第十八章 歪曲公との対話
視察の旅を終え、座標院に戻った測を、リーネが出迎えた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
二人は並んで歩きながら、座標院の中庭を歩いた。生徒たちが実習を行っている。かつて測が教えた技術を、今は卒業生たちが教えている。
「順調みたいだな」
「ええ。あなたがいない間も、みんな頑張っていたわ」
「俺がいなくても、大丈夫だな」
「大丈夫よ。あなたが基盤を作ったから」
リーネは測を見つめた。
「でも——あなたがいた方がいい。みんな、あなたを待っていたわ」
「……そうか」
測は少し照れくさそうに頭を掻いた。
「リーネ」
「何?」
「以前——旅が終わったら話があると言っていたな」
リーネの頬が、わずかに赤くなった。
「覚えていたの」
「覚えている」
「……今は、いい?」
「ああ。聞かせてくれ」
リーネは深呼吸をした。そして——
「私——あなたのことが好きよ」
測は黙っていた。
「最初に会ったときから——あなたの真剣な目、仕事への誠実さ、周りを思いやる優しさ——全部、好きだった」
「……」
「だから——これからも、一緒にいたい。あなたと一緒に、この世界を見ていきたい」
リーネは測を見つめた。
「答えを——聞かせて」
測は少し考えた。
この世界に来て、どれだけの時間が経っただろう。数年——いや、もっとか。その間、リーネはずっと傍にいてくれた。
辛いときも、楽しいときも、危険なときも——いつも、一緒だった。
「俺も——」
測は言葉を探した。
感情を表現するのは、苦手だ。数字や座標は得意だが、人の心を測ることは難しい。
「俺も——お前といると、安心する。お前がいない日々は——考えられない」
「それは——」
「好きだ、ということだと思う」
測は照れくさそうに視線を逸らした。
「言葉にするのは、苦手だ。でも——気持ちは、本当だ」
リーネは微笑んだ。
「それで十分よ」
二人は見つめ合った。
そして——
「結婚してくれるか」
測が言った。
「え——」
「俺の世界では——好きな人には、結婚を申し込むらしい。この世界でも、同じか?」
リーネは一瞬呆然としたが——すぐに笑い出した。
「ええ、同じよ。でも——普通はもう少し、ロマンチックにするものだけど」
「すまない。そういうのは、苦手だ」
「知ってるわ」
リーネは測の手を取った。
「答えは——イエスよ。喜んで」
二人は手を繋いだまま、夕日を見つめた。
座標院の向こうに、太陽が沈んでいく。空は赤と紫のグラデーション——この世界の、美しい夕焼け。
「これから——どうする?」
リーネが訊ねた。
「座標院を続ける。測量の技術を、もっと広める。そして——」
測は微笑んだ。
「お前と一緒に、この世界を測り続ける」




