第九章 原点の探索
座標院に戻った測は、緊急会議を招集した。
「状況を説明する」
集まったのは、リーネ、ボルガ、ミーシャ、クロード——そして、座標院の主要な卒業生たちだ。
「各地で、基準点の座標が変動している。原因は、歪曲公の配下による『歪曲の術』だ。このままでは、座標院が築いた基準点網は、全て無力化される」
「対策は?」
リーネが訊ねた。
「大基準点の完全復活だ。五つ全てを復活させれば、座標系は完全に安定し、個別の歪曲の術では歪められなくなる——はずだ」
「はずだ、か」
クロードが呟いた。
「確証はないのか」
「ない。だが、論理的にはそうなるはずだ。そして、やってみなければわからない」
測は地図を広げた。リーネが作成した、この世界の概略図だ。精度は低いが、大陸の配置と大まかな地形はわかる。
「五大陸。それぞれに大基準点がある。竜骨山脈の石は復活した。残りは——」
測は地図の上を指でなぞった。
「東の大陸——機械帝国『ギアワークス』が支配している。南西の大陸——砂漠地帯、詳細不明。北東の大陸——永久凍土の地、詳細不明。そして——」
指が海の上で止まった。
「五番目の大陸。千年前に海に沈んだ」
「沈んだ大陸には、どうやって行く」
ボルガが訊ねた。
「今は考えない。まず、陸にある四つを復活させる。五番目は、最後だ」
「では、どこから行く」
「分担する」
測は言った。
「俺とリーネは、東の機械帝国へ。ボルガとミーシャは、北東の永久凍土へ。残りの二箇所は——座標院の卒業生チームに任せる」
「俺たちだけで大丈夫か」
ボルガは不安げだ。
「大丈夫だ。お前には戦闘力がある。ミーシャには古代の記憶がある。二人でなら、やれる」
「……わかった。信じよう」
「クロードは、座標院に残ってくれ。新しい機材の開発と、基準点網の維持を頼む」
「おう。任せろ」
会議は、具体的な準備の話に移った。
旅の装備、資金、護衛——必要なものは山ほどある。だが、最も重要なのは、各大陸の大基準点の正確な位置を知ることだ。
「古文書に、何か記録はないか」
測はリーネに訊ねた。
「探してみるわ。ただ、千年前の記録は断片的だから——」
「できる限りでいい。何か手がかりがあれば」
────
出発までの二週間、測は準備に追われた。
リーネは古文書を解読し、各大陸の大基準点についての記録を探した。クロードは新型の測量機器を製作した。ボルガとミーシャは、北東行きの準備を進めた。
そして、出発の日が来た。
「気をつけて」
座標院の門前で、卒業生たちが見送りに来ていた。
「任せろ。必ず、大基準点を復活させて戻る」
測は馬に跨った。隣にはリーネ、そして数人の護衛。
「ボルガ、ミーシャ。お前たちも気をつけろ」
「わかっている。お前こそ、死ぬなよ」
「死なない。まだやることがある」
二つの隊は、別々の方向へ出発した。
測とリーネは東へ——機械帝国ギアワークスへ。
ボルガとミーシャは北東へ——永久凍土の大地へ。
世界を測る旅が、本格的に始まった。




