第十二章 帰還と対立
地下への潜入は、深夜に行われた。
グスタフの案内で、技術者ギルドの秘密の通路を通り、帝国首都の地下へと降りていく。
「ここから先は、古代の遺跡だ」
グスタフが囁いた。
「帝国が建国される前から存在していた。我々の先祖が——千年前の技術者たちが——作った施設だ」
通路は、鋼鉄と煉瓦から、古い石造りへと変わった。壁には、見慣れた文字——座標を表す古代文字——が刻まれている。
「ここは——」
測は息を呑んだ。
巨大な空間が広がっていた。天井は高く、石柱が林立している。そして、その中央に——
「大基準点」
黒い石柱が、空間の中心に聳え立っていた。
竜骨山脈の石と同じ形式。だが、こちらは——金属の配管やケーブルで覆われている。帝国が「動力源」として利用するために、後から取り付けたものだろう。
「あの配管を外せば、本来の機能を復活させられる」
グスタフが言った。
「だが、動力の供給が止まれば——首都の一部が機能停止する。帝国政府が黙っていない」
「どのくらいの時間がかかる」
「配管を外すのに、最低でも三十分。座標の修正に——」
「それは俺がやる。配管を外してくれれば、あとは何とかする」
測は石柱に近づいた。
周囲の座標を測定する。予想通り、座標系は歪んでいた。竜骨山脈のときと同様に、石柱に刻まれた座標と、実際の座標がずれている。
「リーネ、記録を」
「わかったわ」
作業が始まった。
グスタフと技術者たちが配管を外し、測がデータを収集する。ミーシャがいないため、座標の刻印は測自身がやるしかない。
「できるのか」
リーネが心配そうに訊ねた。
「やってみる。俺のスキルが——座標を『伝える』ことができるなら」
竜骨山脈のとき、測は自分のスキルをミーシャの魔法と組み合わせて、石柱に座標を入力した。今回は、魔法の補助なしで、スキルだけでやらなければならない。
「計算完了」
測はデータを確認した。
《最確値:X 32156.445、Y 89234.667、Z 567.123》
この座標を、石柱に入力する。
測は石柱に手を触れた。
冷たい石の感触。その下から、微かな鼓動が伝わってくる——石柱は、まだ生きている。
スキルを全力で起動する。
《絶対座標認識》
座標を「見る」だけでなく、「伝える」。石柱に向かって、正しい座標を投射する。
《X 32156.445、Y 89234.667、Z 567.123》
何も起きない。
「くそ……」
測は歯を食いしばった。魔法の補助なしでは、やはり不可能なのか——
その時、石柱が反応した。
表面に刻まれた古い文字が、淡く光り始める。測が投射した座標値を、石柱が受信している——
「できる——」
測は集中を強めた。
全ての意識を、座標の投射に注ぐ。自分のスキルの全てを、石柱に注ぎ込む。
そして——
石柱が、光を放った。
白い光が、石柱から天へと昇っていく。配管を突き破り、天井を貫き、地上へ——
「成功だ」
グスタフが呟いた。
「大基準点が——復活した」
その瞬間、遠くから警報が鳴り響いた。
「見つかった。急げ」
グスタフが叫んだ。
測たちは、来た道を引き返した。背後から、兵士たちの足音が迫ってくる。
「こっちだ」
グスタフが別の通路を指差した。
走る。ひたすら走る。
地下の迷路を抜け、ギルドの秘密の出口から地上に出たとき——夜明けの光が目を射た。
「何とか——逃げ切ったか……」
測は息を切らしながら、空を見上げた。
二つの大基準点が、復活した。残りは三つ。
だが、帝国との関係は——完全に壊れてしまった。
「これから、どうなるかしら」
リーネが訊ねた。
「わからない。でも——」
測は東の空を見つめた。朝日が昇り始めている。
「やるしかない。残りの大基準点を、全て復活させる」
帝国の首都から、逃亡の旅が始まった。




