俺、なんでこれからもずっとコイツらと行動しようと思ってんだ?!
ちょっとだけ驚愕しながら、俺は目を閉じて『まあ、しばらくは一緒にいてやるか』と心の中で呟きつつ、深い眠りへと誘われていくのだった。
はい、というわけでセラフィが仲間になりました。
これから、ハルとレイの二人のパーティに入り、活躍してくれることでしょう。
それでは次回、お会いしましょう(^^)ノシ