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測量士×異世界転生_異世界で丁張りを立てたら、世界を救う設計図になりました  〜測量士は今日も座標を刻む〜  作者: もしものべりすと


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第十五章 地下の決戦

歪曲公の力は、予想以上だった。


「船体が——」


エルンストが叫んだ。


潜水艇の周囲で、空間が歪み始めている。座標が狂い、方向感覚が失われる。上下左右が曖昧になり、どちらに進んでいるのかわからなくなる。


「歪曲の術だ」


測は集中した。


スキルを全力で起動する。歪みを検知し、本当の座標を見極める。


「エルンスト、右舵一〇度、下に傾斜五度」


「了解」


測の指示に従い、潜水艇は進路を修正した。歪曲公の術を避けながら、石柱に近づいていく。


「させない」


歪曲公が手をかざした。


空間がさらに激しく歪む。潜水艇が振り回され、乗組員たちが壁に叩きつけられる。


「くそ——」


ボルガが唸った。


「こんなところで、戦えない。船を降りる」


「無理だ。水深千メートルでは——」


「俺に任せろ」


ミーシャが前に出た。


彼女の体から、淡い光が放たれる。古代の魔法——エルフが伝承してきた、太古の力。


「『水の加護』。この術があれば、深海でも生きられる」


「ミーシャ……」


「私と、ボルガと、クロード。三人で外に出て、歪曲公を引きつける。ハカル、あなたは——石柱に向かって」


「わかった」


測は頷いた。


「リーネ、俺と一緒に来い。エルンストたちは、潜水艇を守ってくれ」


「了解」


三人が船外に出た。


ミーシャの魔法で、水中でも呼吸ができる。動きは遅いが、戦えないわけではない。


「歪曲公」


ボルガが剣を抜いた。


「お前の相手は俺だ」


「傭兵風情が——」


歪曲公が手をかざす。歪みの波動がボルガに向かって放たれる。


だが、ボルガはそれを——避けた。


「何——」


「座標は、ハカルが教えてくれた」


ボルガは笑った。


「歪みがどこにあるか、わかっている。避けるのは、簡単だ」


「小賢しい——」


歪曲公がさらに攻撃を仕掛ける。だが、ミーシャとクロードが援護に入り、歪曲公の注意を引きつけた。


その隙に、測とリーネは石柱へ向かった。


────


石柱の根元に到達した。


「これが——世界の原点」


測は石柱を見上げた。


黒い石の表面に、無数の文字が刻まれている。座標値、計算式、そして——何かの図形。


「これは——」


リーネが図形を見つめた。


「世界地図だわ。千年前の——正確な世界地図」


五大陸の配置が、石柱に刻まれていた。そして、各大陸に一つずつ、点が打たれている。大基準点の位置だ。


「五番目の大陸が——ある」


石柱に刻まれた地図には、今は海に沈んだ五番目の大陸が、まだ存在していた。そこには、都市の名前らしき文字が書かれている。


「『アトラテ』」


リーネが読み上げた。


「千年前、ここには——『アトラテ』という都市があった。古代測位文明の中心地」


「そして、歪曲公が最初に破壊した場所だ」


測は石柱に手を触れた。


「座標を——入力する」


スキルを起動する。四つの大基準点から得たデータを元に、世界の原点の正確な座標を計算する。


《X 0.000、Y 0.000、Z -1024.567》


これが——世界の原点だ。すべての座標の、基準となる点。


測は、その座標を石柱に向かって投射した。


だが——


「させない」


歪曲公が現れた。


ボルガたちの防衛を突破し、石柱の前に立ちはだかる。


「千年前——私はここで、座標系を破壊した。再び——破壊する」


歪曲公の体から、巨大な歪みの波動が放たれた。


石柱を中心に、空間が激しく揺れる。座標が狂い、測の投射が遮断される。


「くっ——」


測は踏ん張った。


だが、歪曲公の力は強大だ。測一人では、太刀打ちできない。


「ハカル!」


リーネが叫んだ。


彼女は——石柱の反対側に回り込んでいた。


「私も——やれるわ」


「何?」


「私の家——カルトグラフ家は、古代測位師の末裔よ。血の中に——座標を感じる力がある」


リーネは石柱に両手を触れた。彼女の体が、淡く光り始める。


「一人じゃ無理でも——二人なら」


測は理解した。


「一緒にやるぞ、リーネ」


「ええ」


二人は同時に、石柱に向かって座標を投射した。


測の「絶対座標認識」と、リーネの血に眠る古代の力。二つの座標感覚が、石柱に流れ込む。


歪曲公が叫んだ。


「やめろ——」


だが、もう遅かった。


石柱が光り始めた。白い光が、石柱から放射状に広がっていく。海底全体を——いや、世界全体を照らしていく。


五つの大基準点が、完全に同期した。


世界の座標系が——正常化していく。


「これで——」


測は呟いた。


だが、その瞬間——


激しい痛みが、体を貫いた。


「がっ——」


測は膝をついた。視界が霞む。体から何かが——抜けていく感覚。


「ハカル!」


リーネの声が、遠くに聞こえる。


「絶対座標認識」のスキルが——消えていく。石柱に吸収されていくように、測の能力が失われていく。


原点を復活させるための——代償。


「そうか——こういうことか……」


測は理解した。


世界の原点を復活させるには、座標を感じる力を捧げる必要がある。測のスキルは、原点の一部となって、世界を支える力になる。


「……それでいい」


測は微笑んだ。


能力を失っても——知識は残る。経験は残る。測量士としての誇りは、消えない。


「これで——この世界は、正しく測れるようになった」


歪曲公が悲鳴を上げた。


彼の体から、歪みの力が消失していく。千年間維持してきた力が、原点の復活によって無効化されていく。


「なぜ——」


歪曲公は崩れ落ちた。


「なぜ——お前は、能力を捨ててまで——」


「能力がなくても、測量はできる」


測は答えた。


「道具と知識があれば、誰でも座標を刻める。俺の役目は——それを伝えることだ」


歪曲公は黙っていた。


やがて、彼の体が——薄れ始めた。


「私は——間違っていたのか」


「間違っていたとは言わない。だが——方法が違った」


測は歪曲公を見つめた。


「座標を消しても、争いは消えない。大切なのは——正確な情報を共有し、互いを理解することだ」


歪曲公は微笑んだ。それは——千年ぶりの、穏やかな微笑みだった。


「そうか——そうだな。私は——疲れた」


歪曲公の体が、完全に消えた。


千年の戦いが——終わった。

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