第十七章 極寒の測量
名誉会長就任から半年後。
測は、世界各地の座標院分校を視察していた。
最初の視察先は、機械帝国ギアワークスの分校だった。
「ようこそ、ハカル名誉会長」
グスタフが出迎えてくれた。
「相変わらず、堅苦しい呼び方だな」
「失礼。では——ハカル殿」
「それでいい」
二人は並んで歩きながら、分校の施設を見て回った。
機械帝国の分校は、最新の技術を取り入れた設備が整っている。蒸気機関で動く測量機器、精密な歯車仕掛けの計算装置——魔法とは違うアプローチで、同じ精度を実現している。
「帝国の技術者たちは、優秀だ」
グスタフは誇らしげに言った。
「座標の概念を理解してからは、飛躍的に進歩した。今では——西方の座標院に負けないレベルになっている」
「それは良かった」
測は微笑んだ。
「測量の技術が広まれば、世界はもっと良くなる」
「あなたのおかげだ、ハカル殿」
「俺のおかげじゃない。皆の努力の結果だ」
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次の視察先は、北東の永久凍土の大陸だった。
ここには、ガルドとミーシャが残り、分校の設立を進めていた。
「ハカル、久しぶりだな」
ガルドが笑顔で迎えてくれた。
「元気そうだな、ガルド」
「ああ。この寒さにも、だいぶ慣れた」
永久凍土の大陸の分校は、過酷な環境に適応した設計になっていた。暖房設備が完備され、測量機器には凍結防止の処理が施されている。
「この地の先住民たちは、独自の測量技術を持っているの」
ミーシャが説明した。
「星の位置を読んで、方角と距離を測る。天測——と呼ばれる方法よ」
「天文測量か」
測は興味を持った。
「俺の世界でも、かつては使われていた技術だ。GPSがない時代には、星を使って位置を決めていた」
「彼らの技術と、座標院の技術を融合させることで——さらに精度の高い測量ができるようになったわ」
「すごいな」
測は感心した。
「俺が知らない方法で、測量は進化している」
「あなたが基盤を作ったから、私たちが発展させられるの」
ミーシャは微笑んだ。
「感謝しているわ、ハカル」
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最後の視察先は、南西の砂漠地帯だった。
ここには、卒業生チームが分校を設立していた。
「先生、お待ちしていました」
チームリーダーの青年——座標院の第一期卒業生——が出迎えた。
「立派になったな」
測は彼の成長を喜んだ。
「先生のおかげです」
「俺は何もしていない。お前自身の努力だ」
砂漠の分校は、厳しい気候に対応した設計になっていた。日差しを遮る屋根、砂塵を防ぐ密閉構造、そして——
「これは何だ」
測は、見慣れない機器を見つけた。
「新型の測量機器です。砂漠の蜃気楼による誤差を補正する機能を持っています」
「蜃気楼の補正?」
「はい。熱による空気の屈折で、遠くの物体の位置がずれて見えることがあります。この機器は、気温と湿度を測定し、自動的に補正を行います」
「……すごいな」
測は感嘆した。
自分が教えた技術が、さらに発展している。自分が想像もしなかった方向に、進化している。
「これが——技術の継承か」
測は呟いた。
「一人の知識は、限られている。だが、多くの人に伝われば——無限に広がる」




