労働力、確保しましたっ!
新章です!
飛竜討伐を終えた二人は、これからどうなっていくのでしょうか。
それでは、本文をどうぞ!
Side Ray. ~レイ・サイド~
さようなら、面倒事。こんにちは、平和な生活…!
うん、清々しい朝だ。空は雲ひとつなく………ということもないが、それなりに晴れてるし、吹き抜ける風が妙に気持ち良い。宿のメシも美味かったし、やはり朝に浴びるシャワーも気持ちが良いものだ。そしてなにより…。
―――――これで面倒事ともお別れだ…!
未だかつて、ここまで清々しい朝はない。それほど、ヘタレに振り回されることに苛立ちとストレスを感じていたんだろう。……………まぁ、飛竜討伐はそれなりに楽しかったが。
ん? 楽しかった? ………ということは、俺もそれなりにあいつとつるむのも悪くないと思い始めていたのだろうか? まあ、裏のヤツは使えるし、表のヤツも笑えるっちゃ笑えるからな。
そうこう考えているうちに、そろそろギルドへ向かう時間になっていた。
「……さて、行くか」
ここを出たらそのまま次の町へ向かうつもりで宿のチェックアウトを終え(相変わらず適当な受付だったが)、俺は一途、ギルドを目指す。
ギルドまでは歩いて十分ほど。現在の時刻は午前、十一時半。途中の店で昼メシを食って向かえば、ちょうどいい時間になるだろうな。
昼は肉料理を食べ、満足したところでギルドに辿り着く。驚いたのは…。
「あ、レイくん。おはよー」
すでにコイツが来ていたコトだ。……癖のある茶髪と、金色の瞳のヘタレだ。
………まぁ、普通に午後だけど。それなのに“おはよー”って…。
「今日は寝坊しなかったようだな、カーストウッド。………ちっ」
「あ、舌打ちした!? 僕が遅れたら、報酬、ホントに全部持ってくつもりだったの??!」
ただの冗談だ。リアクションが大きすぎるぞ。
俺はとりあえずシカトし、スイングドアを身体で押しながらギルドの中に入る。ここのギルドは酒場でもあり、ギルドマスターは酒場の店主だ。
ちなみに、ここでは上位のクエストばかりを扱っているとか。…………どこぞのバカなら、間違えて入りそうな場所だ。 俺は、後ろでまだ文句をたれているカーストウッドを見やり、本気でそう思った。……案外、間違っていないかもしれねぇな。
「報酬の用意は出来たか?」
とりあえずカウンター席に座り、ギルドマスターに話しかけた。………店主として、無言でワインをカウンターに置きつつ、ギルドマスターとして答える。
「ああ。昨日は悪かったな、用意できなくて。……これが、お前の報酬だ」
そう言って、金貨の入った袋を渡してきた。…………今までにない、ズシリとくる重さ。さすが、討伐対象が飛竜だっただけのことはある。まあ、ヘタレとの折半と“魔の宿りし至高水”のせいで、俺の儲けは大したことはないが、な。
それでも、一週間は遊べる額を儲けたことになるか? なかなかに、得するクエストを受けたもんだ。
「おい、ヘタレ。これがお前の取り分だ」
俺は、カウンターに出されたワインに口をつけながら金貨をちょうど半分数えてやり、半分を懐に入れ、もう半分を懐から取り出した他の袋に入れて、カーストウッドの方へ差し出した。
「あ、ありがとう。というか、昼間っからお酒飲むんだね…。それに、お酒っておいしいの?」
「酒場に来て酒の一つも飲まないのは失礼だろうよ。……少なくとも、俺の師匠はそう教えてくれた。それに俺は酔いづらい体質らしく、強い酒でもグラスで十杯くらいなら余裕で美味く飲める」
「ほう。第一印象だけで一匹狼だと分かるお前が、こんなヘタレを連れてきたと思えば師匠なんてヤツまでいたんだな」
ギルドマスターも、話に入ってきた。…………俺は、静かに飲む方が好きなんだが。
「ああ。かなり有名な師匠だったよ」
「へぇ、何て名前なの?」
「……リヒト・アルフォード」
バキリ、とヘタレと店主の表情が固まる。……数秒の間をおき、その瞳を驚愕で彩りながらヘタレが声をかけてきた。
「り、リヒト・アルフォードって、アノ?! 剣も魔法も達人級で、老いているはずの今でも彼の最強を信じている人がいるくらい強い、アノ人??!」
ヘタレでも知っているとは、あんたも随分とまぁ有名なようだな、師匠。………こんな調子じゃやはり、俺はまだまだ“アルフォード”姓は名乗れねぇ。
「ああ。………まあ、俺が14の時に老衰で死んだが」
「あっ、ごめん…」
別にそこまで落ち込むほど、重い話でもねぇと思うけど。……さすがに、師匠が亡くなって三年も経ったワケだし。
気分を切り替えるつもりで、俺は店主に傭兵として話しかける。
「ギルドマスター。俺は今日、ここを発つ。出来れば、他の町までの護衛クエストのようなモノがあれば嬉しい………なんかねぇか?」
次の町まで、護衛するだけで馬車に乗せてくれる商人なんかが出すクエストは、それなりに使える。俺のようなヤツの移動にも適しているし、なにより移動しながら金が稼げる。
ギルドマスターは、依頼表をパラパラめくりながら答える。
「護衛クエストか? あ~、今ちょうど他の傭兵が受注しちまってるなぁ。…………む、隣町からの依頼に、迷子探しのクエストがあるな。なんでも、隣町であるリディスの領主の娘らしくてな。家出したようだ。道の途中で迷子見つけて、リディスの領主まで届けるだけで報酬は護衛クエストの倍だ。………どうだ? やる気、ねぇか?」
ふむ…。悪くない報酬だが……。迷子探しとか、すっげぇ面倒だ。
「依頼料はタダでいいぜ。この依頼、人気なくてなぁ」
そりゃお得だ。………それでもめんどくせぇ。どこかに、労働条件の良いパートナー(犠牲)は転がってねぇか……。
俺の言うことは大抵聞く、聞き分けの良い相棒で……高い報酬を支払わずに済み……大きい見返りも求めない無欲な……そして、有能なヤツ。
俺はなんとなく、隣の席で居心地悪そうにしている茶髪を視界に入れる。
俺の言うことは大抵聞くヘタレで……既に高い報酬を手に入れ、しばらくは金に困らず……大きい見返りを求めることの出来ないヘタレ……おっと、“ヘタレ”が二回出たな……そして、裏の人格は有能だ。
何気に、コイツの労働条件………完璧じゃね?
「おい、カーストウッド。一度、俺と組んでみる気はないか?」
「え?! い、いいの??!」
「ああ。俺にはお前が必要なんだ」
お前のその低報酬で有能な労働力が、な。
「必要?! 僕が??! ………やったぁ! 僕も出世したぁ!!」
「ああ、そうだな。よろしく頼む、相棒」
馬車馬のように働いてくれ。………次の町までの付き合いだが、存分に役に立ってくれよ(笑)
「ひ、酷い?!」
「テレパシー??!」
…………また超能力かよ。
「いや、口に出してたからね?! でも、ちょっとへこみそうな言葉だったから忘れとく!! 忘れさせてぇぇ!!!」
いや、勝手に忘れろよ。ここは、“冗談だった”戦法でいこう。
「まぁ、そうへこむな。ただの冗談だっての。次の町まで頼りにしてる、相棒」
「相棒……。そっかぁ、相棒かぁ…ふふふ」
信じたぁぁ?! こいつ、いつか絶対詐欺に遭う!! 断言出来る!!!
だが、これで俺は大切な労働力を手に入れたのだ。………それと、暇つぶし。これで、俺のリディスまでの旅路は確実にいいものになる。順調だ……ふふふ。
あ? 二人して怪しい? うっせぇ、それぐらい大目に見ろよ!!
「……二人共、なんか怪しい笑みが…」
とりあえず、店主は黙れ。俺の新しい平穏への道の幕開けなのだから!(笑)
れ、レイくんが黒い…(笑)
でも、基本的にレイは腹黒いですし、悪人的思考も持ち合わせたりしています。
罪人には全く情け容赦ない人物にするつもりですからねぇ。
それでも、“なんだかんだでいい人”を目指して頑張ろうと思います!
それでは、また次回っ(^^)ノシ