業務用笑顔が続くことは稀。
ハル・サイドです。
とりあえず、領主さんを懲らしめておくことにしましょう(笑)
それでは、本文をどうぞ!
Side Hal. ~ハル・サイド~
「れっ、レイくん!?」
と、僕が叫ぶ前に隣にいた藍色の影が飛び出した。
「待って!」
制止する間もなくセラフィーナはレイの腕にしがみついた。レイは一瞬驚きの表情を浮かべたが、頭を振って溜め息を吐いた。そして僕を睨み付けてきた。
「セイルスに戻れと言ったはずだが」
「あー……いや、僕じゃなくてシノラインがさぁ」
忘れていた、なんて言えない……。
「もういい。どうせ俺の忠告なんて頭に残らなかったんだろ」
「うぐっ」
思わず漏れた声にレイは、心底呆れたという顔をした。いいいまはそんな場合じゃないでしょ!
「見張りに出てた衛兵は全員、首を掻かれて死んでた。あんたがやったんでしょ」
鋭くセラフィーナが問う。
そうだった。僕達は誰に咎められることなく屋敷内に侵入することができた。なぜなら、首無しの死体にしか出会わなかったから。
レイは吐き捨てるように言う。
「ああ。ああいう輩は死ねばいい。そう思わねぇか? 金のあるヤツに尾を振ることしか能のない人間。いや、人間かどうかも怪しいな」
「それで、どうするつもりだったの?」
「悪党は一人残さず罰するつもりだったが……やりにくくなったな。だが俺はこいつらを許したくはない。…………はぁ、めんどくせぇな。協力しろ、お前ら」
レイは領主の居る執務室の扉をノックする。そして返事も待たず中へ。
「失礼いたします」
「なっ、なんだ!? 何者だ!」
「初めまして、リディス領主様。私は旅の商人でございます。依頼の品をお届けに参りました」
レイが目で合図する。指示通り僕とセラフィーナが執務室内に入る。
そのとたん、領主の顔が驚愕に染まる。
「セラ! お前、どこに行っていたんだ!」
領主に駆け寄ろうと(するフリを)するセラフィーナだが、彼女は僕の握っている紐で腕を縛られている。領主ははっとしたように僕たちに謝辞を述べる。
「ありがとうございます。この謝礼は弾ませていただきますから」
「それはこちらとしてもありがたいのですが……」
レイが顔を曇らせるフリをした。
「実はお嬢さん、私たちの全財産を窃盗……しましてね」
「なにっ!? 本当なのかね」
セラフィーナは俯いて肩を震わせている。もちろん泣き真似だ……いや、声を殺して笑っている?
「なっ……なんてことを!」
「それに、意図はなかったとはいえ、我々の仕入れた売り物も損傷してしまいまして」
領主はぶるぶると震えながらセラフィーナを睨み付けている。親がする目付きとは思えない。
「つきましては……報酬とは別に、弁償金と慰謝料を用意していただきたいのですが。私たち、生きる糧を失ってしまいましたので」
「そ……それは無茶な」
「まあ……私も鬼ではないので、そうですね、代わりに娘さんを譲っていただけませんか? こちらも人手不足でして。損失分は働いて返して頂ければ構いません」
「そうですか。い、いやっ、困ります……。そ、そうだ、数日後には金が入ります。それまで待って頂ければ」
―――――娘を売り飛ばすからですか?
領主は目をくわっ!! と見開いた。鬼も驚く形相。僕は腰が引けた。
「誰がそんなことを……。そんなこと、するわけ無いじゃないか!」
レイは息を吐く。業務用の笑顔はとっくに掻き消えている。
「はあ……。知ってんだよ。あんたが“影”と繋がってんのを」
「影とはなんだ!? 私は知らない!」
「子供を買い漁って高く売り飛ばしてんだろ」
「あっ、あれは向こうが焚きつけてきたんだ!」
お?
「そうか。お前のせいじゃないのか?」
言葉とは裏腹に、レイは領主の喉元寸前にダガーを突き付けていた。ひゅっ、と領主の喉が鳴る。
「テメェみたいな下衆な輩に敬語使うなんざ反吐が出る」
領主は酸素が回らないのか、口をぱかぱかと開く。言葉は出てこない。
「もう、いいんじゃない?」
なんだかかわいそうになってきて、僕はレイに声をかけた。レイはダガーを降ろす。
安心感からか、領主はずるずるとへたりこんだ。
「た、助けてくれセラフィーナ、そこの君!」
え、僕? でもその人は悪い人じゃ……って、さっきもやったような。
「さて――」
レイはいたぶるように領主をねめつけてから口を開いた―――。
次回で、この章は完結します。
お楽しみに! ………していただけると嬉しいです。
それではっ(^^)ノシ