表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
測量士×異世界転生_異世界で丁張りを立てたら、世界を救う設計図になりました  〜測量士は今日も座標を刻む〜  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/22

第十四章 機械と魔法

南西の砂漠から、卒業生チームの報告が届いた。


「四番目の大基準点、復活成功」


遠隔座標転送装置を通じて届いた声は、疲労と達成感に満ちていた。


「よくやった」


測は安堵の息を漏らした。


四つの大基準点が復活した。残りは一つ——海底に沈んだ、五番目の大陸。


「ハカル」


リーネが傍に来た。機械帝国での外交任務を終え、座標院に戻ってきていた。


「四つ揃ったわね」


「ああ。これで——」


測はスキルを起動した。


四つの大基準点が同期したことで、スキルの精度は飛躍的に向上していた。今や、大陸を越えた座標も認識できる。そして——


「見えた」


「何が?」


「五番目の大基準点の位置。海の底——この大陸から南西に約三千キロメートル。深度約千メートル」


「千メートル……」


リーネは絶句した。


海面下千メートル。人間が潜れる深さではない。魔法を使っても、そこまで到達するのは困難だ。


「どうやって行くの?」


「機械帝国の技術を使う」


測は言った。


「グスタフ殿と連絡を取った。帝国には、深海探査用の潜水艇を製作する技術がある。協力を約束してくれた」


「帝国政府との関係は?」


「宰相のシュテルンは失脚した。大基準点復活の後、帝国内部で権力闘争が起きて——結局、協力的な派閥が勝った」


リーネは安堵した表情を浮かべた。


「それは——良かったわ」


「ああ。だが、問題はまだある」


「歪曲公?」


「そうだ。四つの大基準点が復活したことで、歪曲公の力は大幅に弱まっている。だが、完全に消滅したわけではない。最後の一つを復活させるまで——奴は妨害を続けるだろう」


測は窓の外を見た。


座標院の中庭では、卒業生たちが訓練を行っている。彼らは、測が育てた測量師たちだ。この世界に座標を刻む者たち。


「最終決戦になる」


測は呟いた。


「五番目の大基準点——世界の原点。そこで、歪曲公との決着をつける」


────


潜水艇の製作には、三ヶ月を要した。


機械帝国の技術者ギルドと、座標院の卒業生たちが協力し、前例のない深海探査艇を設計・建造した。


「完成したぞ」


グスタフが満足げに言った。


港に浮かぶ潜水艇は、鋼鉄の巨体を海面に横たえていた。全長三十メートル、幅十メートル。円筒形の船体に、複数の観測窓と操縦翼が取り付けられている。


「『デプスシーカー号』と名付けた。深さを探す者、という意味だ」


「ありがとう、グスタフ殿」


測は深々と頭を下げた。


「礼を言うのは、すべてが終わってからだ。成功を祈っている」


乗組員は八人。


測、リーネ、ボルガ、ミーシャ、クロード——そして、帝国から派遣された三人の技術者。


「最後の旅だな」


ボルガが言った。


彼は北東の大陸から戻ってきていた。凍傷の跡が手に残っているが、戦意は衰えていない。


「最後の——そして、最も困難な旅だ」


測は頷いた。


「海底千メートル。未知の世界だ。何が起きるかわからない」


「だが、行くしかないんだろう」


「ああ」


「なら、行こう。俺は——最後までお前に付き合うと決めた」


ボルガは拳を突き出した。測もそれに応えて、拳を合わせた。


「ありがとう、ボルガ」


「礼は——全てが終わってからだ」


────


潜水艇が港を出発したのは、夜明け前のことだった。


見送りに来た人々——卒業生たち、辺境伯、アクアダクト王国の使者、機械帝国の代表——に手を振りながら、測たちは船室へ戻った。


「目的地まで、約七日間の航海だ」


帝国の技術者——航海士を務めるエルンストが説明した。


「海上を五日、潜水して二日。予定通りに進めば、一週間後には目的地に到着する」


「了解した。各自、持ち場につけ」


測は指示を出した。


潜水艇の内部は、狭いが機能的だった。操縦室、居住区、機関室、そして観測室。限られた空間に、必要なすべてが詰め込まれている。


「ハカル」


リーネが声をかけてきた。


「何だ」


「少し、話したいことがあるの」


二人は観測室へ移動した。丸い窓から、海の青が見えている。まだ水面近くだが、深くなるにつれて、光は届かなくなるだろう。


「何の話だ」


「この旅が終わったら——」


リーネは言葉を切った。少し照れたように、視線を逸らす。


「どうした」


「その……私、あなたに言いたいことがあるの。でも、今は——」


「今は?」


「今は、戦いに集中すべきだと思う。だから——全てが終わったら、聞いてくれる?」


測は少し考え、そして頷いた。


「わかった。全てが終わったら、聞かせてくれ」


リーネは微笑んだ。その微笑みには、何か特別な感情が込められているようだった。


「約束よ」


「ああ、約束だ」


二人は窓の外を見つめた。海は青く、深く、未知の世界への入り口を開けている。


────


五日目の朝、潜水艇は潜航を開始した。


「潜航深度一〇〇メートル」


エルンストが報告する。


「船体に異常なし。気圧正常」


観測窓の外は、青から濃紺へと変わっていく。光が薄れ、闘が深まる。


「潜航深度三〇〇メートル」


「五〇〇メートル」


「七〇〇メートル」


深度が増すにつれて、船体が軋む音が聞こえ始めた。水圧が増している証拠だ。


「大丈夫なのか」


ボルガが不安げに訊ねた。


「設計上は、一千五百メートルまで耐えられる。心配はない」


エルンストは冷静に答えた。だが、その声にも、わずかな緊張が混じっている。


「潜航深度一〇〇〇メートル」


目的の深度に達した。


観測窓の外は、完全な闘だった。船外灯の光が、わずかに周囲を照らしている。その向こうに——


「見える」


測が呟いた。


「何が?」


「古代の都市だ」


スキルを起動する。座標格子が視界に浮かぶ。そして、その格子の向こうに——


巨大な構造物が浮かび上がった。


石造りの建物群。崩れかけた塔。広場のような空間。そして、その中央に——


「あれが、世界の原点だ」


黒い石柱が、海底に聳え立っていた。


他の大基準点と同じ形式。だが、規模が違う。高さは五十メートル以上。そして、その石柱から放たれる座標の波動は——世界全体を覆っている。


「『始原の石』」


ミーシャが囁いた。


「千年前の記憶に——ある。あれが、世界の座標系の原点。すべての基準点の、基準となる場所」


「接近する」


エルンストが操縦桿を握った。


潜水艇は、ゆっくりと古代都市に近づいていく。


そして——


「敵だ」


ボルガが叫んだ。


闇の中から、人影が現れた。黒衣を纏った人物——いや、人物ではない。水中にいるにもかかわらず、普通に立って歩いている。


「歪曲公……」


測は息を呑んだ。


歪曲公の姿が、潜水艇の前に立ちはだかった。


彼の周囲で、座標が渦巻いている。歪曲の力が、空間そのものを捻じ曲げている。


「ようこそ、測量師」


歪曲公の声が、船内に響いた。どうやって伝わっているのかわからない。だが、声は確かに聞こえている。


「ここで、すべてを終わりにしよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ